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数日後、幹部会議が行われ、その場に呼ばれてしまった。
「噂で耳にしたけど、あの荒武者を退治したらしい。きみは本当に侍?」
ああ、許せなくて恫喝した。
社内では隠し切れないか。
「部長、ここは相楽くんを恫喝すべきですぞ」
「面白いじゃないですか? それに」
「はい?」
「僕を庇ったらしいんです。暴言は看過しませんが、上司として信頼に値する部下を得たと思います。普通はしませんよ、自分の出世を願うなら。相楽くんは身を投じたんです」

部長、穏やかな視線で見ないで欲しい。部下の失態です。

「清水寺の舞台から飛び降りたようなものです。会社の枠にはまらず、己を犠牲にして。僕でもできるかどうか」

自己犠牲のつもりはなく、ただ、部長。
あなたを守りたくて。
侮蔑されたのが許せなくて、だからどんな処罰でも俺は受ける覚悟です。

「相楽くん。今度、京都へ行こうか? 丁度、取引先開拓で出張の予定なんだ。きみに同行してもらおう。清水寺をきみに見せておこう」
「修学旅行でいきましたけど?」

「きみは全社が名を知るルーキーなんだ。分かる? きみの言動は全社が注目するんだ、きみは、そういう立場であり、見られるもの」
部長が腰に手を当てて俺を見つめる。

「会社の枠からはみ出たきみが、今どんな場所に立っているのか。上司として知らせておく。会社には在籍させるけど、あまり僕も庇いきれないかも。だって、きみは侍だもんね?」
侍、そうだろう。
「群れるのが嫌いで、この人と決めたものの言う事は聞く。違わない」
「仰る通りです、恥ずかしながら」

「じゃあ1つ正す。口は災いの元、品格を問われると留意するように。分かりやすく言えばツイッターがそう、踊る阿呆に見る阿呆。経験がないかな? 思ったまま書き込めば炎上だろう」
最近はしていないが。
「ボロカス扱いされたらだれでも嫌だよな」
はい?
「コテンパンにしたくなるさ」
ええ?



「部長、相楽くんを飼い殺しになさるんですかい」
「御幣がありました?」
部長が課長を相手に鼻で笑ってあしらう。


「相楽くん。僕はきみを飼うつもりはない。部下だから。きみが3年坂を今のような軋んだリズムで急速に転げていかないよう食い止めるから。僕が体を張ってきみを守る。言葉だけじゃないからね」

課長が「部長は面倒見がよすぎますよ、相楽くんは粗雑じゃないですかねえ?」と苦言を呈すると、部長は「僕の直属の臣子ですが?」と切り返してくれた。

俺は、守られているような気がする。部長には包容力がある。
現代は非寛容の世の中で他者を認めないものが増えたと聞いた、部長はきっと、元々寛容の精神がある人なんだ。
俺を部下として傍に置いてくれたし。ご恩に感謝しなければ。



部長が話をしようと、退社後に一緒に歩いてくれた。俺は社員寮だけど、部長は違うだろう?
「籠の中から飛び出しても構わない」
ん?
「きみには営業の能力がある、それを認めたうえで、やりたい事があるんじゃないかと疑念を抱いている」
どうしてだろう。

「美容師さんに成りたいんじゃないの?」

「打ち明け話になりますが、兄が美容師で。かっこいいと想い、マネをしました。自分にとってヒーローでした。どんな漫画や映画の主役より、俺を庇い、守ってくれましたから」

話しながら、すっきりした。
そうか、きちんと誰かに話して聴いてもらえば、もっと早く。
いや、部長が俺に業務を熟すよう指示してくれたから気持ちの整理ができたんだろう。
部長にお礼を、と顔を見た。視線が合ったので、目を瞬かせた。

「理解した。僕がきみを守ろうか」

自分より背の低い上司。でも温かく、やさしい人。
二度と人を愛せないと思った、親から見放され、敬愛する兄が失踪。
俺の拠り所は無かったはず。

傷付くのが怖くて、何も出来ない日々だった。
それでも、いつか。
誰かを想えるように、そんな夢が叶うといいなと俺は願っていた。

「怯まない、器量よし。普通は自分の器量に溺れておごり高ぶるだろうに」



「節度があったりなかったり。不安定なきみの傍に居るから。ん? 雪でも降ってるかな」
そんなばかな。
夏ですよ。
ああ、
「相楽くんは強くてもろい、それにきみといると楽しいし。……思いがこみ上げてもう止められない」

季節外れの雪が、あなたの頬を伝う。

「きみが好きだ、笑顔を守り抜きたい」

手の甲で拭う、あなた。
人前で泣いた経験が無いんだ、ハンカチを使わない。

「傍に居ないと、姿が見えないと探してしまう。心配でたまらないんだ」

ここまで俺を想ってくれるんだ、あなたは。

でも愛情を組み立てたら、いつか壊れてしまう。
今までそうだった、恋をしてもいつか別れの時が来る。
苦しくて辛い、あなたに出会えてよかったけど、好きになって幸せだけど。

傷付くのが怖いなんて、あなたに言ったら男がすたる。

「未来を危惧するのはきみに似合わない、お侍さん。いや、僕の大事な相楽 果莉くん」

名前?

