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仙水と新しき道

新しい陰陽師の仕事場の完成で引越しを終えた元道。
仕事場に情報を持った地竜が飛び込んでくる。

「元道さん、伝書(ニュース)だよ。」

高名な医者が妖し化した患者に効く仙水という薬を開発したらしい。

「柚樹に飲ませれば、陰陽師狩りが止むと思う。」

朱雀の意見には賛成だが、あいにく家宝の霊符は使ってしまって、柚樹に勝つ見込みは無い。

「なら、酒呑を倒した陰陽師と対決してるときに、こっそり飲ませれば?」

飲ませたらで今度は猛る陰陽師を誰が抑えるのだろうか。

「それは説得しかないよ。」

仙水を開発した医者、藤村先生のもとに、朱雀と2人で薬を買いに行く。

「元道さんは買えるけど、この額ふつうの都の住人は買えないよ。」

結構な銅銭を持ち運ぶので、朱雀の荷物は重くなっている。
藤村先生の庵に着く。

「ほうほう、大事な人が妖しになってしまったんですな。」
「お薬はありますでしょうか。」
「いいでしょう。」

話し中に都の帝の使者が藤村先生の庵に入ってくる。

「ふむふむ。」
「元道さん、どうやら出番のようですね。」

その頃、都の宮殿では一大事が起っていた。

「誰か、侵入者であるぞ。」

衛士が大声で援護を求める。
帝を守る武士が集まってくるが、たったひとりの妖しに歯が立たない。
しかもその妖しは宮殿に異界の門(アストラルゲート)を作ると妖しをさらに増やし始める。

「陰陽師を呼べ。」

近くに居る陰陽師といえば、大江山へ鬼退治に行った高位陰陽師と、近場の診療所の藤村先生の所にいる元道だけだ。
元道は呼ばれると宮殿に駆けつける。まだ高位陰陽師は到着していない。

「柚樹か・・・。」

宮殿に来たものの、空には鳥型の妖しが飛び、地には猿だか虎だか得体の知れぬ妖しが這っている。

「朱雀、やれるな。」
「おいらに任しといてよ。」
「雲入道まで出てくるとはな。」


丁度その頃、宮殿の反対側の門から駆けつけた高位陰陽師は、妖しの少ない側だったために柚樹と先に対面する。

「大江山で会った妖しか。少しは強くなったのか。」
「オレは貴方を倒すために、陰陽師を狩り続けました。そして。」
「貴様の小さな世界にどれほどの価値があるのか、見せてもうらおうじゃないか。」

外套を翻すと中からすでに召還していた英霊姫が姿を現す。
高位陰陽師は鋭い目付きで睨みつける。

「ほお、ではこちらも。」

軽く呪言を唱えると、地中から鬼の形が浮かび上がる。

「まさか、酒呑・・・!?」
「そう、君の友人だ。」

柚樹は酒呑にこちらに来て陰陽師と戦えと言うが、全く相手にされない。

「彼は、私の配下となって君と戦うことを了承してくれたのだよ。」

柚樹は陰陽師に攻撃をかける。
対する酒呑は、陰陽師の傍から離れると機械式の弓を取り出す。矢を番えるときに、ハンドルを回す。
酒呑の弓の銀色の回転軸がシュウィウィンと音を立てる。

敵を(たお)すのは古き刃。           ヤマトタケルがかつて倒した多頭の大蛇。
遠き理想郷(ユートピア)から渡りし英霊姫。       この大江山の鬼も彼に匹敵する力を持つ。
理想郷とは、妖樹の姫の住んでいた冠島(アヴァロン)。  一度に番えるは8本の矢。
友を取り戻すために。           かつての友に力を見せつける為に。

至高にして絶対的な大地を砕く蒼穹の剣――――
爆裂八矢――――

凄まじい熱量と風圧が2人の英霊の間に巻き起こり、そして何もなかったかのように静まり返った。
召還した2人の英霊は、姿を消している。相打ちである。

タイミングよく雲入道を倒した元道が柚樹の後ろから出てくる。

「間に合ったようだ。」

元道は衛士や陰陽師との戦いに疲れている柚樹を術で縛ると、朱雀に持ってきた薬を飲ませるよう指示する。

「何をする!」

柚樹の抵抗は虚しく妖しの力が消えていく。

安全を理解したのか、帝が宮殿の奥から中庭に面した部屋に下りてくる。
柚樹との戦いを続けようとする陰陽師を制止し、元道は声をかける。

「恐れながら天子様。」

元道は高位陰陽師の前に出ると申し出る。

「この者は妖しに憑かれていた一般人。罪は妖しにあります。」
「畏れ多いぞ、元道。」

高位陰陽師は根源を断ちたい。
しかし事情に詳しくない帝は、開いている御簾の中から声をかける。

「ふふふ・・・面白いことを言うやつだ。気に入ったぞ。」
「では柚樹は。」
「良かろう。その柚樹とやらの罪は問わずとしよう。元道が預かるがいい。」
「ありがたきお言葉です!」

高位陰陽師は「このお人好しめ」と言いたげな鋭い目付きで元道を見る。
だが、元道は素知らぬ風を装う。
咲きはじめた梅の花の香りが辺りに漂っている。
元道たちは宮殿を後にして砂利道を帰っていった。

頃は平安末期。
これから動乱の時代に入ろうと、彼らの新しい生活は幸せに満ちていた。

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