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2、話は最後まで聞け

「あ、あの……?」

 俺が黙ったままだったから、再びコジマがおずおずといった感じで声をかけてくる。その視線はアルベルトに向けられていた。
 彼女はどうやらアルベルトが俺達のリーダーだと勘違いしているらしい。まぁ、実際レガメのメンバーのリーダーだしな。
 だが、今回の旅においてはアルベルトは形式上依頼主であるルシアちゃんの意見を尊重しているし、そのルシアちゃんは基本俺の意見を優先する。つまり、俺が何か答えるのを皆待っているのだ。


『貴様らは、どこまで話を聞いている?』
「! 喋った?!」

 俺の発言に勇者一同驚きの声を上げる。中には恐怖に引きつった顔で距離を取る女子も。き、傷ついてなんかないんだからね! グスン。
 自分で話を振ったからだろうか、いち早くコジマが俺が喋ることを受け入れたのか俺の方に向き合う。理解が早くて助かる。
 どこまでとは? と逆に聞き返され、この旅の目的についてや、この世界について何か説明があったかと聞き直す。


「私達が勇者で、この世界を脅かす暗黒破壊神を倒すために召喚した、としか……暗黒破壊神って、一体何ですか?」
『ふむ、俺様達が邂逅した奴がその暗黒破壊神なのであれば、その正体は竜だ』
「え? 巨人だろ?」
「え?」「え?」「え?」

と、ここであの時全員見え方が違っていた混乱が蘇る。

『と、こんな感じで見るものによって姿が変わる。確かなのは、ここにいるレベルMAXのベルナルドでも勝てる気がしないという相手の強さだけだ』
「そんなっ!」
『当面の目標は、アスー皇国で召喚された勇者と合流し、我々のレベルを上げて戦力を強化すること、それから奴が自分を強化するためにばら撒いている分身を倒し、奴を弱体化させることだな』

 と、ここで勇者達のレベルが異様に高いことを思い出す。ルシアちゃんですらまだレベル20に達していないというのに、彼らは一様に30を超えているのだ。
 深く考えずにそのまま聞いてしまったら、相当キツい経験をしたようで、顔を青ざめたり引きつけを起こす者や顔を覆って悲鳴を上げる者までいた。

 嗚咽混じりの声を何とか聞き取ったところ、罪人の処刑を無理矢理やらされていたらしい。これはコジマの推測だが、いくら大都市だからといってこの人数が全員短期間でレベル30になるほどたくさんの罪人なんているはずがない。きっと、何の罪もない人達まで罪人に仕立て上げられていたに違いないと。
 そして、それはバルトヴィーノ曰く真実だろうと。スラムでは内緒の仕事をもらったなんて言ったきり姿を消す人間が多数いたらしい。


「大丈夫、もう大丈夫だぞ」

 ほら、俺を見ろ、と1号が泣き出す勇者達の前に立って踊り出す。
 くねくねとお尻をつき出したり、笠をぽん、と外したり。因みに1号の超速再生のスキルですぐに生えるから、スポポポポポポと連続で外したりとちょっとした大道芸だ。

『貴様は何をやっているか』

 いきなり大道芸を始めた1号にチョップをかますと、縦に裂けてプラナリアみたいな状態になる。

『だからその再生の仕方はやめれ』
「あぁっ!」

 ビッ、と増えた頭を引っぺがすと、わざとらしく1号が転ぶ。
 そんなやり取りを見ていた勇者たちが泣き止み、クスクスと控えめな笑い声が漏れた。
 因みに増えたきのこはこの後美味しくいただきます。ってことでエミーリオに渡しておく。


『嫌なことを思い出させてしまうが、最後にもう一つだけ聞きたい。貴様らを強制的に操っていた伯爵が、貴様らに聖女を殺せと命じていたはずだ。その命令はまだ有効か?』

 皆が息を飲むのがわかる。隷属状態の時の記憶があるって話だから、当然受けた命令も覚えているはずだ。彼女たちからその話が出てこなかったのは、行動を共にする人間の命を狙っていたなんて話してここに置いて行かれることを恐れたのかもしれない。
 が、どんな理由があろうと関係ない。ここをはっきりさせない限り彼らを完全に信用することはできないだろう。もう操られていないわけだから、きっとそんな奴はいないとは思うが、ルシアちゃんに武器を向けるというなら許しはしない。
 と、睨みを利かせていたのだが、そんな俺に臆さずコジマが前に進み出て、それはないとはっきり断言した。

「貴方がたと国を出るまではずっとぼんやりしていて、自分の身体が自分の意思で動かない感じだったけれど、今は違います。聖女様を見ても、襲わなきゃとかそんな脅迫感もありません。敵対しないことを誓います」
「「誓います」」

 コジマの言葉に続いて、口々に他の勇者達もルシアちゃんを襲わないと言ってくれた。
 その言葉にニッコリ微笑むルシアちゃんを見て顔を赤くした奴! お前、確かミドウとトウドウだったな! ルシアちゃんに手出すようなら燃やすぞ!
 取り敢えずルシアちゃんの命の危機は去ったが、まだまだ油断できなくなってしまった。


『さて、最初の質問に答えよう。俺様達は、貴様らを日本へ返そうと思う』

 ザワッ、とどよめきが起きた。
 帰れる! とまた涙を溢すものまでいる。うーん、言い辛い……。

『ただし! すぐには無理だ』

 その言葉に、一瞬鎮まり返った後、怒号が飛び出した。
 ルシアちゃんが完全に怯えてしまったじゃないか。話は最後まで聞けよお前ら。

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