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3.プロローグⅢ

 不意の声をかけられ驚くフラン。
 突っ伏していた頭を勢いよく上げ、声がした方向を見る。

「あの……えっと……」

 そこには金髪で背の高い男性冒険者が立っていた。
 優しい表情でこちらを見ている。
 
 えっ……なに?
 もしかしてこの人僕に声かけたの?
 ちょっと話しかけただけで、「あんな奴の力が必要なくらい弱いのか?」って馬鹿にされるような僕に??
 い、いや人違いかもしれない……
 一応聞きなおしてみようかな。

「僕に御用ですか?」

「はい。そうですよ」

 僕だったあぁぁぁぁ!
 いつぶりだろう!
 他人から話しかけられるなんて―――しかも嫌そうな顔してないよ!
 大抵話しかけられる時って皆嫌そうな顔してるのに、この人すっごい笑顔だ!

「あの~ 同席してもいいかな?」

「えっ? あっ、はい! どうぞお掛けください」

 嬉しさのあまり取り乱していたフランが我に帰る。
 冒険者の男性は、フランの前に座った。

「それであのー、どのようなご用件でしょうか?」

「はい。実は私のパーティーが、先日新しい迷宮を発見したんです」

「迷宮……ですか」

 迷宮、またの名をダンジョン。
 古代文明の遺産であり、かつての有力者が建造したもの。
 その多くが生前に手に入れた物を隠すために造られていて、中には財宝やら器用な魔法道具が眠っている。
 僕も以前別のパーティーに同行して、迷宮に行った事がある。
 その時は怖いモンスターに追い回されたり、トラップに引っかかって死にそうになったり……
 あんまり良い思い出はないかな。

「その迷宮に今日から潜ろうと思っているんです」

「へぇ~ そうなんですね」

「よかったご一緒しませんか?」

「あーはいわかりまし―――えっ、今なんて?」

「私のパーティーと一緒に、迷宮探索に行きませんか?」

 えっ……ええええええええ!!
 ぼ、っぼぼ僕がパーティーに誘われたあぁぁぁぁぁっ!!?
 
 フランの脳内はてんやわんやだった。

「ど、どどどどうして僕を!? 自慢じゃないですけど、僕すごく弱いですよ!?」

 本当に自慢じゃない。

「知ってますよ?」

 あー知ってるんだ。
 まぁそうだよねぇ……って違う!

「だったら尚更どうして僕なんかを? あなたはシルバーランクの冒険者ですよね? 僕なんか誘わなくても十分戦えるんじゃ……」

 男性冒険者の首から銀色のプレートがかけられている。
 あれが冒険者の序列を示すもの。
 フランが下げているのはコッパーのプレートである。
 シルバーランクの冒険者は、この町にはほとんどいない。
 その理由は、ここがはじまりの町と呼ばれる冒険者にとってのスタート地点だからである。
 この町は、強力な魔物達が生息する地域や魔王がいる魔王城から最も遠い場所にある。
 そして冒険者になった者がこの町を出るためには、シルバーランク以上の昇格しなくてはならない。
 そうでなければこの先の戦場で戦っていけないからだ。
 そのためこの町にいる冒険者は、ほとんどブロンズランク以下ばかり。
 シルバーランクになった者は、すぐに次の町へ行ってしまう。
 だからこそ、フランは思った。

 何で僕なんかを誘うんだろう?
 やっぱり裏があるのかな?
 表情には見えないだけで、心の中は嫌な顔してるのかな……

 そう思っていると、男性冒険者が両手を組んで肘をついた。
 そしてこう答える。

「理由ですか? そうですね~ 君が誰よりも努力家だから―――でしょうか?」

 男性冒険者はニッコリと笑ってそう言った。

「私は君よりずっと前からこの町にいます。だから君の事も、君がこの町へ最初に来た日から知っているんですよ」

 フランは黙って聞く。
 男性冒険者も続けて話す。

「君はこの町へ来たその日から、変わらず頑張っている。何度打ちのめされても諦めず、何度突き放されても食らいついて行く。その姿勢を貫ける人は、そういませんよ?」

「い、いえ、単に往生際が悪いだけで……」

「そうかもしれませんね? でも私は、そんな君の姿勢を心から尊敬しています」

 男性冒険者は笑顔を止め、真剣な眼差しでそう言った。
 この瞬間、フランの中に電流が走る。

 初めてだった。
 尊敬なんて言葉を言ってもらえたのは、生まれて初めてだった。
 こんなに嬉しい事があっていいのかな?
 夢じゃないよね?
 ううん、この瞬間が夢でも幻でもいい。

「だから……一緒に冒険に行きませんか?」

 男性冒険者は立ち上がり、そっと右手を差し出した。
 フランも立ち上がり、その手を強く握る。

「はい! よろしくお願いします!」

 生まれた初めてされた期待。
 こんな僕を尊敬して、期待してくれる人が居るんだ。
 だったら全力でそれに応えよう。
 こんな僕に何ができるかなんてわからないけど……
 きっと役に立てる事はあるはずだ!

 フランは決意した。
 この人の期待に応えるためなら、何だってやろうと。
 自分の全てを賭けてでも、このクエストを成功させると決意した。

 彼はまだ知らない。
 このクエストが、彼の運命を大きく変える事を。
 迷宮で待つ、一人の少女の存在を……
 少年少女が出会う時、新たな英雄譚が始まる。

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