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74 拠点

「ライくん! ルイちゃん! 無事だったのか! 良かった!」

 ふたりをカラムさんの小屋まで連れ帰って保護をお願いすると、カラムさんは涙ぐみながら飛びつくようにふたりを抱き締めた。

「痛いよ、カラムのおっちゃん」
「ん~、えっと……たまに村にお買い物に来ていたおじさん?」

 どうやらカラムさんはずっとここに暮らしている訳ではなく、森の調査のために数カ月おきに村とこの小屋で生活拠点を変更していたらしい。

 ひとしきり再会を喜んだあと、逃走で汚れていたふたりを近くの川から小屋の裏へと引き込んだ貯水池へと連れていき、ファムリナさんとミラにお願いして水浴びをさせる。一応念のために追記するとファムリナさんとミラは水に入らず着衣のままです。
 そして、その間に昼食としてインベントリに入れておいた料理を準備をしてふるまうと、ふたりはよほどお腹が空いていたらしく、目を輝かせながら無心に食べ、最後はフォークを持ったまま眠りに落ちた。
 そんなふたりをリビングのソファーに運び、そっと毛布をかけてから様子を見守っていたカラムさんへと向き直る。

「よほど疲れていたようですね。カラムさん、ふたりをここで保護してもらっていいですか?」
「勿論です、もともと小さな村です。住民たちはみな親戚のようなものですから、ただ」
「ただ?」

 カラムさんは思案するように視線を落とすとゆっくりと口を開く。

「私たちの村には少し事情があって、今子供と言えるのはライくんとルイちゃんだけなんです。だから村人たちは、何を差し置いてもふたりを逃がそうとしたはずです」
「そうですね、だからこそふたりはここまで辿り着けた」
「はい。つまりこの子たちは逃げ出した村人たちの先頭です。森の中心にある村を襲った魔物たちがそこから溢れたのなら、同じように魔物たちもここへ到着するころなのではないでしょうか?」
「なるほど……」

 森の中心から溢れた魔物たちは当然というか、必然的に森の外縁へと向かう。魔物から逃げてきたライとルイの兄妹がここまで辿り着いたということは同じ場所からくる魔物もここに現れる可能性があるということか。

「つまり、ここも襲われる可能性があるかも知れない。そう考えているんですね」
「はい。この森は餌が豊富ですので、いつもなら魔物たちもわざわざ人がいるようなところには出てこないですし、森で出会ってもお互いに戦いを避けることも多いのですが……」
「既に村が襲われている以上、ここが大丈夫だとは思わないほうがいいだろうね」
「……はい」

 私と一緒に話を聞いていたウイコウさんの言葉に私は頷くしかない。ちなみに他のメンバーはお茶を飲んで寛いでいるファムリナさん以外は、残った料理を奪い合うようにして争って食べている。子供たちが起きていたときはさすがに遠慮していたようだが……やれやれ。

「となると、子供たちやこの小屋を守るための対策が必要ですよね?」
「うん、中央からはかなり離れているということだから、それほど多くの魔物は来ないかも知れないけれど、護衛を残すなどの対策は必須だね」
 
 差し当たって私たちがやらなくてはいけないのは、ミスラさんを助けるための素材の探索と小屋の防衛か。仮に小屋の防衛にふたり残すとすれば、探索は4人になる。うちのメンバーなら4人でもそうそう不覚を取ることはないだろうけど。

「すみません、なにからなにまで……」
「いえ、放っておけませんから」
「ありがとうございます……」

 感謝を示し深々と頭を下げるカラムさんだが、なにか落ち着きがない。どうしたのだろうと思っていたら、髭をしごきつつウイコウさんが苦笑まじりで口を開く。

「カラム殿、まだ私たちに頼みたいことがあるのでは?」
「あ……はい、申し訳ありません! ここまでお力を借りているのに、まだ何かを頼もうだなんて、恩知らずもいいところだとは思うのですが……」
「そんなことないですよカラムさん。とにかく言ってみてください、私たちが出来ることであればお力を貸しますから」
「あ、ありがとうございます!」

 私とウイコウさんの言葉にまたしても目を潤ませたカラムさんは、ライとルイへと視線を落とす。

「……無理にとは言いませんし、なにかのついででもいいんです。もし……もし! 森の中で村人たちを見かけるようなことがあれば、助けてあげてくれないでしょうか」
「それは……もちろん構いませんが」
「本当ですか!」
「ええ……でも」

 私としては森の中で村人を見つけた時に力を貸すのは全然かまわない。でも広そうな森の中を、私のパーティだけが素材の探索をしながらうろつきまわるだけでは出会える村人はそう多くはない気がする。もし、村人たちを助けることが出来るのなら、ライやルイのご両親たちのこともあるし、ひとりでも多くの村人を助けてあげたい。でも、そのためには私たちだけでは手が足りない。

「うん、そうだね。ここの防衛、素材の探索、村人の捜索。全てを私たちだけでやるのは難しいだろう」

 私の視線を受けたウイコウさんが私の考えを肯定する。あのケビンとやらの言う通り、本来このイベントはいくつかのパーティが協力して進めるべきものなのだろう。だが、すでにスタートダッシュで森の中に散ってしまったイベント参加者に連絡をする手段はない。
 フレンドリストに登録してあれば、同じサーバー内に限り連絡を取り合うことが出来るが、私のフレリスにはリイドの住人とリナリスさんのパーティしか登録されていない。
 となれば……人の命がかかっている以上、出し惜しみをしている場合じゃない。

「四彩を召喚しましょう。アオに頼めば防衛を任せられるし、アカとシロに手伝ってもらえば探索範囲が一気に広がります。それにクロが協力してくれるなら部隊を分けても連絡が取れます」 
「四彩を表に出せば、いろいろ問題が起こる可能性があるけどいいのかい?」
「構いません。それでライとルイの両親や村人を助けられる可能性が上がるなら」

 僕や姉さんも早くに両親を亡くしている。あのときの喪失感は、できればこのふたりには味わって欲しくない。

「それでこそコチ君だ。では、外の広場を含めてこの小屋の周辺を拠点化しよう。同時に森の探索をして村人の捜索を優先しながら、同時進行で素材を探す。それでいいかい?」
「はい」

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