バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第05話 国家公認カード発行

 特にラッキースケベも無く、朝は部屋に持って来てもらった朝食を食べ、今日の予定を立てる。
 俺は昼頃からだからゆっくりできるんだけど、クラマ達はどうするんだろ? 観光でもするのかな?

「今日の予定だけど、俺は昼前に城に着けばいいから、結構時間には余裕があるんだ。でも、送れるわけには行かないから、自由にできる時間は一~二時間ぐらいあるけど、皆はどうする? 王都観光でもする?」
「私は依頼をしたい。冒険者ランクもそうだけど、レベルをもっと上げたいの」
 チート勇者さんだから、お決まりの行動って事だね。でも、そんな都合のいい依頼ってあるのかな。

「レベリングじゃな、それなら#妾__わらわ__#が手伝ってやろう」
 キッカ達もクラマにレベリングしてもらってたな。だったらクラマに任せればいいか。俺といたら魔物に会わないもんね。

「では、私も一緒に行きましょう。人間の町には興味がありませんから」
 興味が無いって、マイアもクラマもフィッツバーグの町の中では結構珍しがって騒いでたと思うけど。ここはマイアの名誉のためにスルーしてあげよう。

「だったら俺も少し時間があるし、皆で冒険者ギルトで依頼を見てみようか」
「賛成~」

 という事で、冒険者ギルトに来てみたが、依頼が多すぎてどれを受ければいいか迷ってしまう。
 ユーは昨日登録したばかりでGランクだけど、Aランクのクラマとマイアがいれば、同じ冒険団じゃなくても、臨時メンバー扱いとして一緒に依頼は受けられる。

 一応これでも俺もAランク冒険者だからね、それぐらいは知ってる。
 だからっていきなりダンジョンは無いんじゃない? 確かにユーはレベル12だからレベル100のクラマとマイアがいれば一緒に行けるけど、スパルタ過ぎない?

 この王都ジュレの周辺にはダンジョンが三つあるそうだ。
 その内でも難易度が一番高いダンジョンに行こうとしてるから止めたんだけどね。もうユーがやる気になってて辞める気は無いようだ。

 ダンジョンだから普通に行ってもいいんだけど、依頼があったからそれも含めて達成すればユーの冒険者ランクも上がるだろうって事で選んだみたいだ。
 魔石や宝箱から出る宝石や武具やアイテムもあったし、フロアマスター討伐依頼なんてものもあった。

 受付で聞いてみると、ダンジョンの入り口でブレスレッドを借りてダンジョンに入ると、そのブレスレッドが倒した魔物の数やゲットした魔石やアイテムをカウントしてくれるらしい。
 一昔前に作られた魔道具で、今は更に改良されて、最深層の達成記録や現在どの階層にいるかまで分かるようになってるんだとか。

 凄いハイテクなんだけど、どういう仕組みなんだろうね。でも、衛星には作れちゃったりするんだろうね。

 だから依頼書を持って行く必要は無く、ダンジョンの出口でブレスレッドを返す時にすべて清算し、ランクアップがあればその場で行なわれるらしい。

 俺はまだ人間の管理しているダンジョンには行った事が無いから、そんなものがあるなんて知らなかったよ。

 三つのダンジョンは新人用、中堅用、上級者用のダンジョンがあるそうだけど、今回三人が行くのは上級者用だって。ま、クラマとマイアがいるから大丈夫だろうけど、ユーには無理しないように言って、先日マイアから貰った回復薬を十本ずつ渡しておいた。

 ついでに受付でこの回復薬は売れないかと聞いたら、回復薬の小瓶を見て「量が少な過ぎませんか?」と言われたが鑑定士を呼んでくれた。金貨一枚取られたけどね。鑑定してもらうにはお金が掛かるらしい。しかも高い。
 鑑定士が呼ばれて【鑑定】をした結果、青い顔をして預からせてほしいと言われたのでHP回復薬とMP回復薬を一本ずつ渡しておいた。部位欠損回復の丸薬は渡さなかった。
 だって職員さんの中に、手や足が無い人がいるんだもん。簡単に買える物ならそんな人なんていないはずだし辞めておいたんだ。

 あれからマイアに何度も貰ってるから、俺の収納バッグの中には回復薬はそれぞれ一万本以上入ってるんだ。マンドラゴラやアルラウネが増えすぎるから薬を作って数の調整をしてるっていう事なんだけど、俺は一度も薬を使った事が無いから増え続ける一方なんだよ。

 今は面倒を見てる二人の精霊が他にも作れる薬が無いか研究中で、それができたら落ちつくんじゃないかとマイアが言っていた。
 なんでも不老長寿や若返りや蘇生の薬を研究中だとか。ファンタジーではあるけど、程々にね。

 その二人だけど頼まれてたから名前は付けてあげたよ。
 樹の中位精霊ニンフにはベルデ、森の中位精霊エントにはヴェール。どっちも美人さんだったけど、緑ってイメージから名付けた。
 また俺の従者ってなってたけど、栽培と研究しかしないみたいだから関わる事はあまり無いだろうね。

