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結人の誕生日とクリアリーブル事件2㊼




路上


結人は一度伊達に連絡するのを諦め、再び未来へと電話を繋いだ。
「・・・あ、もしもし未来か?」
『おう』
「今みんなはどうしているんだ」
『みんなには連絡をして、伊達を捜してもらっているよ』
電話越しからは、未来の声と少しの雑音が聞こえてくる。 ということは、彼も今走り回って伊達のことを捜してくれているのだろうか。
『てか、伊達が居そうな場所はどこだよ。 何か心当たりはねぇの?』
「心当たりって言われても・・・。 でも、夜月と一緒にいるのは確かだと思う」
『どうして・・・伊達は、夜月に対してそんなに怒ってんだよ』
「昨日、夜月がクリーブルに入ったっていうことを聞いた瞬間、伊達の様子が急におかしくなった。 だから多分、夜月がクリーブルに入ったことに対して怒っているんだよ」
結人はそう思っているが、伊達が怒っていた理由はそれが本当ではない。 だから本当の理由というものは、結人には知る由もなかった。
『ふーん・・・。 つかさぁ、夜月も13時に公園へ来るはずだよな?』
「おそらくな」
『・・・13時まで、残り15分だけど』
―――残り15分?
その言葉を聞き、突如ひらめく。

―――・・・そうか。
―――もしかしたら、13時に間に合うよう二人は今頃公園にいるのかもしれねぇ!

「未来!」
『ん?』
「今すぐみんなに、公園へ集合するよう連絡してくれ!」
『え、公園? ・・・分かった』
この後一言二言交わし、電話を切った。 その足で、二人がいるであろう公園へと足を運ぶ。 

そして数分後、公園へ着くと――――結人の予想は、的中していた。
「ユイ!」
園内には思っていた通り、夜月と伊達がいる。 二人で何かを話し合っているようだ。 そして公園の前には、身を潜めた数人の結黄賊が既に到着していた。
今すぐに集まれというのは無理な話であり、みんな集合していないことについては何も思わない。 
そんな中今いる仲間の方へ足を進めると、そこにいる御子紫が小さな声で結人に言葉を発した。
「ユイ。 伊達が・・・怪我してんだけど」
突然そのようなことを言われ、伊達の姿を確認する。
―――あぁ・・・あの傷は昨日、クリーブルにやられた時のか。
この時結人は、彼は“あの怪我は夜月によってやられたものだ”と勘違いしていることに気付き、その考えを修正するよう言葉を返した。
「だったら、今傷の手当てがされてんのはおかしいだろ」
「え? あぁ・・・。 そっか。 じゃあいつやられたんだ?」
そう言いながら、難しそうな表情を見せる御子紫。 
あの傷の手当てをしたのは結人で間違いないのだが、ここで『俺が伊達を手当てした』と言ってしまうと色々質問攻めされると思い、あえてそのことについては口にしない。

結人は二人の様子を少しの間見据えた後、二人の方へゆっくりと近付いていった。 そんな突然な行動に仲間たちは驚くも、恐る恐るリーダーの後ろを付いていく。
一番最初に気付いたのは当然こちらを向いている夜月の方で、夜月が結人の登場に思わず鋭い目付きを向けると、伊達もその変化に気付き後ろへと振り返った。
「ユイ・・・」
まさかここで鉢合わせするとは思ってもいなかったのか、素直に驚いた表情を見せる伊達。 そんな彼に向かって、結人は優しく微笑んだ。
「伊達。 俺たちのために、ここまでしてくれてありがとな? でも悪い。 ・・・時間切れだ」
「時間切れって・・・。 でも、まだ夜月は!」
「大丈夫。 あとは俺たちに任せてくれ」
「いや、俺はここにいる」
安全なところへ移動するよう促そうとするが、その思いを伊達は否定する。 だが結人も負けじと、彼を説得させるよう感謝の言葉を述べ続けた。
「夜月にクリーブルへ行かせないよう、止めてくれていたんだろ? その気持ちだけで十分さ」
「それでも、俺はここにいる!」
「・・・」
自分の意志をなかなか曲げない伊達に、小さく溜め息をついた。 そして携帯を取り出し、時刻を確認する。 時間を把握した後、後ろにいる仲間たちに向かって命令を下した。
「もうそろそろクリーブルが来る。 伊達を安全な場所へ避難させておいてくれ。 未来!」
後ろを振り返ると、既に結黄賊のみんなは集まっていた。 そんな中、途中から来た未来を呼び寄せ小さな声で尋ねる。 
そして彼から質問の答えを聞いた後、公園の端にある草むらの方へと足を進めた。 
仲間たちが必死になって伊達を説得している中、結人はその中から二本の鉄パイプを取り出す。 
そして夜月のところまで戻るとまだそこには伊達の姿があり、彼の隣にいる椎野が結人に向かって困った表情を見せた。
「ユイ! 伊達が嫌がって、ここから離れないんだ」
「・・・」
その言葉を聞いた後、結人は何も言わずに伊達の目の前まで足を運ぶ。 
そして今もなおここから離れようとしない彼を鋭く睨み付け、冷たい口調で言葉を放った。

