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第一話


 今日も目が覚めた、白い天井を見つめる。

 目が覚めなければいいと本気で思った。私が死んでも誰も困らないし、悲しみもしないだろう。

 両親は殺された・・・。弟も殺された・・・。祖父母も殺された・・・。なんで、私も一緒に連れて行ってくれなかったの?

 マスコミを名乗る狂人が今日も家の外に居る。
 あの人達は、私が死んだほうが良かったと思っているに違いない。窓からカーテンを少し開けて外を見る。やはり、狂人が沢山居る。そんなに、私が生き残った事が不満なのだろうか?

 学校からもやんわりとだけど、登校してこないように言われた。
 もともと、学校なんて面子で行っていたような物だ。こんな状況で行こうなんて思わない。

 スマホも解約した。
 もともと、メッセのやり取りをする友達も、心配して電話をかけてくる友達も居なかった。

 私の両親と弟と祖父母を殺した奴が捕まった。
 ただ、そこに居てむしゃくしゃしたから殺した。たったそれだけの理由だ。

 狂人の中の1人が面白そうに教えてくれた。
 私に何を言えというのだろう。悲しいですか?って聞かれて、悲しくないと答えるとでも思っているのか?

 私の両親と祖父母が多額の保険金に入っていた事がわかった。
 全員で2億円にもなるようだ。これも、狂人が嬉しそうに笑いながら教えてくれた。

 嬉しいですか?
 そう聞かれて本当に狂人だと思った。2億円。確かに大金だ。大金だが、私は2億円を得るよりも、両親と一緒に約束していた京都旅行に行きたかった、冬に白くなる庭を眺めながらこたつに入って祖父母とみかんを食べたかった。弟と喧嘩しながら楽しくゲームを楽しみたい。
 そんな些細な幸せを、たった2億円で売り渡すとでも思っているのか?聞いてみたい”貴方に2億円全部上げるから、両親と弟と祖父母を殺させてくれ”と、狂人なら喜んで許可してくれるかも知れない。

 立ち止まって睨もうかと思った。
 狂人には何を言っても通用しない。彼らは、私の反応を楽しんでいるだけなのだ。

 狂人は”私が2億円をもらう事がわかった”と記事した、そして”せめてもの慰め”なんてもっともらしい言葉を付けてくれた。

 それから、親戚を名乗るハイエナからひっきりなしに連絡が来た。
 私は電話を解約した。

 父親がやっていた会社から弁護士を名乗る人物がやってきた。
 会社を専務達が買い取りたいということだ。私に、17歳の女子高校生に会社経営なんかできるわけがない。そんなことくらい私にも理解できる。理解できるが納得できる事ではない。祖父母が立ち上げて、父が大きくした会社を何もしていなかった人たちが後を継ぐなんて考えられない。
 最初にそう伝えた。次に、条件なる物を持って弁護士が訪ねてきた。

 会社の時価総額の倍で買い取りたいと言ってきた。
 専務たちがマスコミを名乗る狂人に私が理不尽に値段を釣り上げていると情報を流した。
 そして、法律的な事を偉そうに2時間に渡って話していった。

 私は、会社名を変更することを条件に相場で会社の売り渡しを承諾した。

 祖父母と両親と弟が眠るお墓の掃除をして、49日法要を行ったときに、専務達は1人も現れなかった。祖父母の時代から会社に尽くしてくれた人たちだけが集まって、祖父母との苦労はなしを面白おかしく話してくれた。
 残っていた、祖父母の時代から会社に尽くしてくれた人たちが集まって”新しい会社を作りたい”と相談してきた。私は話を聞いて承諾した、専務たちから貰ったお金を全部渡した。
 それをおもしろおかしく狂人たちは”報道”という言葉の暴力で私を殴り続けた。

 私が苦しんでいるときに、手を差し伸べてくれたのは、学校の先生でも、友達面した知り合いでも、声さえ聞いたことがない親戚でも、家の前に張り付いている狂人でもなく、祖父母と苦楽をともした他人だった。

 他人は、私に優しいだけではなかった。厳しくもあった。
 他人だという事が解っていて、それでも親切にしてくれる。そこには、祖父母から受けた恩を返すためだという言葉が付けられる。

 祖父母の所から巣立って会社を立ち上げた人が私の相談に乗ってくれた。

 助言に従って、私は街を離れる事にした。
 この国はおかしい。加害者を保護する制度は充実しているのに、被害者が保護されない。私は、引っ越しを行ってもすぐに狂人や狂人予備軍に追いかけられる。

 私は、私を知らない場所で静かに暮らしたい。
 私の願いが聞き届けられる事はなかった。

 それだけ、ショッキングな事件だったのだ。
 犯人が捕まってからも、連日報道されているようだ。私の声は誰にも届かない。

 私が、加害者なら保護されたの?
 私は、祖父母も両親も弟も殺されたのだよね?私が殺したの?

 狂人どもはインターホン越しに状況を面白そうに話してくる。
 私が求めていないことまでいろいろだ。

 犯人の名前を聞いて、何を答えらた満足するの?
 犯人の人相を見て、知っていますか?だって馬鹿じゃないの?
 犯人の母親や父親に言いたい事?有ると思っているの?
 犯人の生い立ちを聞いて私にどうしろと言うの?

