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7.蛇と弱者Ⅱ

「えっ……えぇ!?」

 僕が蘇った?
 今確かにそう言ったぞ?
 そんな事がありえるの?
 ありえるとして、ありえたとしてどうやって?
 まさか僕に新しい力が?
 そう思った僕は、ギルドカードを取り出した。
 裏面には保有するスキルと魔法が記されている。
 もしかしたらそこに、新たな名前が刻まれているかもしれない。
 そんな期待を胸に眺めた。
 しかしそこには期待した物など無かった。
 ギルドカードの裏面には、今まで通りスキル欄にあの名前が載っているだけ。
 それ以外は空欄のままだった。
 何だやっぱり違うのか。
 僕はガッカリすると同時に、さらに疑問を感じた。
 僕自身に新しい変化は無い。
 だとしたらどうやって生き返った?

「そりゃあ見事じゃったよ。バラバラに砕けた骨が、無残に切り刻まれた皮膚が一瞬で元通りじゃ。回復したというよりも、まるで何も無かった状態に戻ったような感じじゃったのぅ」

 蛇の幼女は腕組みをしてこう言った。

 元通り……何も無かった状態に戻ったよう?
 回復したわけじゃなくて、一瞬で元に戻った。
 元に戻る……
 僕はここで、あるスキルの名を思い浮かべた。
 僕が持つ唯一のスキル、僕を僕足らしめるあのスキル。

「……【零点回帰(ノーリターン)】」

「なんじゃそれは?」

 不意に毀れた言葉に、蛇の幼女が反応する。

「えっと、【零点回帰(ノーリターン)】は僕が持ってるスキルで、一応僕しか持ってないユニークスキルなんだけど……」

「ほう、ユニークスキルか。その紙切れに書いてあるのじゃな? どれ、童に見せてみよ」

 幼女は僕の後ろから覗き込むようにギルドカードを見た。

「ユ、ユニークスキルって言っても全然大した物じゃなくて、むしろ努力を台無しにしちゃうような……ホントにどうしようも無いスキルなんだけどね?」

 自分で言っていて恥ずかしい。
 まだ何も言われていないのに、言い訳をしている気分になった。

「ふむ、なるほどのぅ……そういう訳じゃったのか」

 ギルドカードを見た幼女は、意味深な言葉を漏らした。
 それから幼女は、僕の両肩に手を置いて、そっと耳元で語りかけてきた。

「のう主よ……主はこのスキルについてどれくらい知っておるのじゃ?」

「どのくらい? そう言われるとどうだろう……正直に言うとあんまりわかってないかな? 前にスキルを鑑定してもらった事もあるんだけど、その時もわからなかったよ。結局今わかってるのは、このスキルの所為で、僕のステータスは上がらないって事くらいかな」

「まぁその程度じゃろうな。大方予想通りというか期待はずれというか……仕方が無いと言えばそうなんじゃろうがな?」

 またも幼女は意味深な発言をした。
 それはまるで、このスキルの事を知っているようだった。
 僕しか持っていないこのスキルの事を、この幼女は知っている素振りを見せた。

「知っておるよ。当然じゃろう? 童に知らぬ事柄など存在せん」

 僕は徐に知っているのか?と尋ねた。
 その回答がこれだった。

「どんなスキルなの!?」

 僕は身体をクルリとまわして、後ろにいた幼女の方を向いた。
 そのまま両手で幼女の小さな両肩を鷲掴み、勢いに任せてそう言った。
 その時の幼女は、酷く驚いているようだった。

「主よ? 童が蛇である事を忘れてはおらぬか?」

 幼女に言われて気づかされた僕は、すぐに両手をどけた。

「ご、ごめんなさい!」

「はぁ~ 主は変わり者じゃのう。勇敢というより無謀というのが正しいか? なんにせよ主は愚か者じゃ」

「……」

 返す言葉も無かった。
 この幼女の言う通り、僕は愚か者以外の何者でもない。
 何せ言われるまで、自分が置かれている立場を忘れてしまっていたのだから。

「じゃが気に入ったぞ。主の底抜けな愚かさが気に入った。この場所に篭って数百年、飽きる程の愚か者を見てきたが、主ほど真っ直ぐな愚かさを童は知らん」

 僕にはこの幼女が言っている意味は解らなかった。
 だけど馬鹿にされている訳じゃない事だけは伝わった。
 それだけで、少しだけ嬉しく思った。

「どうせ退屈しとった所じゃ。好い何でも聞いてみよ」

「じゃ、じゃあこのスキルについて教えてください」

「好かろう。その不相応にも立派についた耳で聞くがよい」

 僕は姿勢を正した。
 さながら教師に叱られる子供のように、背筋をピンと伸ばした。

「【零点回帰(ノーリターン)】じゃったか? 主のこのスキルに対する認識は、そうじゃのう……三割程度は正しい」

 三割、つまりほんの一部しか理解していない。
 僕にしかないこのスキルを、僕だけが持つこの特徴を、紛れも無い僕自身がその程度しか理解していないと幼女は言った。
 その事に、僕はあまり驚かなかった。

「このスキルの効果、それを端的に述べるとじゃな? 生理的成長以外の否定じゃ」

 よく意味が解らない。
 だから僕は、そういう顔をした。

「もっと簡単に言い換えると、加齢がもたらす生理的変化以外の変化を無効化する。年を重ねれば身長も伸びるじゃろう? そうなれば当然ステータスも変化するはずじゃ。そういう当たり前な変化以外を、このスキルは無かった事にするのじゃ」

 難しい説明を、少しだけ難しい説明に言い換えた。
 僕は全部を理解する事は出来なかったけど、それでも根本は理解した。
 生理的な変化以外を無かった事にする。
 それはつまり、老衰以外の死も無かった事にされるという事。
 だから僕は、こうして蘇った。

 

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