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十六

 ソレが爬沼蛭と入れ替わったのは、6年前だった。ソレは、爬沼家の玄関のドアを引き開けた。いつまで待っても『母』が玄関まで迎えに来ないことに苛立った。

 ソレは、リビングのソファに沈んでいる『母』を見下ろした。そこでようやく『母』がソレの帰宅に気づいた。

 お帰りなさい、ヒル。

 いっそこのまま爬沼蛭として生きられたらいいのにと、ソレは思う。

 ただいま帰りました、お母さん。大丈夫ですか?
 うん、ちょっと疲れちゃっただけよ。心配掛けてごめんね……。誕生日なのに何も無いの……買っておいたぬいぐるみも……ごめんね……。

 ぬいぐるみ。爬沼蛭(ソレ)は高校生だがぬいぐるみが好きという設定である。その時、地下室から『父』が登ってきた。

 ヒル。地下室に来なさい。

 爬沼蛭はニッパーとか無花果とか時間とか心臓とかについて考えた。何にせよ爬沼蛭に迷惑をかけてはならないとソレは自戒し、爬沼蛭としての仮面を被り直した。

 地下室に降りるとその日は何故か、地下室に見たことのない男が居た。まあいいや。見せしめに■■■。

 済まない、ヒル。私は、父親失格だ……。

 ソレは地下室から出た先で『母』に出くわした。返り血が、ソレを真っ赤に染め上げていた。 ソレを見た『母』は

 ヒッ!?

 ソレは『母』を壁に追い詰め、二度と行為が出来ないように、徹底的に握りつぶした。『母』はその場に崩れ落ちた。

 ソレは地下室の溝蓋を開け更に下の研究室に入った。見取り図にはない2人入れるだけのモニターが敷き詰められた空間。ソレが爬沼蛭を監禁するために作った部屋だ。

 ソレは爬沼蛭の足に着けてあった枷を外して爬沼蛭に渡した。爬沼蛭は枷をソレの足に着けたあと研究室を去った。ソレはリモコンを操作した。

 生コンクリートが流れ込んできた。枷から伸びる鎖には鉄の重りが付いていた。コンクリートは、研究室を満たした。
























 ナンデコノボクガ死ナナクチャイケナインダ




















 コンクリートが固まった後の話。『父』の葬儀は、身内が『母』しかいなかった為、ごく簡単な物だった。『母』は、『父』の棺桶に縋り付いて泣いていた。ソレも『母』のそばで葬式を見ていた。

 爬沼蛭は殺人と障害で、責任能力の有無が云々と随分議論になったが、情状酌量の余地があること、反省の色が見られることから実刑は免れた。未成年だから、マスコミも比較的マシだった。

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