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狂宴-⑧-

 意識を失ったサキを支えるのは、二人の女性。

 一人は首筋を多く晒す、短髪。上半身は、肌着も着けずに革のジャケットだけを羽織っている。胸の双丘が形良い谷間を作り、腰と臀部も女性の羨む均等の体型であるが、大きな眼は何処か子供らしさを残していた。

もう一人の女は、鶏冠の様な陰影のローマ帝国兵の兜――ガレア――を被っていた。革ジャケットの女性と同じ体型だが、清楚さと落ち着きのある女性性が溢れている。

 革のジャケットの少女の視線は、ロックの方への敵視を隠そうともしない。

 ガレアの女の目は、宙に浮き、腕を組みながら、ロックとサキの交互で視線が揺れていた。

「やっぱり、あいつだ。あいつの臭いがする!!」

 宙に浮くジャケットの少女が、微かな光の花火を放ちながら、ロックに左人差し指を突きつける。

「ライラ……待ってください。確かに感じます。でも、なんでいきなり……」

「関係ないよ、ヴァージニア。ここに来てから、臭いがしていたんだよ。サキへの敵意が一杯あったんだよ。それに……」

 戸惑うガレアの女――ヴァージニアと言うらしい――に、短髪で上半身だけを纏ったライラは、芝居がかったように、台詞を言うように、

「サキに向けて攻撃してきたじゃない!?」

 先ほどのロックのバンクェットへの攻撃を、ライラと言う革ジャケットの女は、敵意と受け止めたらしい。

 二人の黄金比の体型を、雨粒が乱反射させる中、口論している。

だが、ロックの関心は、彼女たちの口論とは、別へ向いていた。

命熱波 (アナーシュト・ベハ )……」
 
ナノマシン:リア・ファイルの力で引き出された余剰次元の力を使うのに、必要な疑似人格は、概ね、平均的な人間の脳の () () () () () () () () ()ベッケンシュタイン境界に収まる。

命導巧 (ウェイル・ベオ )使いでも、脳内から、外に出ることは余りない。

しかし、それが外に表出していたことに、ロックは内心舌打ちした。

――暴走状態で出てきてやがる!?

  命熱波 (アナーシュト・ベハ )命導巧 (ウェイル・ベオ )使いは使役する。

しかし、使役される側が、それを自覚していない。

―― () () ()は、周りの手を借りて上手くいったが……。

 それに加えて、ロックに合った 命導巧 (ウェイル・ベオ )が、 () () () () () () ()ことも大きい。

同時に言うと、 命導巧 (ウェイル・ベオ )と言う力の受け皿も使いこなせなかったので、ブルース達に取り押さえられたのだが。

 サキの場合は、 命熱波 (アナーシュト・ベハ )が役割を弁えていない。

命導巧 (ウェイル・ベオ )も持ってない。

何より、ロックの鼓動を早くしている事実。

――しかも……それが、 () ()だと!?

 単純に考えれば、サキの中には二人の人格の異なる脳が、彼女の体一つに入っていることだ。 命熱波 (アナーシュト・ベハ )が、余剰次元の裂け目から、一人の人間では到底扱いきれない情報量を、体に入れている状態である。

 食物を摂取し、体内で変換されて溜まる脂肪と同じだ。

 脂肪は、運動や生活で燃焼するものだが、使わなければ、脂肪は物理的に貯まる。

 余剰次元を解放した情報量の場合、 命熱波 (アナーシュト・ベハ )を、 命導巧 (ウェイル・ベオ )なしで使うなら、サキの体は自身を燃やすしかない。

「二つのブラック・ホールに挟まれているのと同じ理屈だ。辛うじて、 命熱波 (アナーシュト・ベハ )が、サキを燃やさない様にセーブしているが、サキを守ったのと引き換えに――」

 ブルースが冷徹な事実を告げた。

 自分を守る力を得た代償として、自分が死ぬというとんでもない () ()、いや () ()がサキの中でせめぎ合っている。

 考えると同時に、ロックのブラック・クイーンの剣の滝が、ライラとヴァージニアと名乗る少女の電影の間に流れた。

――今、サキのナノマシンは……。

 力が暴走して、サキという宿主を危機に陥れている。

「サキを助ける。テメェらは失せろ!!」

命熱波 (アナーシュト・ベハ )の暴走を抑えるには、 命熱波 (アナーシュト・ベハ )を活動限界に追い込む――つまり、ロックの 命熱波 (アナーシュト・ベハ )命導巧 (ウェイル・ベオ )で、二人の電影を倒すしかなかった。

―― () () ()を助けられなかった。 () () ()の体や命も傷つける結果になることを恐れたからだ。

しかし、今は違う。

「サキを……人間として生かす。お前らが力に、概念になり果てた奴が見せるのは、現実と世界を歪ませる悪夢でしかない!」

 そうなれば、命を選ぶことになる。ロックは選ばされ、捨てさせられた。その悪夢をサキにはさせない。

「アタシたちは……サキを守るために在るんだ。 () () () () ()が、サキを傷つけるから!」
 
音の爆発と共に、紡錘型の光が現れ、ロックを堰き止めた。

 短髪のライラの右手が、 ()と化す。刀身は太陽の極光の様な眩さを放ち、右手首が太陽十字の金属の鍔となっていた。

「サキの為なら、そこでぐったりしている本人に了承を得たらどうだ? 守ってんのに本人を危険に晒してんじゃねぇよ!」

 ライラから放たれた光の刺突を受け止めていた護拳を逆手から持ち替える。

ライラの右腕を切断――いや、消滅させる勢いで、右から左への斬撃の爆流を起こした。

 雨粒に拡散される幻影の少女が、ロックの攻撃に苦悶の色を表す。

 宙に浮かぶ少女の斜め後方にいる宿主に目をやって、

「ふざけないでよ、アンタの中から () () ()を感じる。それが、サキを苦しませているんだ!」

―― () () ()の力?

