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13.愚者の帰還Ⅲ

 そうして僕はアテナの依代になり、彼女は四百年ぶりに地上へ出る事が出来た。

「主よ、身体の具合はどうじゃ?」

「う~ん……大丈夫みたい。アテナの言った通り魔力は流れるみたいだけど、問題なく動けるよ」

 僕は右肩を大きく回し、自分の身体の感覚を確かめた。
 本来、依代になる事はリスクを伴う。
 しかし僕の場合は、ユニークスキル【零点回帰】のお陰でそのリスクを回避できる。
 そうアテナは言っていて、まさにその通りになった。

「それは良かったのぅ」

「うん! でも何だろう、依代になったのに実感が全然湧かないよ」

「当たり前じゃ。依代と言っても主には何も影響せん。恩恵を与えたくとも、罰を与えたくとも叶わんのだからのぅ」

 要するに形だけの契約と言うわけだ。
 アテナはちょっぴり申し訳なさそうな顔をした。
 それに気付いた僕は、彼女にこう言った。

「アテナ、僕はもう……アテナからたくさん貰ったよ? もう十分すぎるくらいにね? だから今度は、僕が君に返す番なんだ」

「そうか……主はそういう男じゃったのぅ。ならば期待しておくとするのじゃ」

「うん! 任せてよ!!」

 その後僕達はグレブスの町まで向かった。
 帰路には魔物が出る道もあったけど、奇跡的に何にも遭遇する事無く町の近くまで行く事ができた。
 この時にはもう日が沈みかけていて、久しぶりに見た町の風景は、夕日をバックに輝いて見えた。
 僕は心の中で「ただいま」と言い、町の中へと入った。

「主よ? どこへ向かっておるのじゃ?」

 隣で歩いていたアテナが僕に聞く。

「一先ずは僕が泊まってる宿屋に行こうかと思ってるよ」

「わかったのじゃ」

 大した物は置いていなかったけど、数日間空けたし少し心配だった。
 宿屋に着いた僕達は、宿屋の管理人さんに事情を話し、何度も謝ってから自分の部屋へ向った。
 事情と言っても細かい事は伝えていない。
 ただ迷宮で迷子になっていたと伝えた。
 管理人さんは呆れていたけど、僕達を中へ入れてくれた。

「ここが主の拠点か? ずいぶん狭いのぅ……」

「そりゃあアテナが居た場所よりは小さいよ。さてと―――」

 僕は引き出しの中身、持ち物のチェックをした。
 見た感じ何も変わっていた無いみたいだ。
 当然と言えば当然だと思う。
 誰も僕の持ち物なんて微塵も興味が無いだろうし……

「よし、確認終わり! それじゃ日が沈まないうちに行こうか?」

「む? どこへ行くのじゃ?」

「ギルド会館だよ!」

 僕はアテナと一緒にギルド会館へ向った。
 正直に言うと少し不安だった。
 数日間不在になって、僕が居なかった事に気付いた人はいるのかな?
 そういえば、僕を置いて逃げたあの人達も居るのかな?
 僕が生きているって知ったら、どんな顔をするんだろう……
 興味半分、不安半分といった感じだった。
 ギルド会館の扉前に着いた僕は、その扉を見つめて大きく深呼吸をした。

「何じゃ主、緊張しておるのか?」

「う、うん……ちょっと恐いかな? 僕、前からあんまり歓迎されてなかったし」

「堂々としておれば良い。今は童もおるのじゃ」

 アテナがそう言うと、僕は少し身体が軽くなったように感じた。
 そうだよ。
 僕はもう、前の僕じゃないんだ。
 一人ぼっちじゃないし、何も出来ないわけじゃないんだ。

「うん」

 アテナの言う通り堂々としていよう。
 そうじゃなきゃ、僕はまたあの頃へ戻ってしまう。
 それに僕が堂々としてなきゃ、アテナだって嘗められるかもしれないんだ。
 僕はどう思われても良い……だけど彼女が嘗められるのは嫌だ。
 だから僕は、自分の頬を叩いて気合を入れ直した。
 そして、

「行くよ」

 扉を開く。
 中ではクエストを終えた冒険者達がたくさん居て、皆食事をしていた。
 時間も時間なので、クエストボード前と受付は空いていた。
 どうやら今の所、誰も気付いていないらしい。
 僕は受付に向って歩いた。
 受付には、いつも僕を笑顔で出迎えてくれる優しいお姉さんが座っている。
 どうも元気が無い様子で、下を向いたままこっちに気付いていない。
 僕は普段通りの歩幅で歩いた。
 一歩一歩と足を踏み出す度に、周囲が僕の事に気付き視線が増えていく。
 受付の前に来る頃には、食事中だった席の冒険者達は、こぞって僕の方を見ていた。
 そして最後に、

「あの―――」

「あっ、はい! 何でしょ―――」

 受付のお姉さんと目が合った。

「ただいま。お姉さん」

 飛び上がるように席を立ったお姉さんは、受付カウンターから勢い良く出てきた。

「えっと―――えぇ!?」

 お姉さんは無言で僕を抱きしめた。
 何が起こったのかわからずパニックになる僕と、それを見て驚くアテナ。

「あの……お姉さん?」

 気付くと、お姉さんの頬を涙が流れていた。
 その涙は僕の頬に渡って、そのまま流れ落ちていく。

「良かった……無事で」

「はい……ご心配をおかけしました」

 僕はほっとした。
 この町にも居たんだ。
 僕の事を見てくれていて、僕の事を心配してくれる人が―――
 それがどうしようも無くうれしくて、気付けば僕も涙を流していた。
 そんな僕を見て、アテナは呆れたように優しく微笑んだ。

「よかったのぅ」

「うん」

 こうして僕は、この場所に帰ってきたんだ。

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