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143話 街で情報収集

 なんと言うか、普通の男。印象にも記憶にも残らなそうな、それ以外に表現のしようがないごく普通の男。そんな男が店の隅から近付いて来る。
 ……行動があからさま過ぎてアレだけど、あまりに普通過ぎて胡散臭さは感じないわね。
 あたしは帝国の人選もなかなかね、と心の中で苦笑した。もっとも、話を聞いてみるまでは分からない。善意の人の可能性も残されて……いないか。こんな怪しい酒場でマスターとアイコンタクトしてる時点でクロよね。

「どうも。皆さんお仕事を探してらっしゃるようですが。あ、いや、失礼。店の隅まで聞こえてしまいましてね」

 その男が人の好さそうな笑顔を浮かべて話しかけてきた。

「あなたは?」

 そう聞き返したあたしに、男は変わらぬ笑顔を浮かべたまま続ける。

「私は帝国軍で……そうですねえ、有望な人材をスカウトする、そんな仕事をしていまして」
「どうして私達を?」
「貴重な魔法スキル持ちだと聞こえましたので。どうでしょう、優遇しますよ?」

 一応、あたし達は相談する振りをした。いや、実際に相談はしていたよ? ただ、今このタイミングでこの男の口車に乗るかどうかを相談していたの。

「あー、ちょっと今夜一晩時間いただけます? 流石に即答は出来ないですよ。私達、自由を求めて冒険者になったんだし」

 うん、なかなかいい理由!
 
「……それもそうですね。では、明日のこの時間にまたこの店でお待ちしていますよ」
「ええ。分かりました」

 そうして男は、カウンターに硬貨を何枚か置いて店から出て行った。
 それじゃああたし達も宿でも探しにいきましょうか。

「ごちそうさま」

 あたし達もカウンターにエール代を置いて店を出る。
 街の様子はこれと言って変わったところは無いように見えるね。噂話なんかに聞き耳を立てながら、結局さっきのお店ではエールしか口にしなかったことを思い出し、屋台で食べ物を買い込んだ。
 ついでにオススメの宿もリサーチしておく。なるべく冒険者が泊まるような宿がいい。

「冒険者という稼業は、情報に疎いヤツは大成しないのさ」

 メッサーさんがそう言っていた。だから、冒険者が集まる宿だ。

「ここだね」

 屋台での腹ごしらえも済んで、リサーチしておいた宿屋を見つけた。

「いらっしゃいませー! お泊りですか?」

 宿屋に入ると、愛嬌のある可愛い女の子が声を掛けて来た。これが看板娘というやつね。

「ああ、一泊で。男が一人、女が四人なんだけど」

 レン君がそう告げると、看板娘ちゃんがパラパラと台帳のようなものをめくって空き部屋を確認しているみたい。

「えーと、じゃあ四人部屋と二人部屋のが空いてますけど、それでいいですか?」
「ああ、それで頼むよ」

 提示された金額を支払って、部屋の鍵を受け取りそれぞれ部屋へと向かう。当然レン君は一人だけ別の部屋ね。
 夕食の時には看板娘ちゃんが呼びに来てくれるようなので、それまではゆっくり休む事にした。
 レン君の部屋は廊下を挟んで向かい側だけど、別の部屋にするのは寝る時だけでいいので、今は四人部屋に集まっている。

「あの酒場でスカウトしてるってヤツ、例の首輪とか渡して来そうだよね」

 お姉ちゃんがニヤニヤしながらそう言う。これから悪戯をするのが楽しみで仕方ない、そんな顔ね!

「そうそう、そしてスカウトされて連れていかれたヤツを、その後見た者はいない、そんなオチが見えるようだね」

 メッサーさんも微笑を浮かべながらそう返す。

「それでどうします? 乗りますか?」
「この宿で情報が集まれば別に危険を冒す必要はない訳だし、今夜一晩情報を集めてからでもいいんじゃないか?」

 打って変わって真顔のヒメがそう言うと、レン君が意見を述べる。

「そうだな。食事が終わったら、またこの部屋で情報を纏めよう。食事は二人一組。レン君は一人でカウンター席、なるべく広範囲の話を聞ける配置で席を取ろう」
「「「「了解」」」」
 
 最後にメッサーさんがとりまとめ、全員が了承する。
 夕食まで特にする事もないので、このまま雑談などで時間を潰していると、看板娘ちゃんが呼びに来た。
 食堂へ行くと、程よい感じで他の宿泊客が集まっていた。ここであたし達は敢えて二人ずつに分かれ、相席を頼む。あたしとお姉ちゃん、メッサーさんとヒメのペアで。レン君はちょっと寂しそうにカウンター席に歩いて行った。

「すみませーん、ここ、相席いいですかぁ?」

 金髪ドリル美少女のお願いだ。男性冒険者なんてコロリよね。

「お? おう、でも他にテーブル空いてんぞ?」
「ええ、でも私達、今日帝都についたばかりで……いろいろお話を聞かせて下さいな?」
「そうかい。それなら、まあ……」

 てな具合で相席オーケー。自分達の食事以外に、相席のおにいさんにエールの一杯も奢ってあげる。機嫌を良くしたおにいさんはいろいろ話してくれたわ。どうでもいい話も多かったけどね。

「これは大きな声じゃ言えないんだが……どうも帝国軍がエルフの里に侵攻して何人か攫ったらしいんだ。でも謎の敵に攻められて、エルフの里から追い出されたってよ。攫ったエルフは奴隷にするのが狙いだって、もっぱらの噂だ。まあ、ここ何年か前からはあんまりいい噂は聞かなかったけどよ、最近の皇帝陛下は特に評判悪いぜ」

 うん、レジスタンスが広めてる噂(事実だけど)が確実に帝都まで広がってるわね。これでもっと皇帝に対する不信感が募ってくれば。

「それからな、最近胡散臭いヤツが軍で幅を利かせてるって話だ」

 おっと、ここから先は貴重な情報かしら?
 
「へえ~、胡散臭いって?」
「ああ、見た目は小太りの十七~八くらいのガキらしいんだが、何故か上の連中がそいつの言いなりらしくてな。軍で仕事してるダチがボヤいてたよ」

 うんうん、なるほど、ぽっちゃり君もなかなか評判悪いね!

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