バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

童話

 雪は降る。
 雪が降れば思い出すソリを乗せて、お爺さんを乗せて。
 僕たちを待っている子供達の元へ……

【メリークリスマス】

 お爺さんがそう言うと、僕の仕事が始まる。
 僕はお爺さんを乗せると、勢いよく空を翔る。

【メリークリスマス】

 それは、お爺さんがかける魔法の呪文。
 その言葉だけで、幸せになる事ができる魔法。
 それは、僕が空を飛ぶ準備の合図。

 お爺さんは袋いっぱいに荷物を乗せて
 お腹をすかせた人たちには暖かいスープを。
 不幸な人たちに小さなしあわせを。
 優しい人供たちには心地良いメロディーを。

 お爺さんはプレゼントを渡していった。

 時にはおもちゃを、時には出逢いを、時には服を、心優しき人へプレゼント

 意地悪な子には思いやりを、我侭な子には人を思いやれる心を。
 心を閉ざした子には前向きになれる心を。
 そんな出会いと経験を。

 お爺さんはいつも言っていた。

【誰にだって幸せになる権利はある】

 ときには泥棒へ。
 ときには詐欺師へ。
 ときには人殺しさえも。

 罪を償おうとする人にはしあわせを与えていった。
 罪を償おうとしない人にもきっかけを与えていった。

 だから、お爺さんを嫌う人なんていなかった。
 僕もそんなお爺さんは大好きだった。

 お爺さんは僕に魔法をかける前に、いつも雪を降らせる。
 僕たちの正体がばれないように……

 僕たちは煙突から忍び込む。
 子供たちを起こさないように、大人たちに気づかれないように。
 煙突は、叔父さんがかける魔法。
 その魔法があれば、どんな家にだって忍び込むことができる。

「残念なのはプレゼントに喜ぶ人達の顔が見れないこと」

 だど、お爺さんはいつも言っている

「喜ぶ顔は見る事ができなくても、喜ぶ顔を想像する事はできる」

 でも、お爺さんは少し寂しそう。

 僕はきっと幸せだったんだと思う。
 クリスマスには、こうやってプレゼントを運んで喜ぶ顔を想像して、煙突以外からも空からそっとプレゼントする事ができる。

【メリークリスマス】

 しあわせの魔法を……
 物だけがしあわせなものではない……
 お金だけがしあわせになる理由ではない……
 僕はそれをお爺さんから教えてもらった。
 僕はそれをお爺さんから学んだ……
 ずっと続くと思っていた幸せ……
 だけど、しあわせって続かないから【しあわせ】って言うんだろう……

 でも、ある日。
 お爺さんは病気になった。

 ずっと寝たきりになった……
 一年、二年、三年……
 お爺さんのクリスマスの魔法は見れなかった……
 人はだんだん我侭になって行く……

【今年も、サンタは来ないのか!】
【サンタはどこへ行った!】
【どうして、私の所にサンタさんは来てくれないの!?】
【僕はこんなにがんばったのに、どうして……】
【サンタ!】【サンタ!】【サンタクロース!】

 人にとってお爺さんの存在はいつの日か当たり前になってしまっていた

 僕たちが想像していた【人の笑顔】って何なのだろう……?
 僕たちが想像していた【人のしあわせ】って何なのだろう……?

 お爺さんは、一日でも早く病気を治そうと努力しているのに……
 お爺さんは、一日でも早くクリスマスプレゼントを渡そうとしているのに……

 人は何でこんなんなのだろう……

 僕たちがして来た事はなんだったんだろう……?
 僕たちがして来た事は当たり前の事だったんだろうか……?

 誰も幸せにはならなかったんだろうか???

 僕は悔しくて、悔しくて涙が出てきた……
 そんな僕を見てお爺さんは言った

【メリークリスマス】

 魔法じゃない言葉だけの魔法。
 お爺さんはそう言うと眠りにつきました。
 病気に疲れて眠りについた。
 すると、雪が降ってきた。
 僕は外に出てみた。
 すると、ドアの向こうにプレゼントが置いてありました。
 プレゼントの袋が二つありました。

 一つの袋には赤い服と赤い帽子。
 一つは赤い鼻帽子と暖かい4足の皮の靴。

 手紙が一枚ありました。
 そこに一言だけ書いてありました。

【サンタさんへ、メリークリスマス】

 僕は何故か涙が出た。
 お爺さんはもういない。
 だけど、僕がいる。
 僕がプレゼントを運ぶ。

 北へ、南へ、まっすぐと。

 僕たちがしてきた事は間違いじゃない。

 西へ、東へ、まっすぐと。

 僕たちを待っている人達の元へ。

【メリークリスマス】

 この言葉を届ける為に。
 この魔法を届ける為に。

 次はきっと貴方の元へ。

【メリークリスマス 】

 これが、僕とお爺さんとの約束なのだから。

しおり