「きみが愛おしい」
兎並部長、俺はあなたにとって、どんなものなんですか。
俺の頬にも、雪が降りそうです。でも、踏み出せない、想いが壊れるのは辛い。




「僕から誘わないときみは来ないと読んだよ」

ネクタイを外しながら余裕の笑み。
まさか、社員寮の俺の部屋まで来てくれるとは意外だが、これ。
口説かれている。

「きみは以前、入社式の挨拶で業務の虜になると言った。覚えているよね?」
忘れないが。

「よく聞け、僕はきみの虜なんだからな!」

普段とは違う口調、本気が伝わる。
だけどそれを言うなら俺が先のはずだったろう。

「それは俺です。あなたに心酔しているんです」

想いが高まる、もう堪えてはならない。

「……あなたの虜だ! 俺はあなたしか見てないから!」

部長が「まるで蜘蛛の糸を手繰り寄せたような感覚がする」とぼやく。
「悩まし気なきみを、僕は捉えた」

「しかし、僕が脱ぎだしているのにきみは勃起しない。まさか短小じゃないよね、まあ構わないけど」
誘われても。あなたには心酔しているから性欲の対象とは見ていなくて。

「僕を抱けない?」
薄目で、やや踵を上げて目を合わせてくる。如何するか。

「返事をしないなら、僕がきみを抱く」

「ぐっ?」
お尻を揉みしだかれて思わずつんのめり、部長にしがみついた。
露わな鎖骨に鼓動が高鳴る、迫られて高揚する。もう止められないものがこみあげてしまう。

「きみを骨抜きにする」
「あの!」
部長の胸を叩いた。響かせたい。

「許して欲しいのです。俺があなたを抱きたい、あなたを埋めて体温を感じたいんです!」
やさしさが欲しい、飢えている。
そして部長なのに、あなたに惹かれて・惚れている。



「今はきみの上司ではないから、きみの心のカーテンを開きたい。おいで」
床に広がる部長のウエーブかかった髪。
あなたと今夜過ごせるなら、俺の夢は叶うのかも知れない。

「こんな男前を相手に出来るなんて、僕は果報者だ。愛してるって言ったらきみは笑うかな?」
艶やかな唇。
「名前で呼ぼうか、果莉くん」
廸(ただす)さんの瞳に誘われてしまおう。

「ボトムだけ下ろせばいい、指で引っ掛けて下着を除けて。Tバックだから容易いだろう、膝を立てるからそのまま、きみの勃起した男根を僕の穴へ導く」

「火照ってしまう、きみのそれは雄々しい、動機が激しくなる、僕の方が先に湿ってしまった、ん、うん、むず痒い」

「慣らさず入れていい、その方がきみをより深く感じられそうだ」

「そうしないと、僕はなかなかいけそうにないよ? もっと奥まで貫いて、うん、そして、名前を」
呼んでみた。
鼓動が高鳴る。

「そう。もっと奥だよ、中で弾けないように僕を満たしてごらんよ、そうでなければ許さない」
あなた、どん欲ですか。そそられて間違えそう。
俺も修羅場は経験しているが、手練れは初めてだから、これは手こずるか。導かれるままにいたすか。

「僕のは自分で弄るから、きょうりくんは、僕のここ、乳首を弄んで」
もう立っている、敏感。
それに途切れる声が魅惑的で、思考が飛ぶ。

「きみの方が、背が高いんだから、僕のを余裕で嬲れるはず」
急かすんだ、場慣れしているし。
「立たせて、それを引っ張って、きみの両手はあいてるだろう」
身を捩って半身迄浮かせてくる。
「吸って、もっと強く」
舌触りが固い、舐るたびに廸さんが喘ぐ。
これ、相手が格上、でも誘われたし。退かないから。
ここですよね。
「きょうりくんの指が熱くて溶けそうだ、僕の中で疼く、目覚めたような感覚がする、もっと深く潜り込んだらいい」

「うん、いい、すごく。きょうりくん、もっと奥までおいで」
不埒な香りが漂う。



「そこで腰を捻って僕の中をかきまぜてごらん、そう、うん、もっと強くしていい、きみは、言われた通りにしてくれる、僕を善くして、もっと欲しいんだ、追い詰めていいから」

廸さん、腰が波打つようで身もだえしそうだ。淫欲を目の当たりにして動揺が隠せない。
美麗な顔で欲情する様、追い詰められたのは俺か。

「中で出して、きみので溢れさせて」

この人に吸い取られていく、まずい。
「擦るのを弱めない、僕を壊す気でこないと、もっと、」
絡めとられる。

「僕だけ腰を動かすのはなしだよ、愛しいきょうりくん、ん、もっと突き立てて、僕を弾けさせて」
ん、くやし。この人、どこまで、俺では太刀打ちが。体が大きく震えた。

「……果てた後のきみに惚れ惚れする、その尖った顎を天井へ突き刺すようにいく。もっと見たいな、その前に抱きしめたい。キスがしたいし、いっその事、きみを取り込んでしまいたい、ん・きょうりくん、抜くときは言おう、だるくなってしまう……」

廸さんが穴に手を当てている。指の間から俺の精液が漏れて滴る。
淫猥だけど蠱惑的で身震いした。

「もっと欲しかったのに、困った子だ、でも抱きしめるから」



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