SS 27-39 アルフとメヒティルト
※ アルフ視点:27話 ※
主人公が気絶した後、木洩れ日の中でメヒティルトの膝枕へ。
「雰囲気が、さっきと違うね?」
「これだけ魔力が集まれば、狩る必要は無いわ。」
「そうなんだ。キツネさん寝ちゃってるね。」
「そうね。」
「おねえさんは、どうして村に来たの?」
「魔力が集まっていたから。」
「魔力……僕も魔力があれば変われるのかな……。」
「変わるわ。」
アルフの小さな願いを、メヒティルトは知らず知らずのうちに叶えてしまう。
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※ アルフ視点:39話 ※
結界越しに、崖から落ちていく魔獣《キツネさん》を見届ける。
「ゴフ……惜しい事をした。」
「《《これ》》で良かったの? あなた、死んだと勘違いされるわよ。」
「……いい、キツネさんは《《こっち側》》じゃない。」
ため息とともに胸部からメイさんの腕が離れていく。
腕を赤黒く染めた血液が、滴《したた》り落ちる血液が彼女の足元の影に吸い込まれ、消えていった。
メイさんは手を数回開閉し、調子を確かめて言う。
「あなた、これからどうするの? この街は、しばらく何もないわよ――」
崖下を見つめる僕にメヒティルトが問いかけてくる。貫かれた胸部をそのままに、噴き出した血が服を染めていく。徐々に、徐々にではあるが再生している。痛みは無いけれど、変な気分……。
「――あまり見ていても楽しい光景ではないわね。」
と、メイさんの声が聞こえる。おそらく眉をひそめているのだろう。
数秒の間を置き、自然な様子で後ろを見て、焦点の定まらない目でつぶやく。
「……そうだなぁ、一度戻る、かな。借りも返したいし。」
「借り?」
聞いて直ぐに理解したようで「あぁ。」と漏らしたメイさんは背中に影を移動させ、翼の形をとった。
僕は別れを終え、虚空を眺める。後ろから声をかけられた。
「《《アルフレート》》。」
「……何?」
「《《まだ》》弱いわよ?」
「わかってる。」
「……そう。」
僕は《《なりたて》》なんだ。それでも……強くなっているはず。
おなか、すいてきたなぁ。
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※ メヒティルト視点 39話 ※
変質した少年は、もはやエサではない。
もう言うことは無い、とメヒティルトはフワっと浮かび上がる。羽ばたく必要が無いため、静かな浮遊だ。
「あ、メイさん!」
アルフが地上数メートルを浮遊する私を呼び止める。
少し《《頬のこけた》》顏で力なく笑顔を作った……顔色が変わり始めている。
もう2時間も持たないだろう。
「ありがとう、本当に。」
「貰うものは貰っているわ。じゃーね。」
小瓶に詰められた小さな魔獣の足を大事そうに抱え、高度を上げていく。
「……自分から『捨てたい。』だなんて、私には分からないわね。」
その言葉は誰にも届くことは無い。
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※ アルフ視点 ※
「さてっと、《《俺》》も。」
砂嵐により見えなくなっていくニブルデンバの街に背を向け、歩き出す。
胸部の穴は塞がったようだ。1センチ程度のカサブタとも黒子《ほくろ》とも違う《《黒いこぶ》》ができているが……体の変化によるものだろうか。服に空いた穴により、こぶから放射状に浮き出た血管のような根が見えている。
「火を、水を、土を……あっ。」
歩きながら魔法の練習をする。魔力を得て初めての行使。色々な属性があるけれど、俺は土や石に関する魔法が使えるらしい。指先に集まった10センチ程度の土塊を、鷲掴みして近くの木に投げつける。
「……ありゃ、土の塊じゃダメか。やっぱり試してみないと分からないなぁ。」
土塊がぶつかった木は、少しへこんだだけ。この分じゃ火も水も出しただけでは嫌がらせ程度だろう。……工夫しないと。
「立ち止まるな、小さな目標から、か。」
つい先ほどまで一緒にいた魔獣の言葉が過《よぎ》った。数日の付合《つきあ》いで情が移ったのかもしれない。
「でも、楽しかったなぁ。」
初めて出来た友達《しんゆう》。
「何度も助けてもらったけれど、何もしてあげらレなかったなぁ。」
少し舌がもつれた。
「あレ? 変だな……メイさん、《《じキ》》に慣れる、って……グッ!」
体中を猛烈な痛みが襲《おそ》う。
鼻から地面に倒れたが、それ処ではない。前のめりに倒れた体が、熱い。
大人から思いっきり蹴られた時より痛い。
「痛い、た、たすけ……何、だ?」
助けを求めて顔を上げた僕は見た。
目の前に浮かぶ一部が抉《えぐ》れた黒い球体を。
そして―――