 ライラの口から出た一言に、ロックの眉を顰める。

 彼女の言葉は、ロックの攻撃が直接の引き金ではない様だった。

 ライラの言い回しが、ロックの頭の中で何度も反芻されていき、一瞬、視界が歪む。

 今のライラの怒りの顔に、何故か () () ()が被せられた。

「アンタは……アタシを殺したヤツの力を持っている。アンタは皆を殺していく、サキも殺すつもりでしょ!?」

――何だと……!?

 言葉を詰まらせたロックに、ライラの光の細剣が右肩に突き立った。

 ライラの刺突の勢いに逆らわず、流して距離を取る。

 辛うじて深部への傷は避けられた。

 しかし、光の熱、肉の灼ける臭いと共に訪れた激痛に、ロックの意識が一瞬途切れかけた。

「お前ら……何だ!?」

 ロックの問いかけを途切れさせたのは、銃声だった。

 一発ではなく、連発させたもの。

 鼻を突くようなオゾン臭が、ロックの鼻腔を刺激すると、銃弾の軌道が雷の網を作る。そして、一際大きな、雷鞭が二人の女性に鎌首をもたげた。

「二対一ってのは、見ていて面白いものじゃないな」

 ブルースの攻撃である。天空からの二双の雷撃で、ロックとサキ――正確には、彼女にいる二人の幻影の女を引き離した。

 しかし、電影の女たちは、サキから離れたものの、彼女と距離を離して静止している。その距離は、二人とも三メートルをサキから保っていた。

「ロック、俺はライラとかいうのをやる。お前は、ヴァ―ッ!!」

 ロックにガレアの女―ヴァージニアを攻撃させる指示を出したが、ブルースの言葉が途切れる。

 煌く光がブルースを急襲したのだ。

 二対のヘヴンズ・ドライブを逆手に、両腕を盾に振り上げる。だが、苔色の戦士の両腕を、煌く弾丸が貫いた。

 地上にロックが目を向けると、ガレアの女の右手に目が行った。

 彼女の右手が、 () () () ()に変わっている。

 一メートル程の大きさの弓で、ブルースに狙いを定めた。

 弓引く淑女は、眼を闘争心で研ぎ澄ませながら、

「あなた達が、何者かには大いに疑問はあります。しかし、 () () ()() () () () () () () () ()
 
 ヴァージニアの視線は、獲物を視界に捉えた猛禽類。

 しかし、ロックが彼女の言葉で身構えた時には、既に終わっていた。

 ブルースの壊した煌き。

 それは、鉱石だった。

  命導巧 (ウェイル・ベオ )による、成分分析が追いつかない。

 しかし、成分よりも () ()が明白だった。

 結晶から光が煌いて、収束。

 光の矢がブルースを全方位から、撃ち抜く。

 結晶の表面に映る、嚇怒と悲しみに染まる瞳のライラが、右手首から延びる剣先をブルースに突きつけていた。

「サキの為と言うなら全力で来ることです。そして、私たちもサキの後憂を逃すつもりはありません!」

 ヴァージニアの放つ鉱石の弾雨が、ロックに向かう。護拳の盾を開いて作った電磁放射の傘が、鉱石の鏃を砕いていった。

欠片を散らせながら、ブルースの姿が映る。

() ()にしては……ずいぶん、手緩いな、嬢ちゃん?」

 ヴァージニアとライラの攻撃に、息絶え絶えにぼろ雑巾の様になった外套で、強がった。

 しかし、ブルースの満身創痍さが、ロックの中で不安の種を埋める。

「ロック…… () () () () () () ()から、後は頼む」

「再生能力が遅れる程、騒いでんじゃねぇ。寝てろ」

 ロックは、呆れながらも軽口で返答。

命導巧 (ウェイル・ベオ )使いは、リア・ファイルからの熱力を使って回復する

だが、リア・ファイルは 宿 () () () () () () ()の熱力量を、余剰次元から取り入れるのと引き換えに、宿主からも取るので、回復量には調整が必要だった。

――時間が掛かっている?

 ロックに 命熱波 (アナーシュト・ベハ )の使い方の手解きが出来る程、ブルースは実力者だ。

命熱波 (アナーシュト・ベハ )使いと戦うのも、当然、初めてではない。命の危険に関わるものだけを処置を優先し、戦線復帰を急かされたのも一度や二度ではなかった。

 戦歴を知るロックの前で、ブルースは苦悶と、微かに見せる戸惑いを滲ませる。

―― () () () () () () () ()ってことか?

 ロックは考えるが、ブルースの陥った事態の緊急度を探っても、意味は無いと気づいた。

異常事態でも、 () 鹿 () () () () () () ()が出来る。

 それ自体に、異常ではあるが、ブルースの命に影響が無いという意味でもあった。

 ロックは過去に言われたことを思い出し、不安を押し殺す。

 ブラック・クイーンの護拳で、ライラの右手剣からの薙ぎ払いを止めた。

「今、お前らが出ている時点で、サキは死ぬんだよ!?」

「じゃあ、お前が死ねばいいじゃん?」

 ライラの刃がロックの目の前で、煌く。

「そういう話じゃないの?」

電影の持つ円らな瞳が、猛禽類の鋭利さと肉食獣の獰猛さの笑みを作った。

灰色の雨天すらもかき消す程の眩い光が、少女を覆う。

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