バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第19話 罠のダンジョン

 ずっと待ってるのも暇だったから、衛星に小屋を新調してもらった。
 二階建てで六畳の部屋を六部屋、風呂は別だけどトイレは一階にも二階にもあるログハウス。
 もう、このままここに住めばいいじゃんって感じの家ができた。もう小屋とは呼べないね。

 場所がある時はいいけど、森の中で場所が無い時なんか使えないかも。ま、その時は衛星に場所を確保してもらえばいいんだけどね。
 森の中ならならマイアが得意だからやってくれるかもね。

 夕食時になって、ようやくダンジョンから出てきた。何やら全員機嫌が悪そうだ。
 これは誰から声を掛けるべきか。やっぱりユーかな? クラマとマイアは明らかに見て分かるぐらい機嫌が悪そうだし、ユーなら邪険にされる事はないだろ。

「ユー?」
「なにっ!!」
「い、いえ、食事の用意はできております、です、はい」

 やっべー、ダメだ、ユーもキレッキレだわ。
 いったい何があったんだよー。

「プリ?」
「……」
「い、いえ、なんでもありません」
 凄っげー睨まれた。どうしたの#皆__みんな__#、何があったのー。

「シェル?」
「ああああああ参ったわ~、もう何なのよ、このダンジョンは」
 よかった、シェルはまだ何とか話ができそうだ。

「どうしたの? 何があったの?」
 そう言って水の入ったコップを差し出した。

「あんがと。こんなダンジョン初めてよ。よくもこんなダンジョンを見つけてきたわねぇ、極悪にしても程度ってものがあるでしょ」
 そんなに酷いダンジョンだったの? だから皆怒ってんの?

「魔物なんてぜーんぜん出ないし、そのくせ罠は異常なぐらいあるし、しかも極悪な罠だし。達成させる気なんてないんじゃない?」
 魔物が出ないって、そんなダンジョンってあるの?

「魔物が出なかったの?」
「ええ、一度も出会って無いわ。五階層までしか行ってないけどね」
「クラマやマイアがいて五階層までしか行ってないのにこの時間になったの?」
「ええ、極悪な罠なのに往復であるのよ。帰りは違う罠になってるし、もうホント極悪よ極悪」

 魔物が出ないダンジョンか。そんなのもあるんだね。
 だからクラマとマイアの機嫌が悪いのかも。暴れ足りないって言いそうだ。
 ユーとプリは、シェルと一緒で罠が酷くてイライラしてるのかな。
 予想と違ったダンジョンでしかも酷い罠に何度もかかってストレスが溜まったんだろう。
 罠ね、俺って罠にかかるのかな?

 険悪な雰囲気だったので、少しでもストレス発散になるかと思って食事の時にはお酒も出してあげた。
 お酒を振舞ったけど、悪い雰囲気は変わらず、クラマは酒を飲んだら出かけて行ってしまったし、マイアも森林浴に行くと言って出かけてしまった。残りの三人はヤケ酒モードに入ってるし…誰だ、酒を出した奴はって俺なんだけどね。お酒を出したのは失敗だったかも。

 本当ならユーとまったりってのもいいと思ってたんだけど、この雰囲気じゃなぁ。俺ももう酒で失敗するのも懲りたし。でも、あれはある意味成功と言ってもいいかもな、ちゃんと記憶があればだけどね。


 こんな状況だから俺もこの場から離れたいし、今の内にちょっとダンジョンを覗いて来る? 俺に罠が効くのかどうかも試したかったし、ちょっとだけ覗いてみようか。
 念の為、地図を確認っと。なになに、地図に書いてるダンジョン名は『#百罠繚乱__アトラクション__##迷宮__・ダンジョン__#』……罠だらけみたいなダンジョン名だったんだ。あれだけ見てたのに今勘違いに気が付いたよ。だってそこまで極端なダンジョンなんか無いって思いこんでたから、百花繚乱だと思ってたもん。


 だけど、俺には衛星が付いてるんだし、今後の為にも俺に罠が発動するのか試しておきたいんだよ。
 ダンジョンの入り口前に皆がいるんだし、ちょっとぐらいなら大丈夫だろ。罠が発動するのが分かればすぐに帰って来ようっと。と思って来てみたんだけど、罠なんかどこにあるのって感じ。
 恐る恐る歩いて来たけど罠なんか一度も発動しない。
 衛星の誘導もあるから道に迷う事はないけど、たぶん、十五分もあれば来れそうな距離に一時間ぐらい掛かっちゃったよ。

