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第27話

「ほ、本当ですか?」
「何か不都合でもあるのか?」
「いいえ! 不都合なんてありません」

 澄人にとって、それは願ってもないことだった。
 以前ナオとした約束――食事ができるように、彼女の体を治すことができるからだ。

「そうか。では、ナオである理由を説明しておこう。まず、先ほど言ったように、第一世代機であるということ。次に、お前が日々メンテナンスチェックをして、ある程度の状態をすでに把握しているアーティナル・レイスだからということ。そして……機能停止しても問題ないアーティナル・レイスだからだ」
「…………はい?」
「知っての通り、H.WタイプやH.Mタイプの施術は、知識と技術だけでなく、集中力も要求される。機能停止、機能不全になる可能性は少なくない。特にお前のような未熟な者が行う以上、尚更そのリスクは高くなる。ナオは、すでに廃棄処分が決まっているアーティナル・レイスだ。今回の試験には適任だ」
「廃棄……処分? 廃棄処分って……どういうことですか?」
「来年の春、ナオは廃棄処分される」
「ちょっと待ってください! 廃棄処分なんて……何かの間違いじゃ……」
「間違いなどない。初期に造られた先行量産型であるナオは、もともと長い年数の稼動を想定していない。それに、RAY・プロジェクトの実験機としての役目も終わっている。仮に一般に払い下げる話にするとしても、実験機としてのデータが含まれている、人工頭脳の記憶データを完全に消去……もしくは破壊しなければならん」
「…………」
「(澄人……)」

 荒山から突然告げられ、ナオの廃棄処分の話を知ることになった澄人。

 ナオもこんな形で彼に知られることになるとは、思っていなかった。

 彼女にとって、知られたくないことだった。ずっと黙っているつもりだった。

 無事に実習期間が終わり、無事久重重工の社員となった澄人を見送って……静かに機能を停止する。そうなると思っていた。彼を悲しませないようにしたかった。だが……知られてしまった。廃棄処分される運命であることを……。

「……今週末までに、お前が必要だと思う、部品、工具、機器類などをリストアップし提出しろ。よほど不要なものでない限り、こちらで用意する。話は以上だ」
「……はい」

 澄人は力が抜けたような返事をして立つと、出口の方へ歩いていこうとしたが、

「柳原澄人」

 荒山は彼を呼び止めた。

「体調をよく整え、万全の準備をして試験に挑め。絶対に後悔しないように」
「……失礼します」

 退出し、廊下へ出ると、近くにある休憩所のイスに澄人は座った。

「澄人。(あの……)」
「……どうして黙っていたの?」
「言う必要がないと判断しておりました。(……余計な心配をかけなくなかった……悲しませたくなかったんです)」
「それでも、言ってほしかった! もっと早く言ってくれれば、何かできたかもしれないじゃないか!」
「(いいえ。これは……どうしようもできないことなんです。それに、このことを知れば、あなたは必ずどうにかしようとします。私なんかのために、あなたに時間を使ってほしくなかったんです……)」
「く…………っ」

 そう……ナオの廃棄処分の問題は、澄人がどうにかできることではない。

 たかが実習生――下っ端の社員以下の立場である彼が、どれだけ上の者達に言ったとしても、ナオが廃棄処分されることは変えられず、評価が落とされるだけだ。

「……なら、来週の試験で、僕が君の体を完璧な状態にしてみせる! 第二世代機に負けないくらい……そうすれば、処分の話はナシになるかもしれないだろ?」
「(……話がナシになるなんてことは、ありえません。それに……あなたがメンテナンスチェックをしていた部分以外のところは、あなたが思っている以上にボロボロなんですよ? たった一日で、それを治して完璧にするなんて、社員の方でも、よほど知識と技術がないと無理……)」
「無理じゃない! できる! 僕がやってみせる! そして見せるんだ! 廃棄処分する必要がないってことを社員の人達に!」
「澄人……」

 澄人はナオの両手を握り、立った。

「来週の試験……これまで学んだことを全部出し切る! だから僕を信じて! そして最後まで諦めないで! 必ず治してみせるから!」

 会った時……とても弱々しかった澄人の手。その手はこの数ヶ月で、とても力強いものに成長し、ナオに希望を与えた。

「はい……。(わかりました。私……澄人を信じます。諦めず、最後まで希望を持ちます)」

 頷いたナオの顔には、失われたはずの笑顔が僅かに浮かんでいた。

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