バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

プロローグみたいなやつ

 イヤホンを耳に差して、電車に揺られる毎日を送った。
 音楽を聴くのはとても好きだが、今現在僕の耳に流れているのはプロの加工された美声ではない。
 本物を今、聞いている。
 閲覧人数は裕に4桁は超えていた。
 朝の通勤通学時間、この配信アプリでこの閲覧人数はかなり多い。
 少女の声が俺の中で響く。
 ギターの弦を弾く音が耳を癒し、声とのハーモニーが心地いい。
 孤独な俺に、世界をくれた。
 それはまるで、時の魔法だった。
 電車が駅に到着するまでの、癒しのひと時。
 この時間だけは、俺の全てを忘れさせてくれた。
 駅に停車する瞬間、その夢から現実へと引き上げられる。
 イヤホンを耳から外し、スマホの画面から、配信アプリを消した。
 今日はここまで。
 俺は高校三年間、この生活を続けた。
 そして、大学に入ったらもっと聞く時間が増える。
 そう思っていた……。
 高校卒業を控えた時期、突如として、彼女はネットから姿を消した。
 心にどこか、ぽっかりと穴が開いた気がしたのだった。

しおり