 ヘタレって言うなよ? 慎重と言ってくれ。

 二階層目に下りる階段まで来たけど、今日はもう遅いから引き返そうか。いや、待てよ。明日もどうせ一人で来るんだから、明日の為に階段を下りて二階層目の雰囲気だけでも見ておこうか。と思って、階段を下りてみた。
 様子見だから雰囲気だけ確認すればすぐに帰ろう。

「ん? 衛星、そっちに何かあるの?」
 衛星が階段の隣の部屋へ来いと言ってる? 珍しく衛星が俺の周囲に二個だけ残り、十一個に衛星が隣の部屋の入り口で固まっている。

「どうしたの? 衛星が主張するなんて珍しいね」
 衛星に誘導されるまま隣の部屋に入ってみた。

「別に何も無いね。何だったの?」

 ガコン!

 衛星に聞こうと思った時、何かの音がした。

 え? 罠? ……ウソ!?

 足元から床が消え、そのまま俺は部屋から姿を消した。

 うっそ~ん

「おおおおおおおお! 衛星ー! なんでぇー!」

 ここまで罠に掛からなかったから衛星が守ってくれてると思ってたんだけど違うのー? 一階は誰が行っても罠が発動しないとか?
 衛星がこの部屋に誘ったように思ったけど、まさか衛星が裏切った? いやいや衛星がそんなことするはず無いよ、何か理由があったんだよ。

 そう思ってる間にも俺は滑り落ちている。滑り? 落ちる?
 あり? 何かすべり台のようなもので滑り落ちてる? いやいやその割には浮遊感が半端ないんですけどー!

「衛星、もっと明るくしてー」
 少し明かりはあったが、滑ってるのか落ちてるのか分からないのでもっと明るくしてもらった。

 そこは直系一メートルぐらいの石のパイプのような所だった。
 傾斜は僅かについているようで、片側の面を滑ってる感じはあった。
 でも、でも、これって、落ちてるのと変わんないってー!

「うわあああああああ! 衛星ー! 衛星ー! これヤバいって! 助けて―――!」

 頼むのが遅かった? 背中から密着感が多くなってきたって事は、傾斜がついてきた?
 お、おお? おおおお? おおおおおおおお! 早えええぇぇぇぇぇ!
 徐々に傾斜がついてきた。が、傾斜がついて壁を滑る方がスピード感を凄んごく感じるじゃん! ようやく水平状態になったが、止まる気配は無し。自分ではどうやって止まればいいかも分からない。ただ、道なりに滑って行くだけ。
 筒が無くなり視界が広がった。ようやく終わりか、と思ったらまた浮遊感があった。
 すべり台のゴール部分が少し上を向いていたようだ。

 俺は飛んだ。

「のわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ズン! ズザ―――ッ

 十メートル以上は飛んだんじゃない? 着地は上手くできた! でもそのまま止まれない。その後は慣性のままに地面を滑った。
 奇跡的に上手く着地できたが、着地姿勢の立ったまま地面を滑っていく。
 上手く立てたのはすべり台が計算されて作られてたのかもしれないけど、あの高さを飛んで無事に着地できたのは、無駄に上がったステータスと、衛星が作ってくれた装備のおかげだと思う。この靴は履き心地も最高だけど、凄く頑丈なんだよね。

 二階層の部屋から落ちて来た体感時間はすっごく長かったけど、実際は五~六秒? 十秒は掛かって無いと思うぞ。落下だからそれぐらいだよな、ニ~三秒って事は無かったと思うよ。
 だったら三十階以上落ちてきた? 下手をすれば五十階ぐらい? 高層ビルだとそうかもしれないけど、ここはダンジョンだからそんな法則も当てはまるかどうか…。

「あ―――――、怖かったー」

 心臓はまだドキドキしているものの、まずは痛い所が無い事を確認した。
 うん、大丈夫。続いて抱えている卵を確認。
 どこかにぶつけてはいないから大丈夫だとは思ったけど、思った通り大丈夫だった。 

