貴族になんてなりたくない!
翌朝、起床の時間になった。
日が昇ってみんなの顔がハッキリと見える様になり懐かしさが胸に込み上げてきた。
「リリィ、おはよう。」
「リリィお姉ちゃん、おはよー。」
「あ、おはよう、みんな。」
此所の孤児院にいるみんなは孤児である事を気にしていない笑顔で溢れている。
今ならわかる、この孤児院で過ごした日々が私にとって幸せな瞬間だった事に。
「みなさん、おはようございます。」
『シスター、おはようございます。』
食堂に着いた私は席につきシスターに挨拶する。
食事は皆でするのがこの孤児院のルールだ。
シスターのありがたい話と神様に祈りを捧げてから食事を始める。
正直、聞き流していた事もあったけど今なら『聞いておけば良かった』と後悔した。
私の処刑が決まった時にシスターが面会に来てくれた。
その時のシスターの悲しい表情はいつまでも忘れる事ができない。
私はシスターの教えを忘れて調子に乗ってしまった。
だから、今回は絶対にシスターを悲しませないように心に誓う。
そして、朝食を終えた後、私はシスターに呼び出された。
「リリィに大切な話があります。今から私の部屋に来てもらえますか?」
この瞬間、ドキッとなった。
私の記憶が正しければ『大事な話』というのは『養子縁組』の話だ。
その相手こそ『ガシュネット侯爵』だ。
私は貴族の、しかも侯爵家の娘に慣れる事が嬉しくてあんまりシスターの話を深くは聞かずにその話を承諾してしまった。
これが間違いだった事に気づくのはだいぶ後になる。
だから、今回はシスターの話をちゃんと聞こう。
「はい、わかりました。」
私は返事をしてシスターの部屋に向かった。
部屋に入った私にシスターは早速話し始めた。
「リリィ、実は貴女に養子縁組の話が来ているんです。」
「わ、私にですか?」
「えぇ、お相手には子供がいなくて貴女が幼い子供達と一緒に遊んでいる姿を見て是非養女にしたい、とお願いがあったのよ。」
理由だけ聞けば凄くありがたい話なんだけど、シスターの顔を見るとちょっとだけ複雑そうな顔をしている。
「あの、なんで『養女』なんですか? 私は礼儀作法なんて知らないし、頭もよくありません。下働きならわかりますがこんな私が貴族様の養女に慣れるとは思いません。」
シスターはちょっと意外な顔をした。
前の私だったら後先考えずに飛び付いていただろうけどそのお陰で失敗したんだ。
慎重になるに決まっている。
「・・・・・・実は貴女が持っている『力』に興味があるみたいなの。」
「私の力、ですか・・・・・・?」
「そう、昔からこの国では『赤髪の娘には特殊な力が宿っていて国を繁栄させるか、破滅に追い込む』と言われているの。」
言われて、私は気付いた。
そういえば、私、『赤髪』だった。