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22話 怪我、無いですか?


 俺と麻衣は、超高速飛行で浮遊島に戻ってきた。途中で空力加熱(くうりきかねつ※)によって生まれた熱で、隕石落下のように強烈に発光していたが、海の上を飛んでいたので、誰にも見られていないだろう。

 麻衣は、ブラのホックが完全に壊れた様で、飛行中はずっと腕で押さえていた。部屋に付くなり、置いてあったカバンから、替えのブラを握りしめトイレに駆け込んでいった。
 部屋には、テナを含め全員が揃っていて、全員が俺に注目している。

「誰ですか?」
「織田さんなの?」

 予想通り瑠偉と美憂が、俺を見て質問してきた。ララは俺の姿を見たが、何事もなかったように、いつも通りに俺の右後方まで歩いてきて静止した。テナも俺を見ているが、いつもの無表情で、何を考えているか分からない。

「その通り、俺が織田兼次だ。惚れんなよ?」
「兼次様、全てを思い出したようですね。では早急に祝言を挙げましょう」

 夜巳か・・・そんな約束したな。しかし、まだ子供である、無理だな・・・
 腰に手を当て不敵な笑みをしている夜巳に近づいた。右手で夜巳の顔を握る、それと同時にアゴを固定し声を出せなくする。

「この前も言ったが、子供に興味はない。あと8年待て、その後で考えてやる。
 今は話がややこしくなるので、天井で静かにしていろ」

 夜巳を浮かせ天井に大の字に張り付ける、目が合った時に何やら言いたかったようだが、アゴを固定させているので、何を言っているかは分からない。
 夜巳の相手は後でするとして、まずは・・・

「ララ、中条をここに呼んでくれ。まとめて話そうと思う」
「了解しました」

 俺はテーブルまで移動し腰かける、まだ瑠偉と美憂は黙って俺を見ている。
 そこに、ようやく着替え終えた麻衣がトイレから出てきた。何故か視線を下げて、ゆっくり俺の側まで歩いきた。俺の側まで来ると、俺の左袖を摘まんで引っ張る。

「あのー・・・け、け、け、げが・・・な、な、な、無いんだけど?」

 麻衣は、下を見ながら肩を左右に振り、小さな声で俺に言って来た。どうやら用を足した時に、気が付いたようだ。このモジモジしている態度の麻衣は、新鮮で意外と可愛い。
 ならば焦らすと、どんな態度を見せてくれるのだろう?

「何を言っている。怪我は、治してやっただろ?」
「う、うん・・・ありがとう。いや、そうじゃなくて。毛が無いの」

 麻衣は少し声量を上げ、俺の左袖を引いていた手を戻した。両手は拳を握っていて、力が入っているのか、少し震えていた。

「2回も言わせるな、怪我は治ってるだろ?」
「だからぁー・・・けが、じゃなくて、け! け…が…な…い…の!」

 麻衣は、ちょっとキレ気味で、一文字一文字区切って、大きな声で言ってきた。
 俺は立ち上がり、麻衣の頭に手を置いた。
 髪の毛を触りながら「あるけど?」と更に焦らしてみた。

「兼次ちゃんのバカァーーーーー!」

 麻衣は首を左右に振り、俺の手を振りほどく。後ろを向くと「うぁぁぁぁぁ」と叫びながら、トイレに向かって走って行き、引き籠ってしまった。

「お、織田さん。何したの?」
「ムダ毛処理を手伝っただけだぞ?
 美憂もどうだ? 痛み無しの永久脱毛だぞ、しかも一瞬で終わるからな」

「永久脱毛か・・・痛みもない。ならワキをお願いしようかな」
「じゃあ、後でな」

 瑠偉が美憂を心配そうに見ている。そして俺が瑠偉に話しかけようとした時「私は遠慮します」と先に言われた。

「ところで、本当に若返りが出来たんですね。正直、疑ってました」
「瑠偉もどうだ? 俺と関係を持つなら考えてやってもいいが」
「遠慮します。まだ成長したいので・・・」

 人によっては二十歳まで成長すると言われている。若干の童顔と小さな胸が、大人へと成長する事を、期待しているのだろう。
 今のままでも、十分いいと思うのだが・・・

「凝視しないでもらえますか? 視姦罪ですよ」
「残念だが、俺は前を見ていただけだ。偶然に視界に入っている。それだけだ」

 瑠偉は溜息交じりに、俺から視線を外し窓の外を見始めた。

 トイレの扉が開く音がして麻衣が出てきた、諦めたのか扉の前で溜息をして、ゆっくり歩いてきた。力なく俺の隣の椅子を引くと、そのまま座る。
 座ると同時に、俺の裾を引っ張り「あとで話が」と小声で言った。

「マスター、中条さんが来る前に、被害報告をお知らせします」
「一応聞いておこうか」

「気象衛星が1機、街の家屋3軒が破壊されました、幸い人的被害はありませんでした。
 被害総額は推定400億円となります」

「破壊した犯人は麻衣なので、麻衣に請求書を回しておいてくれ」
「了解しました」

「ちょっと、まったー! ありえないから、おかしいから! 400億も持ってないから。
 てか、私の全財産はこれよ!」

 そう言いながら麻衣は、ポケットから25円を出し、その手をテーブルに出した。

「冗談だよ、本気にするなよ」
「随分、賑やかじゃの?」

 中条の声が聞こえると同時に、テーブルの近くに出現した。

「揃ったな、では報告と今後について会議をしようか」


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 ※空力加熱:空気中を超音速で飛行する時、空気の圧縮などで発生する熱で加熱されて、温度上昇が起きる現象。

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