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第45話

 黒邉はナオの視線に気づいていないのか、澄人の方を見ながら顎を上げた。

「これで俺の勝ちは決まったようなもんだな」
「まだだ。まだナオは負けたわけじゃない」

 澄人がそう言うと、周りはバカにしたように笑う。

「おい、負けたわけじゃないだってよ」
「爪連斬を避けきることができなかったってのに、まだあんなことを言ってやがるぜ」

 黒邉もその通りだと言わんばかりに、腰に右手を当てた。

「まぁ、諦めないのはお前の自由だが……次近づいた時が終わりだ」
「……そうですね。あなたの言う通りです」
「見ろよ。お前のアーティナル・レイスだって言っているぜ。自分が負けるって」
「いいえ。負けるのは私ではありません」
「は?」

 ようやくナオの方を向く黒邉。

「なんだ、その顔は。まさか強がっているつもりじゃないだろうな?」
「そのようなことはしません。必要ありませんし」

 腰に差した二本のブレードを握り抜き、ゆっくりと前に進むナオ。

 すると、それを目にしたフミヒメの足がその分下がった。

「っ……マスター」
「……は? 何言ってんだ!」
「し、しかし……」

 フミヒメは黒邉に脳内音声(ブレイン・シグナル・ボイス)でこう伝えたのだろう。
 
 先ほどまでとは別モノだ、と。

 その最中、ナオは澄人に声を送った。

「(澄人。次の攻撃で終わらせますから)」
「(でも、一撃じゃポイントをとりきれないんじゃ……?)」
「(心配いりません。一撃じゃありませんから)」
「(え?)」

 ナオは構えながら、軽く息を吸って吐いた。

「ビビってんじゃねぇ! そんな先行量産型、もう一度爪連斬をやれば倒せる!」
「……はい」

 黒邉の命令で、スラスターを吹かして接近してきたフミヒメは、再び爪連斬を使ってきた。

回避(Avoid)

 それをナオは最小限の動きで軽々と避ける。直後に別の技――突きを連続で放ってきたが、それも彼女には当たらない。

「なに!?」

 黒邉が上ずった声を出し、歯をギリッと鳴らすと、フミヒメの大型ブレードを振る速度が増す。早く倒せという指示を黒邉が出したのだろう。だが、いくらブレードを振っても――打撃や蹴りを混ぜても、ナオの体にはかすりもしない。そして――

「……!?」

 突如、フミヒメの動きが鈍くなった。

 ナオの温度感知センサーが、フミヒメの体が発熱していることを捉える。

 フミヒメは、軍用のベースになるほど優秀ではあるが、所詮は一般販売されているアーティナル・レイス。その耐久性能は、一般人がいくら改造しようと、軍用には及ばない。

 そんな機体が、重い大型ブレードを高速で振り続けたらどうなるか? 体に負荷がかかり、オーバーヒートが起きる。

(今――!)

 ナオは即座に両手のブレードで、フミヒメの大型ブレードを叩き落とし、構える。

 右手は前にして切っ先を相手へ向け、左手は自分の体で隠すように下げ、相手から刀身だけが見える、独特の構え。

(……リミッター解除)

 “Mode_Limiter removal”

 視界に表示される文字。

 処理速度が増していく人工頭脳。

 唸るリアクター。

 通常ではあり得ない状態になったことで、瞳が異常を示し赤く発光する。

 その発光が最大になった瞬間――

  “Load-Vernal Strike”

(……ヴァーナル・ストライク)

 ナオは二本のブレードを舞い踊るように振った。フミヒメの首――両肘――両手首――両膝――両足首……人体に横線を入れ、“春”という文字にしていくように。

 二秒にも満たないその動きが終わり、ナオがフミヒメに背を向けると、

『Bコーナー、二八〇ポイント。ナオ、WIN』

 アナウンスが、彼女の勝利を告げた。

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