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第34話

 休日ということもあって、大通りは歩行者天国となっていた。

 平日は車や自転車が走っている道を悠々と歩く人々。その中には、アーティナル・レイスの姿もある。そのアーティナル・レイス達は皆、所有者(マスター)の荷物持ち、道端の清掃、外国人観光客の道案内や露店の店番等、人間のために働いている。

 そんな彼等の姿を見ながら歩いていた澄人が、急に止まった。

「どうかしましたか?」
「いや……」

 澄人の視線がどこを見ているのか? ナオが視線を追うと、その先にはゴミ収集用のボックスを背中に装着している、四本腕のM.Lタイプ(作業用)のアーティナル・レイスがいた。

 人工頭脳――AI-visを搭載しているという点はH.W(女性型)のナオと同じだが、人工皮膚ではなく白いFRP《繊維強化プラスチック》で骨格と内部パーツを覆っている――いかにもロボット的な外見の、そのM.Lタイプ(作業用)のアーティナル・レイスの体は、ところどころに傷や汚れがある。

 右肩の剥がし残された黄色いステッカーには、“建設”という文字が残っているのを見ると、元はどこかの建設会社で働いていたのかもしれない。それが何かの理由で売られ、中古として販売されていたのを清掃業者に買われ、今は街のゴミ拾いの仕事をさせられている……といったところだろう。

「…………」

 伸縮する四本の腕を使い、黙々と――小さなゴミも見逃さず、丁寧に拾っていくM.Lタイプ(作業用)のアーティナル・レイス。だが……落ちているゴミは、なかなか減らず増えていく。

「おっ、あそこに捨てようぜ」

 近くを通った高校生くらいのグループが、M.Lタイプ(作業用)のアーティナル・レイスに向けて缶を放り投げた。

 飲み残しのジュースが体にかかり、数個の空き缶がゴミを拾った地面へと落ちる。そこへ別の人間が、次々にゴミを捨てていく。

 それでもそのアーティナル・レイスは怒らず、文句も言わない。いや……例えそういう感情を抱いていたとしても、言うことはできない。

 仮に怒ることがあれば、人間を不快にさせたとして、所有者である会社へとクレームが行く。そうなれば、良くて売却……悪ければ処分される。

 アーティナル・レイスには、人間のような人権もなければ、守ってくれる法律もない。例え意思があろうと、人間のために造られた機械の存在である以上――人間達が彼等を意思のある存在として認め受け入れない限り、現状は変わらない。

「おい! 邪魔だぞ、ロボット!」

 アーティナル・レイスが転がる空き缶を拾っていると、五十代くらいの男が怒鳴り蹴る。

 蹴られたアーティナル・レイスは倒れ、拾ったゴミの一部がボックスから飛び出て、地面へ散乱した。しかし男はそれを拾おうとせず、アーティナル・レイスに唾を吐いて立ち去って行ってしまう。

「……ごめん、ナオ。ちょっとあのアーティナル・レイスのところに行ってくる」

 澄人がそう言うと、ナオは「私も行きます」と彼についていくことにした。

「大丈夫?」
「……?」

 澄人が声をかけると、体を起こしかけていたアーティナル・レイスは、カメラアイと首をキョロキョロと動かし、横や後ろを見る。どうやら、別の誰かにかけた言葉だと思ったようだ。

「君に言ったんだよ」
「ワタシに?」

 澄人が言うと、ようやくM.Lタイプ(作業用)アーティナル・レイスは、彼にカメラアイを向け、立ち上がった。

「失礼ですが……株式会社シライクリアサービスの、関係者の方でしょうか?」
「いや、違うよ」
「違う……?」

 それではなぜ声をかけてきたのか? という、疑問が含まれている音声を出すM.Lタイプ(作業用)のアーティナル・レイスに、二人は名前を名乗る。

「僕は柳原澄人」
「私はナオと申します」
「ワタシは、C-2-7と呼ばれております。それで、ワタシに何か御用でしょうか……?」
「結構派手に転倒したみたいだったから、見ていてちょっと心配になったんだ」
「心配? このワタシを……?」
「体は、どこも損傷はしていない?」

 M.Lタイプ(作業用)のアーティナル・レイスの体――主に関節部分へ目をやりながら、澄人は聞いた。すると「はい」という言葉が返ってきた。

「よかった。じゃあ、散らかったゴミを拾うのを手伝うよ」
「お気持ち感謝いたします。ですが、ゴミ拾いはワタシの仕事です。無関係な人間の方に手伝っていただくわけにはいきません。それにゴミが散らかったのは、転倒したワタシの責任です」
「なら、今から僕がするゴミ拾いは、ボランティアってことで。それなら問題ないでしょ?」
「ボランティア……?」
「ボランティアを断れって命令は、されていないよね?」
「はい……」
「それじゃあ、ちょっと道具を借りるよ」

 澄人は道の脇にカバンを置くと、M.Lタイプ(作業用)アーティナル・レイスの背部にある予備のホウキを手に取ると、散らばったゴミを集め始めた。そしてナオも、「私も手伝います」とゴミ袋を広げた。

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