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第35話

 澄人とナオがゴミ拾いを始めると、ゴミを捨てる者は多少だが減っていった。けれどその代わりに、アーティナル・レイスと共にゴミを拾う澄人のことを、通り過ぎる人々は奇異の目で見ていく。

 ナオはそれを見ているのが辛かった。

 澄人は善意でゴミ拾いをしている――悪いことをしているわけではない。それなのに、なぜそんな目を向けるのか? なぜ笑うのか?

 次第にナオは、自分の内から怒りの感情が湧き上がってくるのを感じた。

(……何がそんなにおかしいのですか!)

 横目でその人間達を見ているうちに、ナオの手に力が入り、拾った缶を思わずグシャッ! と握り潰す。

 その音が鳴ってすぐ。澄人の声が、彼女の耳に届いた。

「ナオ」
「澄人……」
「大丈夫。僕は気にしていないから」
「……はい」

 ゴミ拾いを再開するナオ。

 澄人の顔を目にした彼女は、これ以上怒りを表に出すことはできなかった。なぜなら、彼が穏やかな笑顔を浮かべていたからだ。

 それはたぶん、アーティナル・レイスの役に立つことができているから。そして共に同じゴミ拾いをしていることで、はるの願いである、人間とアーティナル・レイスが仲良く――互いを支い合えるような世界を、見ているからなのかもしれない。

(いつか……澄人と姉さんの願いが叶って、このような光景がなくなる日がきますように)

 ナオはそう願いながら、ゴミを拾い続けた。

 三人で行ったことで、周囲に散らかっていたゴミは十分程度で片付け終わり、散らばったゴミがなくなったことを確認すると、M.Lタイプのアーティナル・レイスは澄人とナオに礼を言った。

「手伝っていただき、ありがとうございました」
「始める前に言ったように、僕達はボランディアでゴミを拾っただけだよ」
「ですがアナタ方のおかげで、散らばったゴミを早く拾い終わることができたのは事実です。できれば、何かお礼をさせていただきたいところなのですが……」

 残念がるように少しばかり頭が下がる、M.Lタイプのアーティナル・レイスに、澄人はニッコリと笑って見せた。

「そういうことが許されていないのは、わかっているよ。そもそも僕は、見返りがほしくてやったわけじゃないからね」

「私も澄人のボランティアをお手伝いしただけですので、お気になさらないでください」

 ナオもそう言うと、M.Lタイプのアーティナル・レイスは「本当にありがとうございます」と、もう一度礼を言って頭を下げる。と――

「あっ、ちょっとそのままでいて」

 澄人は、カバンの脇のポケットから厚手のウェットティッシュを取り出すと、M.Lタイプのアーティナル・レイスの体についていた、吐きかけられた唾や飲み残しのジュースを、ささっと拭いた。

「これでよし。もういいよ」

 M.Lタイプのアーティナル・レイスは頭を上げると、澄人が手に持っている汚れたウェットティッシュにカメラアイの視線を向けた。

「まさか、ワタシの体を拭いてくださったのですか?」
「軽くだけどね。本当はもっと拭いてあげたいんだけど、あんまり綺麗にしちゃうと、会社に戻った時に君が何か言われちゃうだろうし……」
「…………」

 おそらく驚いているのだろう。M.Lタイプのアーティナル・レイスは、カメラアイを澄人に向けたまま動きを止めた。

 その間に澄人は、ウェットティッシュを持参していた小さめのビニール袋へ入れると、それをカバンの中へと入れる。

「それじゃあ、僕達はそろそろ行くよ。仕事……辛くて大変だと思うけど、がんばってね」

 澄人がそう言うとナオもお辞儀をして、立ち去ろうとした。すると、

「あの――」

 M.Lタイプのアーティナル・レイスが、二人を呼び止めた。

「本当に……本当にありがとうございます! このお礼は、いつか必ずさせていただきます!」

 澄人とナオは、その返事として軽く手を振り、その場を後にした。

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