 刑事を名乗る人が何度か訪ねてきた。狂人が家の前に居ると知ると、警察署に来てくれないかと言われた。家に電話もスマホも無い事を告げると、無いと不便ですと言われた。不便かどうかを警察が決めるの?
 警察も狂人が居る所に来たくないのだろう。数回来ただけで来なくなった。そのかわりに、手紙が投函されるようになった。それも煩わしくなって、ポストを塞いだ。

 宗教家を名乗る人たちも沢山来た。
 祖父母と両親と弟を霊界から呼び戻すと言われた。馬鹿じゃないの?そんな事で、1億も払うと思っているの?頭の中にウジ虫でも詰まっているのかと本気で思った。死んだ者は生き返らない。歴史が証明している。

 犯人が捕まれば落ち着くかと思ったが、そうはならなかった。
 犯人は少年犯罪で服役した前科を持っていた。再犯だったのだ。それで、また狂人が騒ぎ出す。

 私は、被害者だよね?

 被害者面するなと怒鳴られる。どうしたらいいの?私も両親や祖父母や弟と一緒に殺されれば満足だったの?それとも、自殺したら、この狂人たちは満足してくれるの?

 やっと静かになった・・・。
 私の周りに平穏が訪れる。

 はずだった・・・。
 今度は、2億の金がほしいのか、いろんな人たちが現れる。
 小娘1人説得できないような稚拙な詐欺話や、困っている人に寄付してくださいとかいうふざけた話。

 私は、自分が一番不幸だとは思わない。
 思わないが、目の前に座って、寄付の重要性を説いている、両手に高そうな指輪をはめて、安っぽい香水の匂いをばらまいて、2cmはあろうかと思う化粧をして、ブランド物の服とバッグを持った人よりは不幸だと思っている。寄付するにしても、こんな女性(ババア)が理事をしている団体よりは、犬猫の里親を募集しているような団体に、殺処分をなくすために活動している団体に寄付する。弟が好きだった猫を一匹でも救うほうが喜ばれるだろう。

 私が首を立てに振らないとわかると悪態を吐きながら帰っていく。
 そんな黒く汚い人たちを見ていた。

 1年が過ぎて、学校から退学通知が届いた。
 自分たちから来なくていいといいておきながら、本当に通わなくなったら、退学にする学校に未練なんてなかった。祖父母の仲間に相談して紹介して貰った弁護士に学校に質問状を出してもらった。
 学校からは期限中に返事をもらえなかった。
 弁護士に礼金を払おうと金額を聞いたら、すでに貰っているから大丈夫と言われた。

 2年が過ぎて、裁判が始まった。
 そこで、また狂人が騒ぎ出す。同じことの繰り返しになるのがイヤで、弁護士に相談した。
 今度は、私がお金を払って雇う事にした・・・が、お金はすでに貰っていると言われてしまった。狂人への対応を全て行ってくれる事で、私の周りは平穏になっていた。

 裁判は、意味がわからない状況で推移していく。
 最低でも極刑、最高でも極刑だと考えていた。薬をやっていて、心神耗弱?意味がわからない。たった9年。9年の服役で奴は罪を赦される?

 少年犯罪の加害者で、内緒にして勤めていて、職場にバレて薬に手を出して、むしゃくしゃして殺した?
 殺したときには、”むしゃくしゃ”していたのでしょ?それなら、責任能力があると判断できないの?

 21歳の奴は9年後に30歳。十分やり直せるだろうだって・・・笑っちゃう。

 法廷でそれを聞いたあとで狂人が感想を求めてきた。
 笑ってしまいそうになった。何を言ったら満足するの?私に何を言えというの?狂人は何年経っても狂人のままで安心した。何も答えない私に文句を言い出す狂人も居る。なんとか言えとか言われても貴方が同じ立場になったときに、是非その答えを聞きたい。

 9年・・・9年・・・私から些細な幸せを奪った男が、9年で許される。贖罪を済ませて白い身体になって出てくる。

 そうだ、狂人を利用しよう。
 私は決めた。私が被害者だから、誰も何もしてくれない。なら、私が被害者以上に異常な状態になればいい。私が悲しみに泣いて苦しめばいいのだ。

 まずは手始めに、加害者の両親に会おう。生きているのなら祖父母にも会いたい。
 狂人にそう告げると、喜んで動いてくれる。

 彼の両親は、泣きながら私の前で土下座した。
 別に土下座なんてしてくれなくていい。土下座されて、泣かれても、私が被害者である事実は変わらない。私が被害者だから、狂人がわけのわからない質問をしてくるのだし、9年後にまた苦しまなければならない。私は加害者になりたいのだ。そう、両親と祖父母と弟を殺して、私を殺さなかった彼を殺して、私が加害者になる。