 おっと、話がそれ過ぎちゃった。
 三人とはここで別れ、夜に宿で落ち合う約束をして、俺は王城に向かった。


 城門前の詰所で受付を済ませる。
 すぐに城へ通された。ノワールはフィッツバーグ家の紋章入り黒馬車と一緒に専用馬車置き場で待機している。
 ヴァイスとブランシュはクラマ達と一緒にダンジョンに向かっている。ダンジョンは王都から出て徒歩二時間ぐらいの所らしいから、天馬に乗って行かないと向こうで泊まりになっちゃうからね。


 案内役の制服を着た兵士に案内されて入った城門の内側には門兵が並んで立っていた。王都に入る門の兵士とは比べ物にならないぐらい立派な#全身鎧__フルアーマー__#を身に付けていた。
 金色だからってゴールドって事はないだろうけど、ファンタジーでよくあるミスリルとかかな?
 こういう時は【鑑定】をしろってマイアに言われてたっけ。
 ……無理です、凄く睨んでくるから怖くて目を向けられなくて【鑑定】なんてできません。

 案内役の兵士に連れられるまま行った先の部屋で待機させられた。
 ここで衣装を整えろって事かな?
 今は冒険者らしくいつもの装備で来てるけど、城の中だしな、それも王城だろ? ここはこの前のお披露目会の時に着た衣装に着替えておこう。

 着替え終わってしばらくすると、案内係の兵士が来た。さっきの人より#級__クラス__#が上みたいだ、袖章の星が多いよ。さっきの人は星が一個でこの人は三個だ。
 どっちの兵士も「お迎えに上がりました」と「こちらです」以外に無駄口を言わないから凄く緊張する。もう吐きそうだ。

 案内係の兵士が、コンコンコンとノックをした後、扉を開けた。
「お連れしました」
 すると中から声が掛かる。
「誰をだ」
 俺はまだ廊下にいて入り口が影になってるから中は見えない。少し年配の声だな。

「失礼しました。Aランク冒険者のエ…イ…ジ殿をお連れしました」
 普段は名前も言ってるんだろうね。俺の名前が呼びにくいから省略したのかも。
 それなのに敢えて聞いて来るって、声の主は油断の出来ないご仁なのかもね。

「よろしい、入れ」
 案内役の兵士に促されて部屋に入る。案内役の兵士はここでお役御免のようだ。中には入らず俺が入ると外から扉を閉めてしまった。

 中に入ると中央の奥に大きな執務机があり、そこに初老の男が座っていた。白髪交じりの金髪で、座っているが身体つきから結構鍛えている感じがする。
 その両サイドには中央の机より二回りぐらい小さな机に事務官らしき女性がそれぞれ座っていた。
 片側の女性は俺が入るなり席を立ち、別の扉から出て行った。

 広い部屋で三〇畳ぐらいはあるかもって部屋で、部屋の中央には応接セットが置いてあった。それでもスペースはたくさん余っている。こんなの部屋の無駄遣いとしか思えない俺は貧乏性なのかもしれない。
 調度品も高級そうで大きな絵や豪華なシャンデリアもあった。

「まぁ、どうぞ座りたまえ。まずは書類に目を通してもらって、それから説明をする」
 そう言って中央に座っていた男が応接セットの方にやって来る。それに合わせてもう一人いた女性も書類を携えて応接セットへ近づいて来る。
 俺も応接セットに歩み寄り、男が座る前に挨拶をした。

「フィッツバーグ領でお世話になっておりますAランク冒険者のエイジと申します」
 右足を後ろに下げて少し交差させ、腰を少し曲げ右手を掌を上にして身体の前で止める。これで左手を頭上に上げるとシェーのポーズになってしまいそうだけど、商業ギルドのセシールさんに教わったポーズだからこれでいいんだと思う。

「これはこれはご丁寧に。私はワプキンス・ジュレ公爵だ。現王の弟と言った方が分かり易かったかな? 冒険者ギルトは私の管轄でね、君のように丁寧な挨拶をして来た冒険者は初めてだ。もっと力を抜いてくれていいぞ」
 お! 意外と話が分かる人かも。貴族ってもっと礼儀に煩いかと思ってたけど、冒険者ギルド担当だからその辺は意外と緩いのかも。

「はい、ありがとうございます」
 ジュレ公爵が座るのを待って、座るように促されてから俺も席に座った。

「君の名前は言いにくいな。資料によるとイージと呼ばれる事が多いとなっている。私もイージと呼んでも構わないかな?」
 唐突にジュレ公爵が名前について触れて来た。もちろんオッケーです。

