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120話 帝国軍、無能を晒す

 長老の屋敷に囚われていたエルフ達を確保(解放ではない)したあたし達は、アイギスを屋敷の抑えに残して外に出て行った帝国兵の鎮圧に向かった。

「まだ里の外で、いもしない敵を探しているんですかねぇ……間抜けですねっ!」

 ヒメのカノンの先制攻撃を、いまだに外部からの襲撃と勘違いしている帝国軍に、思わず呆れてしまう。

「シルト。魔力視で敵のいる方向を確認出来るかい?」

 お姉ちゃんに言われて、あたしは魔力の光を探す。暗闇で人間そのものは見えないけど、纏っている魔力自体はスキルによって見つける事が可能なのよね。

「はい! え~っと、三隊に分かれてるみたいですね。門から正面、右、左」

 帝国兵が木を伐採しちゃったから遮蔽物は殆ど無い。さて、どうしよっか?

「それじゃあ、正面の敵を攻撃しちゃいましょう。敵に見える様に、分かりやすい魔法で。ラーヴァさんの炎蛇なんていいんじゃないですか? 幸い帝国兵が伐採したおかげで森林火災の心配も無いし」

 そんなレン君の提案に、メッサーさんが首を傾げる。

「しかしレン君、それだとこちらの居場所がバレてしまう。奇襲の意味が無いのではないか?」
「メッサーさん。奇襲の目的ならもう達成してるんです。エルフを確保した時点で、ね」

 ああ、そっか。エルフを人質に取られたりしたらこっちが全力を出せないからね。

「そっかぁ。こうなったらこっちの居場所を教えて、帝国兵を集めて一気に殲滅した方が手っ取り早いかもね。その点でボクのド派手な魔法は敵の注意を引くにはピッタリって訳だ!」

 お姉ちゃんが、それは名案! とばかりに手のひらを拳でポンっと叩く。
 
 中央の敵に打撃を与えて左右の敵をこちらに釣り出す。そして一気に決める。この作戦で決まった。

「ラーヴァが撃ったら敵がこっちに殺到してくるだろう。私とレン君は第二波攻撃の為に魔力を練っておこうか。ヒメもカノンの用意と水の防御結界の準備を。それから敵も当然魔法無効化(ディスペル・マジック)を発動してくるだろうから、シルトはそれを見逃さない様にリセットだね」

 まずお姉ちゃんが攻撃。そして敵が集まってきたところをメッサーさんとレン君の魔法、そしてヒメのカノンでの大火力攻撃。あたしはこちらの魔法を封じられないように、敵の魔法をリセットする。
 作戦が決まったところでお姉ちゃんが紅蓮を抜き、魔力を流し始めた。『炎龍』ではなく『炎蛇』なのは相手が普通の人間だから。迷宮下層のボスならともかく、人間相手に『炎龍』はオーバーキルだし、魔力の無駄って事ね。

「それいけ!」

 お姉ちゃんが炎を纏わせた紅蓮を上から振り抜くと、炎の蛇がうねりながら前方へ進んで行く。肉眼で敵を認識出来る明るさじゃないから、恐らく当てずっぽうだろう。
 でもそれでいい。今の一撃で敵の方から来てくれるはず。あたしはみんなの場所よりニ十歩程前に出る。

「なんだ? 帝国の連中、バカなのか? 自分から居場所を教えるような事を」
「ふふっ。それをレンが言いますか」

 つまり、帝国兵は松明を手にしてこちらに向かって来ているので、徐々にあたし達の肉眼でも位置が把握できる様になってきている。
 暗闇のアドバンテージを自ら捨てるという愚行。

「俺達は集まって来てもらった方が手間が掛からないからな。散らばった相手を虱潰(しらみつぶ)しに叩いて行くのは面倒だろ?」
「まあ、レン君の言う通りだね。こんなつまらない仕事はとっとと終えて、私は迷宮街へ戻りたいんだ」

 なるほど、次はメッサーさんの番って訳ね。イングおにいにすぐにでも会いたいと。
 松明の明かりで敵の場所は見えた。メッサーさんなら外すようなヘマはしない。

「それ! 切り刻め!」

 メッサーさんが放ったのはごく普通の威力の範囲攻撃魔法。でも普通じゃないのがその範囲。魔力視で見る限り、敵の大多数を包み込むように攻撃している。

「ドラ肉効果で上がった魔力を、薄く拡散させる事でより広範囲を攻撃する事が出来る様になったんだ。これもレン君のイメージによる魔力操作の教えのおかげさ」
「そりゃ光栄だなぁ。じゃあ俺も!」

 レン君も雷撃を放つ。今まで三人とも、必殺の威力は出していない。攻撃された方は戦闘不能にはなるだろうけどね。

 事ここに至って、帝国軍は漸く魔法無効化(ディスペル・マジック)を発動させようとしているみたい。魔力が集まっているのが視える。

「メッサーさん、敵がディスペルを発動させようとしているみたいなんですけど、敢えて発動させようかと思います」
「それは何故だい?」
「ディスペルを有効にさせた上でヒメのカノンで攻撃、さらに全員でマギ・ガンで追撃。無効化した筈の魔法で攻撃される恐怖を味合わせてあげましょう!」

 あたしの提案に、全員がニヤリと口角を吊り上げた。

*****

 まったく、どうなってやがんだ? 
 俺達帝国軍は夜襲を受けたんだ。里の門がいきなり魔法攻撃を受けて破壊された。敵を探して里の外に出たけど人っ子一人見つからねえ。
 エルフの攻撃かとも思ったが、奴らにゃ奴隷の首輪が付いている。帝国の人間には逆らえない。一体何処から、誰が攻撃して来やがったんだ……

「隊を三つに分けろ! 三方向に別れて索敵だ!」

 ふん、能無しの隊長にしちゃ考えたな。
 俺は左翼の部隊に入り索敵行動を取る事になった。俺達帝国軍が木を伐採したんで見晴らしはいい。暗くて見えないけどな。そんな時だ。中央の部隊に向けて火線が走った!

「ありゃあ魔法じゃねえのか? やっぱエルフが反乱を!?」

 誰かが叫ぶ声が聞こえる。
 だったらすぐ魔法使い共に魔法無効化(ディスペルマジック)を唱えさせろっつーの!

「里だ! 里の中に敵がいるぞ! 中央の部隊と合流して突っ込めぇ!!」

 ……ダメだな。こっちの分隊長も大馬鹿野郎だ。松明持って中央に合流とか、いい的になるじゃねえか。
 付き合ってらんねえな。俺はヤメだ。そもそもこのエルフの里を攻める理由が分からねえ。あの気味の悪い召喚者のガキが来てから、皇帝陛下は今までよりもおかしくなっちまった。
 そういや、レンのヤツ、生きてっかな? 皇女殿下と一緒に逃げたって話だが……

 俺はレンが逃げちまったおかげでヒラの兵士に降格しちまったが、今の帝国は狂ってる。無事に逃げ延びてりゃいいけどな。

 俺は中央に集まる事はせず、暗闇に紛れて左翼の部隊からも離れた。
 お? 雷撃魔法か。レンを思い出すな。アレは使い手が少ねえからな。
 ……まさか、な。

 

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