 彼の両親から、お金を渡された。
 一度受け取ってから、土下座する彼の両親の目の前に座ってお金を両親に返した。
 そして、耳元で囁く”謝罪は受け取りました。お金も受け取りました。祖父母と両親と弟の値段がはっきりしました。ありがとうございます。そして、このお金で、あなた方の息子さんを買い取ります。9年後に私が彼を殺します。お許し頂けますよね?”
 呆然とする両親を残して、私は帰路についた。
 これで、あとは9年後に彼が出てきたら殺せば私が加害者になれる。彼の両親の真意はわからない。わからないが、謝罪がお金になるのなら、私が持っているお金全部渡すから、彼を殺させてくれと願うだけだ。

 彼の両親の承諾も取れた。彼を殺す準備を始めないとならない。

 それからも何度か、彼の両親が私に会いたいと言ってきたが、もう話す事はないし、謝罪の必要もない。狂人だけではなく、弁護士を通して話をしても結果は同じだ。
 警察が訪ねてきた。
 彼の両親が相談したようだ。馬鹿だな。警察にそんな正直に話すわけ無いでしょ?
 私は、悲しみで気が狂っただけだと狂人も言っている。警察が来たら普通に話すだけだ。

 私は、まだ被害者でしかない。加害者になれていない。加害者になれば国が守ってくれる。

 私は可哀想な被害者だ。狂人が話している声が聞こえる。私の事を気が狂ったといい始めている。

 彼の両親に承諾を取ってから、1年。狂人も姿を見せなくなった。
 定期的にたずねてくる1人の狂人以外は誰も来なくなった。

 9年が経った。
 やっと明日私は加害者になれる。

 生命保険で手に入れた2億円は一円も手を付けないで、弟が好きだった猫の殺処分をなくす団体に寄付をした。昨日、入り直した高校の定時制も無事卒業できた。バイトとして雇ってくれたお弁当屋さんも辞めてきた。迷惑がかかるかも知れないと最初に言ったのに雇ってくれた。最後にもう一度だけ唐揚げ弁当を買ってこよう。贅沢に”のりから”にしようかな?そうだ、味噌汁じゃなくて、奥さんが作っている豚汁にしよう。
 彼が出てくるまで外で待たないとならないからね。身体が冷えたら、いざってときに動けないと困るからね。

 彼の出所は、優しくも愚かな狂人が教えてくれた。私が加害者になる事を諦めたと思ったようだ。
 そして、当時の事を思い出しながら、気持ちが落ち着いたと話したら、いろいろ教えてくれるようになった。私も彼女にはいろいろ話をした。家族の事や彼の事をどう思うのか・・・。そして、2億円の使いみちも彼女にだけは教えた。この部屋も彼女が手配してくれた。

 白い壁が印象的な部屋だ。
 天井がすごく気に入っている。高校生の時に住んでいた部屋と同じ、真っ白な天井だ。部屋の中の物も処分した。残っているのは、祖父母が好きだった白色のテーブルと母が使っていた白いドレッサーとタンスだけだ。
 テーブルの上には、部屋の鍵と彼女に宛てた手紙と、彼のご両親に向けた手紙と、眠っている家族への手紙を残した。テレビも何もない部屋。でも、私はここで過ごした加害者になる事だけを考えて過ごしていた。

 あぁ待ち遠しい。
 ”のりから”美味しいな。明日から食べられなくなると思うと少し悲しいけどしょうがないよね。豚汁も最高だな。寒いときにはぴったりだよね。いつくらいに出てくるのだろう?
 教えられた通りだといいな。彼女の話だと、彼は両親にも連絡していないらしい。今日がいい天気で良かったな。昨日買ったナイフもしっかり持ってきた、胸を刺すよりも首を狙ったほうがいいって本で読んだ。
 そう言えば、あの図書館来年には無くなってしまうって言っていたな。時間が有るときに何度も通った図書館がなくなるのは寂しいな。

 朝から雪とか言っていたけど、そんな事もなくてよかった。
 寒いのは苦手だけど、吐く息が白くなるのはなんだか嬉しい。私が加害者になっても、吐く息は白いままなのかな?
 しっかり、彼にわかるように、あの時と同じ服を着てきたけど気がついてくれるかな?
 白い服。そうか、彼は白い色が見えないのかな?
 両親も祖父母も弟も色が付いた服だったからな。私だけ白い服を着ていたから、私が見えなくて、私を殺してくれなかったのかな?私を被害者のままにしておくなんて酷い人だよね。私も一緒に殺してくれたら、私が加害者になる事もなかったのにね。

 あぁ彼が出てきた。
 白いシャツを着て、黒っぽいズボンを履いている。
 あぁ伸びをしている・・・これで、真っ白な身体になれたのだね。良かったね。これから、被害者になれるのだよ。私と立場が逆になって嬉しいよね。
 しっかり、彼を殺さないとね。彼が、被害者になって狂人に囲まれるのは可哀想だよね。

 大丈夫、しっかり練習してきたから!
 しっかり殺してあげるよ。

 白いシャツを真っ赤に染め上げてあげる。彼がやったように、私の両親と祖父母と弟を殺した時と同じ様に、しっかりと殺してあげる。
 そうしないと、彼が私と同じ苦しみを味わってしまうからね。

 私の白いシャツを彼の血で染めて、それから、私自身の血で白い服を真っ赤に綺麗にしないとね。

しおり