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危機

 生きていく上で欠かせない食料危機が起こった、五〇年前までは到底考えられない世界ができあがった。

 発端は一〇年前に遡る。食料品を生産している世界中の人々がストライキを起こした。理由は販売価格が安すぎるとのこと。食料を賄っていることへの敬意を金で示すように要求してきたのだ。

 予期せぬストライキにより、全世界はたちまち大混乱に陥った。店頭価格は一気に跳ね上がり、もやしは一袋一〇〇〇円、他も追随するように価格が跳ね上がった。米にいたっては一キロ一〇〇〇〇円というかつてないほどに上昇した。

 トイレットペーパーが一時的に危機になったことはある。ただ、食料品がこうなるとは誰も予想していなかった。当たり前のように変えるものだと信じて疑わなかった。

 価格の高騰も命には変えられない。国民は食料品確保のために奔走した。食糧不足で悩んでいた戦後よりもずっとずっと壮絶だといえた。一番人気は長年保存の効く塩で、あっという間に底をついた。

 国から不当に押し付けられていたと感じていた生産者は、他人を助ける意欲を完全に失った。己の食料のみを生産し、他の人に行き届かないようにした。店頭からは食料品が姿を消すこととなり、最終的には販売店が姿を消した。

 強硬姿勢に出るものも少なくなかった。病院などに忍び込み、普段は厳重管理されている青酸カリなどの猛毒を入手した。それを川に流し、水分補給の道を絶った。サリンを地上に大量に撒き散らし、国を崩壊させる者までいた。抑えつけているほど、爆発したときはおぞましい。

 食料品を満足に食べられなくなった、大多数の国民は草にありつくようになった。草は生えてくるまでに時間がかかるため、水だけで飢えを凌ぐこともあった。流れている水は猛毒に侵されているため飲料水として使用できない。それゆえ雨水だけがたよりだった。太平洋側は冬に雨が降らず水分を確保できないため、日本海側にこぞって移動した。車にガソリンが残っているものは車で移動するも、ガソリンをほとんど使い切っていた者は自らの足で食料を確保できる地域に移動した。

 戦時中さながらの光景も蘇った。人間の肉を食ったり、虫、種類のわからないきのこなど食べ物になりそうなものを全部食い漁った。

 これらは数日間の飢えをしのぐことはできるも、食料を確保することはままならなかった。死体を食にすることで、健康を害して息絶えるケースは珍しくなかった。

 衛生状態のままならない生活により、全世界の九九パーセント以上の人間が息絶えた。生命力を伴った者たちが生きる術を模索する日々を続けている。

 残った者たちは助け合いながら生きるようになった。贅沢を失った民は助け合う心を学び、新たな世界を作り上げている。食料品が店頭から提供されなくなったことにより、多くのものを失うも、原点回帰した人間はより温かい世界観を構築した。

 今回の事件は悪いことばかりではなかった。人類がこのまま増え続け、二酸化炭素等の有毒な気体を大量に排出していたら地球は崩壊していた。異常な温暖化により、南極や北極の氷はほぼ完全に溶けてしまった。オゾン層も完全に破壊され、地球はバランスを失った。いじめられ続けた地球から人間に制裁が下るまでの猶予はほとんど残されていなかった。

 生産者の暴動は陰ながらではあるものの、本当の意味で地球を救うこととなった。今回の事件があってもなくてもどのみち人類の大半は絶滅せざるを得なかったことに変わりない。

 地球が正常な状態に戻りつつあることで、絶滅していた動物も次々と復活を遂げていくこととなった。人間の勢力図が縮小したことで、数千年前さながらの地球を復活するきっかけとなった。

 北極及び南極の氷は形を完全に取り戻した。オゾン層も太陽の有害物質を完全に吸収する力を取り戻した。

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