「はい、結構でございます」
「では、リズ。資料を読み上げてやってくれ」
 ジュレ公爵は俺に向けて一つ頷いた後、女性事務員に指示を出した。

 なんかいっぱい言われたけど緊張して頭に入って来ない。今読んでくれている資料は後で貰えるそうなんで宿でしっかり確認しよう。
 読み上げている間にさっき部屋から出て行った女性事務員さんが戻って来て飲み物を置いてくれた。どうやら飲み物を用意してくれてたようだ。
 こういう場で口を付けてもいいか本当に迷う。でも今日の所は辞めておこう、凄く喉がカラカラになってるんだけどね。

「それでは立って」
 女性事務員さんが読み終えるとジュレ公爵から立つように促された。
 ジュレ公爵も立ち上がると応接セットの横で止まった。女性事務員さんから前に立つように誘導されジュレ公爵の前に立った。

 女性事務員さんから紙を一枚手渡されたジュレ公爵が読み上げる。
「冒険者イージを国家公認冒険者として認める。発行者ワプキンス・ジュレがここに宣言する」
 表彰状のように資格証を頂き、続いて女性事務員が綺麗な箱の蓋を開けてジュレ公爵に差し出す。
 ジュレ公爵は箱の中からカードを取り出し俺に向き直った。

「これが今日からの君のカードだ。今までのカードも返さなくて結構、使い分けたい時もあるだろうから好きにしてくれていい。今後も国家の為に活躍してくれる事を期待している」
「はい、ありがとうございます」
 それは今持っているAランクのゴールドカードと色は似ていたが、輝きという点では劣っている感じがした。後で鑑定してみよ。

「これで授与式は終わりだが、君にはまだ話がある。もう一度座ってくれるか」
 ん? 何だろう。話があるって何だか怖いんですけど。
 促されるままに席に着くとジュレ公爵が再び資料を手に取った。

「イージ」
「は、は、は、はい」
「はっはっは、そんなに緊張しなくていい、少しお願いがあるだけだ」
 そのお願いっていうのが全く予想がつかないんで緊張してるんですけど。

「君は実に興味深いな。討伐依頼は0、採取依頼も微々たるもの。これで領主の推薦を受けたというのは実に興味深い話だ。だがフィッツバーグ領最高納税者にして商人ギルドにも会員となっている。農業ギルドにも入っているのか。孤児院の保護や奴隷解放をしてハーレムを作りケーキなるものを売り出す。今回の推薦の理由としてはこれだな、魔族の捕獲。そこまで強そうには見えないが、君は強いのだろう。その強い君がなぜ討伐依頼をしない。私も護送されて来た魔族の尋問には参加したが、相当強かったぞ。あの拘束も君がしたとあるが、あの拘束が無ければあの魔族のせいでこの王都が大打撃を受けてたかもしれん。鑑定士の【鑑定】ではレベル84と68となってたからな」

 うっわー、結構調べ尽くされてるね。領主様からの報告なんだろうけど、奴隷解放の部分が間違ってるよ。討伐依頼はしたいけど出来ない事情があるんです。
 魔神のレベルは84だったんだね、パシャックより強いじゃん! パシャックを見た後だから一概にそうとは言えないんだろうけど、でも、それぐらいの人なら王都の騎士にいるんじゃないの?
 俺の周りにはレベル100オーバーが何人かいるよ?

「そこでだ。イージ、君に頼みたい事は、魔族の尋問を手伝ってほしいのだ。これで年一回の国への奉仕を十年免除してやるがどうする?」
 年一回の国への奉仕って何? もしかしてそれがデメリットだった? さっきちゃんと聞いて無かったからもう一度資料をキッチリと確認しておかないとな。

「もし、重要な事を聞き出せたら奉仕を免除してもいい。今回の魔族の尋問はそれぐらい難航しているのだ」
 そんな重要な事を俺に出来るとも思えないけど、やるだけで十年免除なら得じゃない?

「わかりました。微力ながら協力させて頂きます」
「そうか、では今からでもいいか」
「はい、でもその前に伺いたいのですが、レベル84の魔族なら騎士の方でも尋問できるのではないのですか?」
 尋問前にこれは聞いておかないとな。失敗した時の言い訳になるかもしれないし。

「そうだな、レベル80なら兵士の中にも将官クラスに何人かはいるし、レベル200を超える者も騎士団にはいる。我が王国軍に現存する最高レベルは親衛隊長のレベル312だ。だが魔族はそんな彼らでも一対一なら太刀打ちできないだろう。奴らは一芸に秀でてる者が多く、厄介な魔眼も使う。そもそも基礎ステータスが違うから同じレベルなら遥かに魔族の方が上なのだよ」

 だからパシャックは俺よりレベルやステータスが低いのに俺の目で追えないような動きをしていたのか。
 パシャックの場合は剣技だったね。だったら足捌きや体捌きやもちろん技も凄いからの結果だったのかもね。
 そんなレベルの高い人達でも困ってる相手だったら俺が失敗しても問題無さそうだ。


 国家公認冒険者資格をもらった俺は、ジュレ公爵に連れられ、以前俺が捕らえた魔人を閉じこめている牢へと案内された。

しおり