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142話 帝都潜入

「けどまあ、皇帝が操られていようがいまいが、あの野郎が異界人の召喚をやり始めて廃人を量産したのは間違いねえし、オウカがここで果てたのもぽっちゃりとは関係の無い事だ。どっちも敵なんだからあれこれ考える必要はねえよ。でもシルト。得体の知れない能力の前に、自分のスキルを過信するのは良くねえぞ?」
「……はい。ごめんなさい」

 レン君に説教されてしまった。確かにレン君の言う通りね。
 でもね、偉そうに説教たれてるレン君や他のみんなは絶賛正座中。あたしは腕組みしてみんなの前に仁王立ち。
 なに? この構図。

「シルト、そろそろ移動した方がいいんじゃないかな……?」

 そうね。そろそろ勘弁してあげましょう。

 そしてあたし達は獣道とも呼べないような場所を踏破していく。眼下には城壁に囲まれた帝都。中央には一際壮麗な帝国の象徴とも言える宮殿が誇らしげに鎮座している。

「あの場所に仇がいるのね……」
「そうだな。俺を呼び出した張本人で、お前とラーヴァさんのお母さんと、お前の実の父親と育ての父親が死んじまった遠因でもある皇帝がな」

 よおし! いっちょ親の仇の姿でも拝みに行きますか!

 山肌を下り、人目が無いのを見計らって街道に出る。全員、認識阻害の魔道具を身に付けているので見た目は別人だ。レン君なんて金髪サラサラのなよなよしたイケメンに見えて笑える。

「そういうお前だってなんだよその金髪ドリルは? お蝶夫人か」

 誰よそれ?

「アイギスは悪いけど山に隠れててね?」
『分かりました。何かあれば念じて下さいね?』
「うん、了解だよぉー」

 こうしてあたし達五人は帝都の裏門から入るべく歩き出した。アイギスはさすがに目立つからね。山の中でお留守番してもらう事に。
 全員如何にも初心者丸出しの装備で、『これから冒険者目指しますー』みたな感じにしている。
 そして見た目は、あたしとレン君は貴族令嬢と令息といった感じだし、他の三人も上品な感じなので、世間知らずのお嬢ちゃんお坊ちゃんが冒険者登録に来た、という設定にしてみたよ。
 何しろヒメとレン君はお尋ね者だし、あたしとメッサーさん、お姉ちゃんは一度冒険者として帝国に入ってるからね。そのままの姿じゃ入れないよね。

 城門に近付くと、帝都に入る為の入城手続きを待つ列が出来ていた。それでも裏門という事で、それほど長い列ではない。あたし達も倣って列の最後尾に並んだ。
 そしてあたし達の順番。

「えーと、名前をこれに書いてねー」

 受付のおじさんに用紙を渡された。当然偽名を記入。

「メリサ、ライヴ、シート、レンガにヒマね。はいはい、五人一緒か。で、ここには何しに?」

 ここであたし考案の偽設定が炸裂するわよ!

「ワタクシ達、法皇国の貧乏貴族の三男や三女以下といった苦しい立場の者ですの。このままでは望まぬ相手の妾になる未来しか見えませんので、思い切って冒険者を目指す事にしたのですわ。でも、一族の者が冒険者に身をやつしたなどと知れては家名に泥を塗る事になるでしょう? ですからこうして国を出て、帝国の冒険者として生きて行く事に決めたんですの」

 そんなあたしの偽設定を聞いたおじさんは、そっと目尻を拭いながら言った。

「そうかそうかぁ。冒険者も楽な仕事じゃねえが、腕一本で名を上げられるチャンスもある。ちょうどあんた達くらいの年頃の連中が、特級パーティまで成り上がったって話も聞いてるよ。ま、隣の王国の話だけどな。あんた達も頑張んなよ?」
「まあ、ありがとうなのですわ」

 なかなか人の好い門番さんね。やっぱり腐ってるのは上層部だけなのかしらね。まあとにかく上手く誤魔化せたので門を通過しよう。

「おい!」

 あれ? バレた?

「命は大事にしろよ!」

 あたし達は門番さんに一礼して街の中へと入って行く。

「ふう、びっくりした! バレたと思っちゃったよ~」
「ははは。中々の名演技だったよ、シルト」
「意外な才能でしたね、シルト。本物の貴族令嬢の様でしたよ?」

 えへへへ、そうかな~? 
 門番さんもいい人だったし、いい気分で街の様子を眺めながら歩く。やっぱり一国の首都だけあって全てにおいてスケールが大きいわ。人の数も街並みも道幅も。

「さて、情報はやっぱり人の集まる所! 酒場だよね!ご飯食べようか!」

 もう、お姉ちゃんたら相変わらず食いしん坊!

「お姉ちゃん! あたし達、一応貴族令嬢って事になってるんだからね! もっとお上品にしなくちゃダメじゃない!」
「う、分かったよお……」

 なるべく美味しそうで可愛いようなお店に入ろうとするヒメや、とにかくボリュームのありそうなメニューのお店に入りそうになるお姉ちゃんを引っ張り、裏通りにあるあんまりカタギの人は入らなそうな酒場を選んでみる。
 ギギィ、と軋むドアを開き店に入ると、カウンターと丸テーブルがいくつか並んでいるのが見える。お客さんもそこそこいるが、まだ日も高いのに飲んだくれている冒険者っぽい人達ばかり。入店と同時にあからさまに小馬鹿にされたような視線が飛んで来る。

(うわあ、絶対に絡まれそうね)
(まあ、それはそれで面白いじゃないか)

 視線でそんな会話を交わしながら、あたし達は空いていたカウンター席に五人並んで座った。

「マスター、エールを」

 グレーの頭髪にグレーの口髭を蓄えたマスターは、あたし達をじろりと一瞥すると無言でエールを注いだグラスを差し出して来た。

「なあ、マスター。俺達は今日皇都に着いて冒険者登録をしたばかりなんだが、まだ5級の冒険者だと稼げる依頼があまりない。なにかいい仕事はないか?」

 レン君が言っていた。カウンターでマスターに仕事を探してるって言えば、大体黒幕の方から近付いてくるって。

「ふん、ひよっこか。高望みしないで身の丈に合った依頼を探しな」
「いや、そう言うけどな、俺達はこれでも五人中四人が戦闘に使える魔法スキルホルダーなんだ。今更採取系の依頼なんてやってられないんだよ」

 あはは。典型的な甘ちゃん貴族のボンボンに見えるわぁ。そして、レン君の話を聞いたマスターの視線が、店の隅で一人で飲んでいる男と交錯したのををあたし達は見逃さない。
 案の定、店の隅で飲んでいた男があたし達に近付いて来た。

 

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