「ならもういい。 伊達は隅で見ていろ」

結人はこの時から覚悟していた。 本当は関係のない伊達までは巻き込みたくなかったのだが、もう彼に優しい言葉をかけてあげられない程、余裕のない状態となっている。
その言葉を聞いた伊達は、ふと下の方へ視線を移した。 そして結人が両手に持っているモノを見て、一瞬にして顔が青ざめる。
「お、おい・・・ッ! 待てよ! 夜月には手を出すな!」
震えた声で何とか言葉を発する伊達。 だが結人は彼に向かって何も言わずに、隣にいる北野に向かって口を開く。
「北野。 伊達を連れて行け」
「分かった」
「他のみんなはクリーブルを頼む!」
「「「了解!」」」
北野は結人の周りから漂っている恐怖のオーラを感じ取ったのか、この場から動こうとしない伊達を無理矢理引っ張り公園の隅の方へと移動した。 
その瞬間、公園の入り口の方から男の声が耳に届く。
「お。 もうお前ら揃っていたのか」
―――・・・来たか。
背後から感じ取った、クリアリーブルの連中が近付いてくる気配。 そこでもう一度、結人は仲間に向かって言葉を放つ。
「お前ら・・・頼んだぞ」
そして片方の手に持っている鉄パイプを、目の前にいる夜月に向かって突き出した。 そのモノを見て、彼も伊達と同様少し青ざめた顔をする。
結人は――――夜月と一対一で決着をつけようと考えていた。 これが、彼を取り戻す正しい判断なのかは分からないが――――

―――口で言っても聞かないってんなら・・・行動に、移すしかねぇだろ。

「持てよ」
なかなか受け取ろうとしない夜月に、もう一度鉄パイプを突き出した。
「もし夜月が俺に勝ったら、もう何も言わない。 夜月の好きにしていい。 だけどもし俺が勝ったら、夜月には俺の言うことを聞いてもらう」
「・・・」
彼は何も口にしないまま、ただただ結人を睨み続けた。 それでも受け取ろうとしない夜月に、一つの提案を持ちかける。
「俺は鉄パイプじゃなくて、素手でもいいんだぜ」
その言葉を聞いた途端、彼は一瞬反応を見せた。 だが再び結人を睨み付け、小さな声で言葉を返す。
「いや・・・そのままで来い」
そう口にした後、結人から突き出された鉄パイプを乱暴に奪い取った。 彼には“鉄パイプ”に関する過去の苦い記憶があるが、それに今打ち勝とうとしている。
「本気で来いよ」
結人も睨み返し、戦闘態勢をとった。 そして夜月は、鉄パイプを強く握り締め――――こちらへ向かって勢いよく押し寄せた。
「ッ、夜月! 止めろ!!」
背後から、伊達の叫ぶ声が二人の耳に届く。 だが夜月はそんな言葉には意に介さず、結人に向かって力強く鉄パイプを振り下ろした。


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