 あ、一応言っておくけど、卵は抱いてるからね。
 夕食時にも誰もツッコんでくれなかったから少し寂しかったよ。


 自己チェックも終わり、周囲を見渡す。
 『#漆黒大蛇__ピュートーン__##迷宮__ダンジョン__#』のボス部屋に似た広い部屋だった。
 玉座もあるから、ここが最下層のボス部屋? 玉座の横にはやっぱり魔法陣が光ってるみたいだ。前回もあれで地上に戻れたから、今回も戻れるんだろう。

 前回は、ここで衛星に戦利品を出してもらったんだよな。今回は二階層目から一気に来たから無いかもしれないけど、一応聞いておこう。

「衛星、このダンジョンの戦利品を出して見せてよ」

『Sir, yes, sir』

 ドサドサドサドサ……ド―――――ン!

 なにこれ……

 魔石や宝石はなんとなく分かる。たぶんだけど、宝箱があったのかもしれない。魔物も少しぐらいはいたかもね。
 この大量の矢と槍は何? もしかして矢が飛び出して来る罠とか? 槍が飛び出して来てたとか? しかも、このデカい鉄球。直系三メートルはゆうにあるよね。絶対、罠のやつだよ。
 魔法は戦利品には出来ないだろうから、矢とか鉄球以外にも魔法が発動するような罠があったんだろうね。天井が降りて来るとかもありそうだ。
 これって一階層分? 確かに凄いわ。

 しかしこんなデカい鉄球を収納って……あ、できたわ。
 戦利品は全部収納しとこっと。矢は練習で使わせてもらうよ。

 例の如く、玉座の傍には魔法陣と宝箱。
 宝箱を開けてみると、今日ゲットした#立方体__キューブ__#と同じものが入ってた。
 これで八つだな。

 あれ? 卵が明滅してる? もしかして、孵化するのかな。

 俺は孵化の邪魔しちゃいけないと思って卵を降ろした。
 ついでに宝箱に入ってた#立方体__キューブ__#を収納……あれ? これなんか穴が開いてる。
 でも、今は卵が先だ。#立方体__キューブ__#は収納収納しておこう。

 ん? 卵の明滅が止まった。
 えっ、キューブと卵が関係あるの⁉

 そう思ってさっき収納した#立方体__キューブ__#を出してみた。
 あっ、卵が明滅を始めた。やっぱり卵と#立方体__キューブ__#には関係があるんだ。
 だったら今日ゲットした他の#立方体__キューブ__#も関係があるんじゃない?

 #立方体__キューブ__#を一つ出すと明滅する光が少し明るくなった気がした。もう一つ出してみる。さっきより明るくなった? それより明滅するスピードが速くなった?
 よし、どんどん出してみよう。

 #立方体__キューブ__#を出すたびに卵の光が大きくなり明滅するスピードも速くなる。
 今手に入れた物も含めて合計八つの#立方体__キューブ__#を出した時、明滅は止まり、卵は光輝いた。
 すると光り輝く卵が浮遊し、#立方体__キューブ__#も浮遊して卵を囲むような位置取りで止まった。

 八つの#立方体__キューブ__#達は隙間を埋めるべく中央に寄って行く。中央には輝く卵。
 このまま#立方体__キューブ__#が中央に集まると卵が割れ……

 カチャカチャカチャカチャ……

 #立方体__キューブ__#がくっついて大きな#立方体__キューブ__#が完成した。が、卵が割れる音は俺には聞こえなかったが……

 大#立方体__キューブ__#が完成すると、さっきゲットした#立方体__キューブ__#と同じ穴が俺の正面に空いていた。しかも大#立方体__キューブ__#の中央に。

 どういう仕組みなんだ? さっぱり分からん。
 今、ここは衛星のおかげで十分に明るい。八つの#立方体__キューブ__#が合体したというのに継ぎ目も見当たらない。しかも穴が面の中央に空いている。
 意味が分からない、どんな魔法だ。魔法というよりマジックを見せられてる気分だよ。

 しかもこの穴って鍵穴みたいなんだよな。鍵なんて……あ、持ってる。
 一個目の卵の後に鍵をゲットしてるよ。その鍵が合うの?
 試してみるか。

 収納バッグから鍵を出し、大#立方体__キューブ__#の穴に差し込んでみる。
 入った。

 ピキーン!

 え? 差しただけで、まだ回して無いよ。

 バコン!

 大#立方体__キューブ__#の天面が勢いよく開いた。

しおり