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商談事態初めての光景だし、会議室へ通されて緊張感が高まるが、部長は平然としているな。
ん、いけない。俺は猫背気味だった。
部長が背筋を正して坐する様に、まず、ここから学ばねばと痛感する。
感嘆しつつ自分も背筋を正して顔を上げた。
このワイシャツ姿の方が担当の販促部か。
部長は何も言わないが? 俺が尋ねないといけないのが社会のルールなんだ。ふうん。
「毎度どうも。兎並部長。そしてお連れの子は新人さんかな」
起立して挨拶し、名刺を交換させていただいた。
「凛々しい顔立ちに流行りの無造作ヘアーの営業担当か。部長が同行させる意味が読める、鋭い目線に覇気を感じるし物おじしない。この子は伸びしろがありそうだねえ」

ここはお礼を言うべきかもしれないが「買い被りです」と思ったままを口に出したら、隣の部長に「失礼しました、まだ教育しておらず、青いまま連れ出してしまい、お詫び申し上げます」
俺の失態を庇ってくれたのか。

「いいや? 思惑通りじゃないかね。面白そうな部下を従えた兎並部長、提示内容を聞こうか」

販促担当者は機嫌が良さそう。ああ、あくまで俺は下手でいなければならないんだ、同等の立場じゃない。取引先・の意味も理解せねば。

部長が「既存の包装紙には貴社の名前が印刷されており、現状ではお客様が『どこで買ったか分かるから』と避けているとお聞きしました」
「うむ、昔なら誇りをもって店名を印刷したものが、贈られた側がお店を確認し、贈答品の価格を調べると言うさもしい現状だ」




「そこで」
部長がサンプルとタブレットを出した。
「貴店しか扱わない包装紙で如何でしょう」
思わず覗き込む。
「ワイン色に白い胡蝶蘭をプリントした包装紙です。優雅であり、高級感も兼ね備え、贈り先の老若男女を問いませんし、胡蝶蘭の柄でしたら贈られた方も初見で歓喜される事と想定します」

部長が微笑している、自信がありそう。
胡蝶蘭、確か高いお花だよな。研修先のサロンにもあったから知っているけど。
でも、これを量販店の包装紙に? 百貨店なら分かるが、スーパーだよな。
これはもしや、相手先を重んじるという事か? この花が似合うスーパーだと誇りを持たせて提示しているのなら?

先方も頷いている。
ご機嫌に成るだろう、誰でも。

しかし、発想が桁違いでこれが営業職なのかと怯んだ。
それにワイン色はもしかして部長の好きな色か。
ネクタイもそうだし。凝視して部長の仕草に品があると感じた。
タブレットを出した時も音を立てなかったし、雑じゃない。
立ち居振る舞いが上品で、初見だ。
元々、ウエーブのようなうねった髪に綺麗な横顔。首が長く見えるのは髪型のせいか?
そしてやさしい口調でも揺るがない押し。見惚れてしまった。
思わず手を口に当てて息を呑む、好意じゃないよな、俺が勤務する業務内容を目の当たりにしたからだ。

「胡蝶蘭とは鋭い視点。しかし花屋さんで使えそうな雰囲気だが」




「仰る通りです。それも想定済みで不織布をあえて使用し、耐水性があります。使用範囲は広いはず。75X15Mのロール式で試作しましたが、断裁も検討します。1944円で提示しますが如何です?」
押す。
「中々、良いものだと思うよ」

「しかしあえて申し上げます。胡蝶蘭は法事にも使われる花です。その優雅な佇まいに個人を偲ぶ思いが込められるのです」
「初耳だよ、兎並部長。そうなのかい」
スーパーの販促部が知らないの。
しかし、部長。もしや、この包装紙は前振りとか?

「そこで、別案を提示したく思います」
ん。
「紫色に白い花柄と蔦の絡まるバロックと称するものです。裏地は紫色のみ。つまり両面印刷です。こちらもロールで試作しまして、65X20M。2419円で提示しますが?」

部長の自信に満ち溢れた表情、当確だ。これが本当に推したい資材。
声音は落ち着いているが明らかに切り込んでいる。これが管理職。
先方は部長から渡されたタブレットを見たまま唸る。

「なんとスタイリッシュでエレガント。うねりの利いたパーマで色気すら薫る優雅な兎並部長ならではの提示、感服した。これでワイン色も検討できるかな?」
部長は印刷に2週間納期を戴きたいと即答した。
「両方いただこう、断裁料は勉強して欲しいところだが? お店で使うならロールタイプでは面倒で、半裁が向く」
「勿論です。次回はこの包装紙に合うリボンを提示します」
もしかして誘導している?
「そうだな、リボンは必要だ。法事に胡蝶蘭を使うと言うのは私の勉強不足、この経験を生かそう、生花を供える際のラッピング・まあ、簡素だろうがそれも頼もう」

部長は全部、計算ずくか。ここまで考えているのか。
包装紙の前振りから、次回の提示内容まで組み立てていそう。

「相楽くん。きみからも何か提示できるものがあるんじゃない?」
無茶ぶり。
でも用意しておいてよかった。使えるか分からないが。




「貴店での甘味の贈答用に、如何かと想い、提示します」

クラフト紙に濃い茶色の、ドット柄の小さなペーパーバッグ。
巾90Xマチ60X高さ120ミリ。
持ち手の部分も紙製なので、扱いやすいと思う。
カタログでみかけて「かわいい」と思ったので覚えていて助かった。

10枚入り1セット・455円でどうだろう。

「成程。きみはうちのお店へ来た事がありそうだね、うちは甘味の中でもチョコの売り上げがずば抜けている。贈答用にも出るし」
販促部は「とりあえず初回注文で、50セットいただこう。相楽くんだったね? これからも宜しく」

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