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不死者の根源

柚樹についての良からぬ情報が飛び交っている。

「陰陽師なら見境無く一家を滅ぼす。」

朱雀は元道の気持ちが心配になって訊ねる。

「数年前の出来事について説明する日が来たかな。」

元道は不死者の源泉について語るべく、朱雀、地竜を妖樹の元に案内する。
妖樹は樹齢が長い木ではあるが、それ以外に逸話が残っている。

「姫様がここで自害したんだっけ。」

話だけ聞くと怨霊の棲家のような場所ではあるが、そうではないらしい。
それ以外にも柚樹との思い出の記憶のほうが強くなっている。

「樹の妖しと柚樹が契約したんだ。」

想いの相手が目の前から消える感覚。

「今も変わらないけど、権力を持つ都の人々に柚樹は絶望していた。」
「でも妖しになって暴力振るっても解決にはならないのにね。」
「朱雀は、そう思うか。」
「元道さんもそう思うんでしょ?」

答えない元道に不安げな朱雀。
柚樹が暴力を振るってでも解決するかもしれないという感情が、言葉を喉の奥に押し返す。
何か情報(てがかり)を欲しくて来たのか、思い出に浸りに来たのかは分からなくなってしまっている。

「これ置いておくか。」

十字の首飾りの断片をそっと木に引っ掛けた。

「柚樹の代わりの思い出の品じゃないの?」
「柚樹を止めたいんだ。」

元道はこんな代わりの断片ではなく、本当は取り戻したい。
朱雀がいる手前、止めたいという言葉で返すのが限界だった。

或る陰陽師の家。
酒呑の件以来、残酷な感情に支配されている柚樹が一般の陰陽師に攻撃をしている。

「わ、わたしは何でこんな目に。」

見習い陰陽師もいたが討ち取られて彼ひとり。
しかし由緒ある法術士でもある彼はただで倒される小物ではなかった。

「紛うことなき真実をその眼で見よ。namaḥ samanta。き、効いた。」

柚樹の頬に一筋の線が刻まれる。
ここ何軒かの陰陽師を倒したが、傷を付けられたのは初めてだ。

「ほお、人間にしてはやるな。」

敵を(たお)すのは過剰な力。
遠き理想郷(ユートピア)から英霊姫を召還する。
理想郷とは、妖樹の姫の住んでいた冠島(アヴァロン)
差別はなく、笑顔に包まれる暖かい土地。

「至高にして絶対的な――――」

「そこまでだ、柚樹!」
「元道!?」

妖樹の場所から帰りがけの元道が、喧騒を聞きつけて他所宅に入り込んできている。

「冷静になってくれ。他の解決はないのか。」
「お前には何が分かる。」

言葉で時間を稼ぎながら、陰陽師の近くに来ると、呪言を唱え始める。
柚樹の力は安部晴明の側近には届かないが、元道の力を遥かに超えている。ならば。

其は無限の宙。
其は想像の領域。
其は天雷の申し子。
其は外すことなく。

呪言と共に礼装が(なび)いて、仄かに竜涎香(アンバーグリス)の香りが感じられる。

「 無《む》 想《そう》 天《てん》 外《がい》! 」
「 ――――大地を砕く蒼穹の剣! 」

天空から軌道を変えた隕石が飛来し、想いに応えて英霊姫の剣と相殺し、押し返す。
凄まじい熱量と風圧が2人の間に巻き起こり、そして何もなかったかのように静まり返った。

「馬鹿な。下っぱ陰陽師の出せる技ではないぞ。」

柚樹は想像もしていなかった出来事に声を失う。
元道も柚樹の妖しの力がここまでとは想像しておらず、動揺は隠せない。

「家宝1個駄目にしたが。」

元道の手元の古そうな霊符が砂のように崩れ落ちる。
柚樹は苦しそうな表情を見せると樹の妖しの姿になって地面に潜り込んだ。

「助かりました。」

駆け寄ってきた陰陽師から言葉をかけられるが、元道は虚ろな表情をしている。

「柚樹・・・。」

そう、何も解決はしていないのだ。

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