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6畳の部屋に誂えたベランダは狭く、そして何気なく屈みこんだ。
タオルケットをかぶり、新月を眺める。

「どうかしたの。黙り込んで。……果莉くんの香りがする」
隣に座り込む部長に耳を甘噛みされて、胸が高鳴った。

「きみの香りが好きだ、全部欲しくなる」
タオルケットを外され、項を撫でられて痺れが走る。
「愛欲が過ぎる自覚はあるんだ」
部長。
「いけないなあ、僕は。自らを鎮める事ができない、きみに対して制御がきかない。諺で『立って半畳・寝て一畳・天下とっても二合半』とあった、足ることを知らなければ。恋に落ちるとどん欲になるんだ、学べたよ」

「人肌のぬくもりが心に沁みる」
俺もそう、これが愛情なんだろう。

「傷付くのが怖いとか、あなたは思わないようです」
ぼんやりとしていたせいか、口に出した。
「きみ、傷付かずに大人に成れると思うの? 傷付いて怪我をした痛みを知るから、人にやさしく出来るようになるんだよ」
部長が俺に上着を羽織らせてくれ「きみを包んであげたい」と、沈んだ声音。
俺なんて、あのぷちぷちと指で潰せる緩衝材でも構わないのに、そんなに愛情を注いでくれるんだ。
「そういえば、ぷちぷちと潰れる緩衝材って、どんな名前ですか? 検索しても『プチプチ』なんですけど」
部長が「突拍子もない事を。きみは入社式から変わらない」と微笑する。
「エアークッション。『プチプチ』は最初にこれを作ったメーカーさんがつけた名称で特許をとっているはず」
そうか。
「完全そうな果莉くんに、ようやく業務を教えられた。僕はまだまだだなぁ」

俺は完全ではない、壊れているとご存じだろうに。

「学生時代に遊ばなかったせいだろうか、好きな人に押し掛けてしまう。抑える事が出来ないし、きみの寂し気な表情にどうしようもなく惹かれている。何とかしたいと思う」
そうなんです?



「ああ、そうか。僕は肝心な事にようやく気付いた。言葉は想いを繋げていくものだけど、心を込めすぎると相手には負担になるんだ。実証して理解した」
あなたの、自分の弱さを曝け出す様は、俺には到底できない、巡り会えた方だから例え金銭より、あなたの言葉が大事に思える。

「恋愛はいくつになっても容易くないんだろう。だから、相手を大事にしつつ加減が必要なんだな」

あなたは強くて、常に前向きで、嫋やかな一面がある。
どうしようもなく惹かれて見つめているのは俺の方だろう。


「月が綺麗だよ、果莉くん」
言われてみれば。
でもそれって夏目漱石が「あなたを、」と訳した言葉では。
「これから先、なにか寂しい事が起きたとしたら、月を眺めなさい。あの綺麗な輝きを」

「きみは誰にも負けない輝きがある事を思い出すんだよ」
あさぼらけの時刻らしい、夜が明けていく。
何故か寂寞感を覚える、兎並部長、今何を言っているのか。




前髪をかきあげられて「1つお願いがあるんだ」と言われた。
「はさみを片付けようか。きみの持つはさみ」

「代わりに僕がきみの寂しさや、求めているやさしさを捧げていきたい。惹きつけられるのもあるけど、心がさび付いたように見えているんだ、悲憤の思い出を消し去ってあげたい」

「俺もいいですか」
消えないで、とは言えない。ストレートに言う勇気がない。
言っても、人の愛は何気なく消えるから。

「消える前に、一言ください」
真剣にお願いしたが、部長が戦慄している。表情が強張った。
何か違う、齟齬がある。

「きみはどれだけ辛い想いを経験したんだ、計り知れない。どうしたらきみを救えるの」
どう話せば。
「僕が迷ってはいけないな、これから想いを紡いでいくんだよ。そうしよう?」

その夢がいつか叶うと、俺は願う。
部長は「果莉くんが居てくれたら安心する」と言ってくれる、でも俺は不安が募る。

あなたは兄のように居なくならないだろうか、俺の目の前から。
恋をすると安心じゃない、相手が大事過ぎて不安ばかり抱えてしまう。
俺の悪い癖か、それこそ黒い幕なのか。
部長にだけは気付かせたくない、心配なんてさせたくないけど、俺はあなたの傍にいていいですか。


「膝をついていたらきみと目線が合うね。こういうの、幸せホルモンが生まれるらしい」
部長の目が澄んでいて美しく、迷いが無い。
床に手をつき、部長の唇を奪い、吸った。
幸せになりたい、心から思う。
唇を話すとき目を開けたら、部長も潤んだ瞳で見つめていた。鼻の頭をこつんとされた。
「あなたは本当に綺麗です」
「きみが言うと言葉の重みを感じる、それに、ようやくきみから誘ってくれた」
思わず鎖骨にキスをすると部長がのけぞる。
「あなたの顔に見惚れてしまうから、後ろから、宜しいですか」
部長の臀部や腰を撫でながら訪ねてみた。
「あなたに焦がれて居ます」
すると部長が俺のこかんを触り、「聞くまでもないじゃない、こんなに硬くして、きみの好きにしてみていいから。でも僕はきみの欲情したその顔を眺めながらいきたい」
とん・と軽く胸部を押されて床に背中を打つと部長が圧し掛かり、俺の頬を撫でてキスをしようとしたので腰を掴んで横倒しにした。
「失礼します、お許し下さい」
お尻をわしづかみにして割れ目を舐め始めると、俺の男根を部長が口に咥えてしゃぶるのが感触でわかった。
この手練れ、油断ならない。
正面から圧し掛かるんじゃなかった、やられた。
部長の穴をした先で丹念に舐めても、股間が疼く。もっていかれそう。
「きょうりくん、前立腺からやばいの?」
掠れた声で聴かれて当確、先走る。
「あの、それが」
がんしゃしてしまったか。綺麗な顔に、しくじった。
「青い匂いがする、ねえ、きょうりくん。おいでよ?」
指で押したな、体が反る。
尿道を弄るあたり、かなりやばい。
「こんなに大きいの、僕の中に入れてみて。ちゃんと顔をみて、この先も一緒にいるんだから、行く顔に慣れてほしい」
「ですよね」
自分の中で何かが爆ぜた。情欲でも構わない。

反転して、部長に向き合い「好きですから」とキスをした。俺の青いせいえきが匂う。
「猛々しい顔つきも魅惑的だよ、きみに溺れていく」
「俺で良ければ、溺れて下さい」
あなたしか見ていないから。
「……疼く」
部長が脱力したのか喉を晒して、髪がゆらりと舞った。




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