113話 森に潜む者
アインさんからの依頼を受けて、帝国に占領されたらしいエルフの里の偵察に出る事になったあたし達フォートレス。
装備も新調したし新技もバッチリだ。あたし達には特例として全員にマギ・ガンの携帯が認められている。魔法発射型と実弾発射型を各一挺。さらにヒメには切り札となるマギ・カノン。あたしにはシールドツインライフルもあるんだよ!
「でも、お姉ちゃん、ホントにいいの? エルフの里なんて行きたくないんでしょ?」
お姉ちゃんとあたしのお母さんはハーフエルフだった。
お母さんのお父さん、つまりあたし達のお爺さんはエルフの里の長老だったんだけど、人間の血を色く濃く受け継いだお姉ちゃんを見て、お母さんを迫害、里を追い出した。つまり、自分の事は棚に上げて、全ての責任をお母さんに押し付けたって訳ね。
人間の女性と関係を持って、お母さんを生ませた自分が悪いのにね。
長老の立場上、自分の非は認められなかったんだろうって。
そしてお姉ちゃんも里ではずっと一人きりで辛い思いをしていた。そんな、いい思い出なんて一つもないエルフの里なんかに行きたい訳がない。
「ん? そんな事はないよ? 占領された里で、エルフが酷い目に遭っていたら大笑いしてやるんだ。ふふっ」
まあそれも嘘ではないんだろうけど……里から森を抜けて逃げ延びて来たエルフは酷い怪我をしていた。それを見たお姉ちゃんは決して楽しそうじゃなかったよ。
「ラーヴァが望むならば、帝国にスキルを奪われる前にエルフ共を皆殺しにするのもやぶさかではないぞ?」
またまた! メッサーさんったらそんな物騒な!
「あー、俺も全面的にラーヴァさんを支持します。そもそも、逃げて来たエルフも助けてもらってる立場なのにどこか人間を見下してたよね? そんな連中を生かしておいて帝国が強化されるとかありえない」
「あのー、私は皆殺しはどうかと思いますが、少々痛い目を見てもらうくらいはするべきだと思います! 死にそうな怪我を治療してもらってた癖、に生意気なんですよあのエルフ! 死ねばよかったんです!」
まさかのレン君とヒメも反エルフ派に加入ですか!?
そんな風にぎゃんぎゃん騒ぎながら森を突き進む。騒々しくする事で野生の獣が寄って来ないようにする目的があるらしい。
その代わり好戦的な魔物とかは寄ってくるけどね。それでもアイギスの異常に高い索敵能力のおかげで奇襲の心配はない。
「ん? どしたの? 何か見つけちゃった?」
そのアイギスがふと歩みを止めて、耳ピクッと動かし前方を見据えている。やや視線が上を向いているのは樹上に何かいるのかな?
あたしも魔力視で探してみる。うん。何かが木の上にいる。散らばってるけど五体かな。
「何かいますね。木の上に。魔力視に見えるのは五つです」
「ああ。そろそろ里の縄張りに入るからね。侵入者を排除する伏兵とかそんな感じじゃないかな?」
なるほど。お姉ちゃんの言う通りなら里は近いって事よね?
「ここを歩く人は問答無用で攻撃されちゃうんですか?」
うん、レン君、あたしもそれ思った。たまたま迷い込んだ人にも攻撃しちゃうの?
「ははは。まさか。いかにエルフが排他的でもそれはないよ。警告して立ち去らせるか、従わない場合に実力行使に出るか、だね」
お姉ちゃんが苦笑しながら答えた。エルフは排他的ではあるけれど、決して好戦的ではないらしい。
『GRURURURURU……』
アイギスが唸ってる。敵確定かな。多分樹上から攻撃する気満々なんだろう。それじゃあタンクの仕事をしますかね!
「あたしが前に出ます。ヒメ、みんなにバフ掛けて!」
「はい!」
ヒメが『蓮華』を抜いて魔法を発動させる。刀身が魔力で光を帯びるとその光があたし達一人一人を包み込む。よし、行きますか!
「シルト、殺さずに生け捕って情報を搾り取りたい」
「ラジャです! メッサーさん!」
取り敢えず、相手に先に動いて貰おう。
アイギスと二人、前方に駆ける。向こうは自分達が見つかったと思ってはいなかったのか、慌てて魔力を練り始めたようだ。そう、魔法で攻撃してくるのね?
「樹上に集まる魔力、元通りに!」
五本の木の上に集まり始めた魔力は霧散する。慌ててる様が伝わってくるわね。面倒だから無力化しちゃおう。
「アイギス、咆哮!」
『GAOOOOOOOON!』
アイギスの咆哮を受け、行動不能に陥った五人がボトボトと木から落ちて来た。当たり所が悪く無ければいいけど。まあ、虫の息でも生きてたら治してあげるわよ。
「みんな! 捕獲を!」
五人が落ちてきたけど位置はバラバラ。あたしはメンバーに声を掛け、分担して捕縛するよう促す。みんながそれぞれ駆け寄り、木から落下して気絶している五人を捕縛する。したんだけど……
「帝国兵じゃなくてエルフですか……」
「帝国に占領されているエルフが警備の真似事をするのかい? 解せないな」
てっきり、帝国兵が侵入者を待ち構えているのか思っていた。だからあたしとメッサーさんは首を傾げる。
「まあ、こいつ等が目を覚ませば分かるよ。それよりメッサーさん。ボクが里に居た頃はこんなファッションは流行っていなかったんだけどなぁ……」
そういうお姉ちゃんの視線は、ある部位に集中していた。五人は皆、一様に首にベルトのような物を巻いていた。しかもそのベルトには錠前がぶら下がっている。
「これは……奴隷?」
苦々しい顔でレン君がそう呟いた。