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御子柴のヤキモチ勉強会⑩



昼 ファミレス


御子紫とコウは外食をしようと、近くのファミレスに寄った。 ソファーに互いに向き合うよう座り、それぞれ食べたいものを注文する。 
今のところは、御子紫はコウの前では順調だった。 特に強がったところを見せたりもせず、普段通りの自分でいられている。
いつもの調子で彼に向かって笑いかけながら話をしていると、頼んだ料理が運ばれて来た。 御子紫の前にはパスタが置かれ、コウの前にはオムライスが置かれる。
そこで、ふと思ったことを彼に尋ねてみた。
「コウってオムライスが好きなのか? オムライスといったら、優のイメージが思い浮かぶけど」
かつて優の大好物はオムライスであると聞いたことがあったため、さり気なくここで彼の名を口にする。
「そうだよ、オムライスといったら優だ。 
 よく優に作ったりすることがあるんだけど、もっと上手くなるために、色んなところのオムライスを食べて勉強しようと思ってさ」
その答えに納得したような表情を返すと、コウを気遣い優の話を続けた。
「優は、小さい頃からあんな性格だったのか?」
「あんな性格って?」
オムライスを口に運びながら聞き返してくる彼に、御子紫もパスタを口に運び飲み込んでから答える。

「ほら、いじめが大嫌いで、いじめを見つけるとすぐ助けに向かう性格さ」

「あぁ。 いじめが嫌いなのはおそらく小さい頃からかな。 俺が実際、小学生の頃にいじめられた時も、優が助けに来てくれたし」

「え・・・。 コウがいじめ?」

日向の事件はともかく、人思いで優しくて何の恨みも持たれなさそうなコウが、どうしていじめを受けるとのかと疑問に思った御子紫。 
思わず食べている手を止め、彼に聞き返してしまう。

「俺はよく自分を犠牲にするだろ? まぁ、自分ではそうは思っていないけどさ。 その性格のせいで、色々からかわれたりしていたんだ」

「そっか・・・。 大変だったんだな」
苦笑をこぼしながらそう口にしたコウに、御子紫は彼が可哀想だとは思うが同情し過ぎても悪いと思ったため、複雑な表情でさらりと言葉を返した。
そこで話は、日向の事件へと切り替わる。
「でもさ。 んー・・・。 過去のことを思い出させちゃって悪いけど、日向の事件の時、優は最終的に日向に仕返しをしていたじゃんか。 あれはいじめって言わないのか?」
御子紫は日向とコウの事件にはあまり深くは関わっていないため、今となっても理解できないことを彼に尋ねてみた。 
その言葉に対し、コウは優の代わりとなって答えていく。

「あれは優いわく、いじめじゃなくて誕生日のサプライズドッキリなんだって。 傍から見たらいじめに見えるかもしれないけど、優は人をいじめたりなんかは絶対にしない。
 何かしらの納得できる理由を付けて、結構過酷な仕返しをするんだよ。 それもその理由で、相手が何も言えなくなって許してしまうくらいにさ」

「その仕返しは、優は色んな人にやってきたのか?」
「まさか。 いじめっ子全員に仕返しをしていたら、優は本物の悪人になるだろ」
それを聞いて、御子紫は大人しく口を噤む。
―――・・・そっか。
―――優は人に、簡単に仕返しをするような奴じゃない。
―――優も絶対、人に仕返しをすることを少しでも躊躇ったはずだ。
―――自分も、いじめっ子と同じ立場になってしまうかもしれないから。
そこで、御子紫は思った。

―――でも、そこまでしてでも人に仕返しをしたっていうことは・・・。
―――コウがいじめられた時、優は相当腹が立って相手のことが許せなかったんだな。

御子紫が優の気持ちをそう捉えていると、コウは再び口を開き言葉を発する。
「といっても、俺と優の出会いはそんなにいいものじゃなかったんだけど」
またもや苦笑しながらそう言ってきた彼に、御子紫は考えていることを素早く切り替えその話について触れてみた。
「あぁ・・・。 そうそう。 どうして今は仲がいいのに、出会った頃は仲よくなかったんだよ?」
「俺は何度も優に『友達になろう』って誘ったさ。 だけど優は、簡単に俺を友達にはしてくれなかった」
「それは何で?」
「んー・・・」
コウは少しの間考え込んだ後、御子紫に向かってそっと口を開く。
「そのことについては、今度優と一緒に改めて話すよ」
「分かった。 二人の話、楽しみにしておくから」
無理に今は話さなくてもいいと思い、その言葉に対して素直に頷いた。 
そして優の話が一段落ついたところで、今度は自分が尊敬している結人のことを思い出し、コウに尋ねてみる。
「そういやさ。 ユイは小学生の頃、どんな子だったんだ?」
パスタを口に運びながらそう聞くと、彼は食べる手を止めキョトンとした顔で御子紫のことを見据えてきた。
「?」
どうしてそんな表情で固まっているのか分からず御子紫も見据え返すと、コウは一瞬にして苦笑を浮かべる。
「何を言ってんだよ、御子紫。 俺と御子紫は同じ小学校だったろ? だから俺とユイは違う小学校だったって、知っているはずだ」
確かにコウと御子紫は同じ小学校だった。 だが互いに仲よくなり始めたのは後半であり、コウと優の関係については少ししか知らない。
だが前に一度優からそのような話を聞いたことがあったため、コウに直接尋ねてみる。
「いや、でも優が言っていたぞ。 ユイとは小学校の頃、少しは面識があったって」
「あー・・・」
御子紫がそう言った後、コウは過去のことを思い出しているのか静かに目を瞑り、少しの間黙り込んだ。 そして目を開けそっと口を開き、ゆっくりと言葉を紡いでいく。

