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第41話

「返してください!」

 澄人はペンダントを取り戻そうと手を伸ばしたが、男は後ろへ飛んでそれを避ける。

「おいおい。せっかく拾ってやったのに、その態度はないだろ」

 しかし、それが嘘だというのは明らかだった。

 ペンダントのチェーンには、何かで切断されたような跡。そして男の左手には、小さなニッパーのようなものが隠し持たれている。

(ぶつかった時に、あれでペンダントのチェーンを切ったようですね。しかもあの僅かな間でそれを行ったところをみると、こういうことに手慣れている……)

 兎にも角にも、ペンダントを取り返さなければと、ナオは足を曲げ構えた。だが――

「マスターに何をするおつもりでしょうか?」

 ペンダントを盗った男の側にいた、黒髪のH.Wタイプアーティナル・レイスが、彼女の前に立ちはだかった。

「くっ……」

 ナオは男達とアーティナル・レイスの人数を確認する。

 男達は全員で四人。それだけならば、ナオがペンダントを取り返すことはできたかもしれないが、問題は同じく四人いるW.Hタイプのアーティナル・レイス。

(一般販売されている、標準的なタイプが三人。残り一人は……)

 ナオは目の前にいるアーティナル・レイスに視線を戻す。

(久重重工製、HW-1385……フミヒメ)

 黒い長髪に、丈の短い和服調の黒い服を身にまとった、一見するとおしとやかな感じのアーティナル・レイスだが、その性能は折り紙つき。空戦用アーティナル・レイスのベース機として、軍が採用したほどだ。

「取り戻そうとするってことは、少なくとも価値のないものってわけじゃなさそうだな」

 男はペンダントの金属ケースを握った。

「そのケースに触るな――!!」

 澄人は再度、男からペンダントを取り戻そうとするが、

「おっと! そうはいかねぇよ」
「強引なのはよくねぇぜ? フフフ」

 男の仲間達が壁を作ってそれを妨害する。

「必死なところを見ると、この中にはよっぽど大事なものが入っているようだな」

 男はペンダントのチェーンをつまみ、振り回し始めた。

「や、やめろ! 頼むから乱暴に扱わないでくれ!」

 ペンダントのケースの中には、マイクロメモリ……澄人とはるの子供達が入っている。

 それを乱暴に振り回されたとあっては、彼も気が気でないだろう。

 壁となっている男達を強引に押しのけようとするが、

「……少し黙れよ」

 ペンダントを持っていた男は振り回すのを止め、ケースを指で持って澄人に見せる。

「お前の大事なペンダント、どうなっても知らねぇぞ?」
「っ……」

 澄人は口を閉じ、前のめりになっていた姿勢を戻した。

「勘違いしているようだが、別に返さないとは言ってない。ちょっと俺達の遊びに付き合ってくれれば、考えてやってもいい」
「遊び?」
A.R.B(アーティナル・レイス・バトル)って、知っているだろ?」
「アーティナル・レイス同士を戦わせる、ゲームのことか?」
「俺達はA.R.Bが趣味でな。この近くのゲーセンにある地下フィールドで、よくバトルをしている。ちなみに俺達はナイト・クロウズってチームで、俺はチームリーダーをしている、黒邉(くろべ)ってもんだ。お前は?」
「……柳原だ」
「それで柳原。俺が言いたいことは、もうわかったよな?」
「そのバトルで勝ったら、ペンダントを返すってことか?」

 ペンダントを持っている男――黒邉は、ニヤリと笑った。

「ただし負けたら、ペンダントは俺の物。ついでに、お前のアーティナル・レイスもいただく」
「なっ――!?」
「先行量産型は、一般販売されていない激レア品。ジャンク品ですら、欲しがっているマニアが大勢いる。売ればそれなりの額になるだろうからな」
「そんな要求、受け入れられるわけがない!」
「なら、このペンダントは俺の自由にさせてもらうぜ? それでいいのか?」
「ぐ……っ」

 拳を握り、震わせる澄人。

 ナオは彼に、脳内音声で話しかけた。

「(澄人。勝負を受けましょう)」
「(ダメだ! もし負けたら、ペンダントだけじゃなく、君まで……)」
「(ですが勝負をしなければ、マイクロメモリが――あなたと姉さんの子供達が、死ぬかもしれないんですよ!)」
「(わかっているよ! わかっているけど、でも……相手のアーティナル・レイスは、軍用のベース機に選ばれるくらい、高い基本性能を持っている。しかもバトルをしているってことは、改造もされているはず。君の性能じゃ……)」
「(大丈夫です)」
「(何か勝算があるの?)」
「(確かに、相手のアーティナル・レイスの性能は、先行量産型とは比べ物になりません。以前までの私だったら、きっと勝負にならなかったでしょう)」
「(え?)」
「(忘れていませんか? 今の私は、澄人が施術で改良をしてくれたおかげで、現行モデル並……いえ、それ以上の性能を有しているんですよ)」
「(あっ……!)」
「(向こうはそれを知らないはず。充分勝機はあります)」

 二人が脳内音声で会話をしていると、なかなか返事をしないことに待ちくたびれたのか、黒邉は再びペンダントを振り回して、澄人に聞いてきた。

「そろそろはっきりしろよ。バトルをするのか、しないのか」
「……わかった。バトルをする」
「っふ。そうこなくっちゃな」

 澄人とナオは、黒邉達と共に近くのゲームセンターに向かった。

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