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第18話

 次の日の日曜日。

 前日の土曜日、澄人は昼食を食べ終えてナオと話をした後、彼女に買い物を頼んだ後でベッドへ横になった。

 彼はちょっとだけ昼寝をするつもりだったみたいだが、やはり疲れが溜まっていたのだろう。結局十二時間以上寝て、目を覚ましたのは未明――午前三時頃になってからだった。

「体調の方はいかがですか?」
「うん。おかげでだいぶ良くなった気がするよ」

 起きてテーブルに座っている澄人に、ナオは紅茶が入ったティーカップを持ってきた。

「どうぞ」
「ありがとう。これは紅茶かな?」
「はい。アールグレイです。ちょうど、茶葉が安く売っていましたので」
「いい匂い……いただくね」

 紅茶をゆっくりと飲み始める澄人。それをナオは、内心ハラハラしながら見ていた。

(ど、どうでしょうか? 私としては、うまく入れることができたと思うのですが……)

 そして澄人は口に含んだ紅茶を飲み込み、カップを皿に置くと、ナオに笑顔を見せた。

「ふぅ……とってもおいしいよ」
「ありがとうございます」

(やった! また澄人がおいしいって言ってくれました! 私の入れた紅茶をおいしいって……!)

 そうして彼女がジャンプして喜びたい気分になっていると、澄人は再びティーカップを持ち中に入っている紅茶を見つめた。

「こんな紅茶なら、毎朝飲んでみたいよ」
「――!」

(まま、毎朝……? 毎朝、飲みたい……? 私の紅茶を……!?)

 ナオの心のなかに、パァーっと幸せの花が咲く。

(用意します! 用意します! 用意します! 毎朝、澄人のために、おいし~い紅茶を用意します! だから用意させてください!)

「よ……よろしければ、今後は起床時に紅茶を用意いたしますが……?」

 あまりの嬉しさのせいか、出るはずのない感情がわずかに声に含まれた。

「じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「かしこまりました」

(澄人のために、紅茶を毎朝入れることができるなんて……こうなったら、アールグレイ以外にも茶葉を買っておきましょう!)

 また澄人の役に立てることが増えた。澄人にもっと喜んでもらえる。

 満たされる幸福感と存在意義にナオが浸っていると、

「ナオ……?」

 澄人は不思議そうな顔をしながら彼女の顔を見た。

「はい」
「今、笑っていた?」
「え……?」

 ナオは自分の顔を右手で触った。

「あ、ごめん。笑っているところを、今まで見たことがなかったから……ナオも普通に笑うよね」
「……いえ。私はRAY・プロジェクトの実験機として使われることが決まった際に、データの一部を消去されたため、表情を変えることは不可能となっています」
「えっ、そうだったの……?」
「はい。ですので、私が笑っていたように見えたのは、澄人の気のせいかと思われます」
「ごめん。僕、知らなくて……」
「お気になさらないでください。表情を変えることができなくても、不都合は感じてはおりませんので」
「……ナオも、いろいろ大変な目にあってきたんだね」
「私は特に、そのようには感じていませんが?」
「いや、十分大変な目にあっていると思うよ。体をいじられて……それで食べ物を食べられなくなったり、表情を変えることができなくなったりして……僕が君だったら、辛くて耐えられないかも」
「澄人。今言ったように、私は自分が、大変な目にあってきたとは思っておりません。むしろ、幸せだったと感じています。なぜならば、私が実験機となったことで、人間の方々は様々なデータを得ることができたのですから」

 そのデータが、必ずしも良いことに使われるとは限らないことは、ナオもわかっている。それでも、役に立てたということは事実だ。

「私は誰かの――何かの役に立てることが嬉しいのです。特に、それが個人であれば――姉さんの大切な人である、あなたならば特に……」
「ナオ……」

 互いの目を合わせる、澄人とナオ。

 そのすぐ後だった。グゥ~という音が、澄人の腹から鳴った。

「あ……そういえば、昨日は夕食を食べていないんだった」
「では、少し早いですが朝食の用意をしますので、お待ちください」
「うん」

(さて、澄人のためにおいしい朝食を用意しましょう!)

 澄人に紅茶をおいしいと言われたナオは、張り切って朝食を作り始めるのだった。

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