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第40話

「ん?」
「あっ……え、えっと……」

 即座に手を離したナオだったが、澄人は足を止めて彼女の方を向いている。

 掴んだ理由を何か言わなければと、視線を動かしたナオは、テーブルに置かれているスルバーケースから、未使用のスプーンを手にとった。

「パ、パフェ、澄人もいかがですか?」

 パスタをまだ食べきっていない澄人に、パフェを勧めるのはどうかと思ったナオだったが、それ以外に思いつかなかった。

「それじゃあ、一口だけもらうよ」

 澄人はナオから受け取ったスプーンを持って席に戻ると、ナオがまだ手をつけていない、イチゴのソースがかかっているアイスクリームの部分をすくって食べた。

「うん。甘くておいしい」

 食べ終えた澄人が、皿へ置こうとするスプーンをナオはつい見てしまう。

「も……もう一口、いかがですか? マンゴーとアイスを一緒に食べると、すごくおいしいですよ」
「そんなに? なら、もう一口だけ」

 マンゴーとアイスを一緒に口へ入れた。

「お~! ナオの言う通り、このマンゴーとアイスは合うね」
「もしよければ、もう少し食べても……」
「いや、流石にもう止めとくよ。パスタもまだ残っているし」
「そ、そうですよね」

 澄人が再びパスタを食べ始めると、ナオも今度は慌てずにパフェを口へ運ぶ。そして……

(食べながら、少しずつ回して……)

 澄人の目を気にしつつ器を回転させ、澄人が二度目に食べた箇所を、自分の前まで持ってきた。

(澄人が食べたところ……)

 チラッと、ナオは澄人を見る。

 ちょうど彼の目は、パスタに向いている最中だ。

(今なら……)

 ナオは澄人が食べた部分をスプーンですくう。

(い……いいですよね……? 最後には全部食べるわけですし……)

 わずかに手を震わせながら、パフェを口の中へ入れ、それをじっくり舐めた。

(ん……ぅふ……)

 いやらしく、卑怯で……澄人を騙していることに罪を感じながらも、至福に満たされる。

 それが気持ちを高鳴らせ、ナオはスプーンを加えたまま澄人を見ると、

「あ、ナオもパスタ一口食べてみる?」

 彼はパスタをフォークに巻きながら言ってきた。

「い、いえ! いいです。いっぱいですから……」
「そっか。まぁパスタまで食べたら、お腹の余裕がなくなっちゃうかもしれないもんね」
「え、ええ。まぁ……」

(今の状態でも、気持ちを抑えるので精一杯なのに、澄人が口をつけたパスタまで食べたら、私もう……自分を抑えられなくなっちゃいます)

 そう思いながらも、断わったことをちょっと後悔し、時折澄人のパスタに目をやりながら、ナオはパフェを口に運び続けた。

 
 昼食が終わって店を出ると、ナオは澄人に「次はどこへ行くのですか?」と聞いた。

「ここから歩いて一五分くらいのところにある、植物園に行こうと思っているんだ。春夏秋冬の四つのエリアにわかれていて、いろんな季節の花が見られるみたいなんだ」
「いいですね!」

 検索してみると、それなりに広い植物園で、普通の花以外にもナオの好きな桜もある。

(見ているうちに夕方になるでしょうから、桜の木の側で、澄人に想いを伝えるというのも、いいかもしれませんね)

 植物園へ向けて歩く二人。すると前から、アーティナル・レイスを連れた、少々ガラの悪い感じの、若い男性の集団が歩いてきた。

 それを避けようと道の端の方へ寄って、すれ違った瞬間――。

「――おっと!」

 その中の一人が、澄人にぶつかってきた。

「っ……すみません」

 ぶつかられた側であるにも関わらず、謝る澄人。

「いやー、こっちこそすんませんね」

 ぶつかってきた方も頭を下げてきたため、何も心配する必要はないとナオは思ったのだが……

「あれ?」

 澄人は胸の辺りを触り始めた。

「どうかしましたか?」
「……ない! ペンダントがない!」
「えっ!?」

 金属製の頑丈なペンダントチェーンが、そう簡単に切れるとは思えないが、もしかしたら今ぶつかった時に落ちたのではないかと、ナオはすぐに地面を探す。すると、先ほどぶつかった男が近寄ってきた。

「お探しものはこれかい?」

 その右手には、澄人のペンダントが握られていた。

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