「ユイとは小学校の頃、ほんの数回しか会っていないよ。 そうだなぁ、小学校の頃のユイは・・・今とは違って、大分大人しかったかな」

「大人しかった?」

「あぁ。 俺たちの後ろを、黙って付いてくるみたいな感じで」

「どうして」

今現在の結人は、コウが話している結人とは真逆の性格だ。 今では結黄賊のリーダーとしてみんなの先頭に立ち、御子紫程まではいかないがよく発言をする方で明るい性格。
そんな彼の印象の違いに、思わず驚きそう口にするが――――
「ユイとはあまり会わなかったし、当時はそんなに仲よくなっていなかったから理由までは分からないよ。 
 でも中学で再び会った時、ユイは明るくなって笑顔も多くなっていて、あまりの変わりように驚いたことは今でも憶えているよ」
それを聞いて、御子紫は思ったことを素直に言葉にする。
「じゃあユイは今、無理して明るいキャラを作ってんのか?」
するとコウは、その発言を聞いて少しの間黙り込んだ。

「・・・それも、あるかもな。 もしくは・・・元々明るい性格だったのに、小学生の頃に何か事件でも起きて大人しい子になってしまった。 
 だけど今ではもう吹っ切れて、本来のユイの姿に戻った」

「あぁ・・・」
“コウのその解釈もありだ”と思い、独り言のように小さな声でこう呟く。
「だったら・・・後者の方だと、いいな」
その言葉が聞き取れていたようで、御子紫の向かい側にいるコウは優しい表情で微笑んでいた。 

そして昼食を取り終えた後、彼は一つ提案を出す。
「じゃあこのまま、時間にも余裕があるし買い物にでも行こうか。 欲しいものとか何かない?」
「え、でも勉強は?」
「どれだけ勉強をしたいんだよ。 俺はそこまで『勉強をきっちりやれ』っていう程、鬼教師じゃねぇぞ」

結局御子紫はその案を受け入れ、自分が前から欲しいと思っていた夏用のズボンを買いに行くことにした。 
そして一緒になって探している中、コウについてをもっと聞き出していく。
「コウはストレスとか溜まんねぇの?」
「ストレス?」
「そんなに自分ばかりを犠牲にしていたら、流石に溜まっていくだろ。 ・・・あ、このズボン入んねぇ! コウ、もう一つ大きいサイズを持ってきてくれ!」
それを聞いたコウはもう一つ大きいサイズのズボンを取りに行き、試着室の中にいる御子紫に手渡しながら答えていった。

「ストレス、か・・・。 自分を犠牲にしたら相手は笑顔になってくれる。 その笑顔が見られたら、俺は満足さ」

「・・・嘘だろ」

どこから聞いても綺麗事のようにしか思えないその発言に、御子紫は試着室のドアを開けて、初めて彼を引いたかのように無表情でその言葉を返す。
先程手渡したズボンを見事に着こなしている御子紫に、コウは少しニヤリと笑って言葉を続けた。
「・・・とでも、言うと思ったか?」
「え」
「そこまで俺は、善人じゃねぇよ」
「何だよ・・・」
その訂正に、安心して思わず溜め息交じりで返してしまう。
「そのズボン、御子紫に似合ってんね。 それでいいんじゃないかな」
御子紫が履いているズボンを見てそう感想を言った結果、その商品を購入。 そして帰り道を歩いている時、コウは先刻の問いに真面目に答えた。
「ストレスが溜まっているのかは、自分では分からないけどさ。 でも多分、喧嘩をしている時とかストレス発散は自然としていると思う」
それを聞いた瞬間、あることをひらめいた御子柴は彼に向かって大きな声で言い放つ。
「じゃあ! 俺が、コウの喧嘩相手になってやるよ!」
「え?」
「コウがそれでストレス発散できるなら、俺はいくらでも喧嘩相手になってやる。 ・・・といっても、コウからしちゃ俺は雑魚かもしれないけどな」
少し苦笑いをしてそう口にしたが、コウはその気持ちを素直に受け止めてくれた。
「そんなことねぇよ。 ・・・でも、ありがとな」

この後彼らは、御子紫のリクエストで晩御飯はコウ手作りのかつ丼に決まったため、その食材を買いに行く。 
この時も、憧れているコウのことについてもっと知ろうと、たくさんの質問をし続けた。 
彼から返ってくる答えは全て御子紫にとって凄く尊敬するもので、コウと出会えたことに、そして今彼と友達であることに感謝する。 
御子紫の気持ちは、コウへの憧れが更に強くなっていった。


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