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第37話

 並んでいる露店では、フルーツスムージーやカクテルジュース等の飲み物、歩きながら食べられるカットフルーツやアイスクリーム。メガネや帽子といった、ちょっとしたファッションアイテムが売られている。

「わぁー、すごいですね!」

 初めて間近で見る、若者をターゲットにしたお洒落な露店の数々に、ナオは子供のように目を輝かせた。

「澄人、あそこのお店を見ていいですか?」

 ナオは、ある露店を指差した。そこで売られているのは、花等の植物を模した、きらびやかなアクセサリー類。

 こういう店で売っている品は、胡乱げに思われがちだが、アクセサリーが並べられているテーブルには許可証が貼られていて、店番をしているH.Wタイプ(女性型)のアーティナル・レイスが首からかけている名札にも、所有会社と連絡先がちゃんと書かれている。変な偽物を売りつけられるような心配はないだろう。

 澄人が「うん。見に行こう」と言うと、ナオは彼と共にその店まで足を運ぶ。

「いらっしゃいませ」
「すみません。少し見させていただいてもいいですか?」
「もちろんです。ごゆっくり、ご覧になっていってください」

 ナオは店番をしているアーティナル・レイスに断りを入れてから、品物のアクセサリーを見始める。

(これは薔薇のペンダントですね。こっちは、カーネーションのネックレスでしょうか?)

 前かがみになりながら、橋から順番に見ていた時だった。

「あっ!」

 イヤリングが置かれているコーナーで、彼女の目が止まる。そこには、ナオが好きな桜の花びらを模したイヤリングがあった。

(この桜のイヤリング、かわいいです)

 ナオがその桜のイヤリングをじっと見つめていると、店番のアーティナル・レイスが「よろしければ、試しにおつけになってみてはいかがですか?」と声をかけてきた。

「えっ、いいのですか? あ、でも……」

 彼女は商品の近くに置かれている鏡を見る。

(私に似合うのでしょうか?)

 先行量産型であるナオは、現在生産されている、他の十七歳程度の外見を持つモデルよりも身長が少しばかり高く、おまけに髪の毛も短い。

 目の前にいる、店番をしているアーティナル・レイスの方が似合うのではないか? と、鏡に映る自分と見比べてしまう。

(……このイヤリングは、私のようなアーティナル・レイスには、似合わないかも)

「ナオ。つけてみたら? 別にお金がかかるわけじゃないんだし」
「は、はい……」

 似合わないかもと思いつつも、イヤリングをつけてみたいという気持ちがあったナオは、澄人に促される形で、両耳につけてみた。

「……どうでしょうか?」
「似合っているじゃないか」
「本当ですか?」
「うん。まるで、ナオのために作られたんじゃないかって思うくらいに」
「そんなに……?」

 イヤリングをつけた状態で、ナオは改めて鏡を見る。

 本当に似合っているのかどうかという不安は拭いきれなかったが、桜のピンク色が耳についたことで、雰囲気が一気に変わったように思えた。

 何より、澄人に似合っていると言ってもらったことが嬉しくなり、ナオはこのイヤリングをすごく気に入った。が……

(……三二〇〇円)

 サビに強い金属を使っているし、傷防止のコーティングもしっかり施されている。それを考えれば十分安い値段ではあるのだが、ナオにとってその額は、気軽に買ってほしいと言えるような値段ではなかった。

(ダメダメ! ほしいだなんて思ってはダメです! だいたい、アーティナル・レイスである私が、物を買ってほしいと人間の方にねだるなんて非常識です!)

 値段を見たナオは、イヤリングを外そうとした。すると「待って、ナオ」と澄人に止められた。

「はい?」
「すみません。このイヤリング、もらえますか?」
「澄人! わ、私、そんなつもりでは――!」

 電子マネーで支払いをしようとする澄人に、ナオは慌てて言った。

「さっきゴミ拾いを手伝わせちゃったからね」
「あれは、私が手伝いたくて手伝っただけで、澄人から報酬をいただこうと思ってやったわけではありません!」
「別にそれだけが理由で買うんじゃないよ。僕がナオに買ってあげたいんだ。別に何万円もするわけじゃないし、それに……」

 澄人はナオを二秒ほど見つめ、目を閉じた笑みを浮かべる。

「桜のイヤリングをつけているナオ、とてもきれいだよ」
「――――っ!!」

 瞬間、ナオのリアクターが、ヴォン! と強く鳴る。

 まるで愛の天使が放った特大の矢に、ハートを射抜かれたかのように。

(澄人が……私のことをきれいって……あぁ……)

 彼女が頭の上に、見えないハートマークを浮かべていると、その間に澄人は電子マネーで支払いを済ませた。

「ナオ。次はあっちの方を見に行ってみようか」
「あ……はい~」

 そしてしばらくの間、澄人を見るナオの目は、うっとりとしたものになっていた。

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