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第9話 イクトの錬金術

 イクトとシルバーの様子を見る複数の人影があった。

「錬金術師か、あいつ」
「しかし、錬金術師は錬金釜がなければ錬金ができません。問題はないかと」
「それはいいとして、あの少年は……」
「す、すいません。見られたもので」
「まぁ、いい。それよりも、例のものは見つかったのか?」
「す、すいません。しかし、現在も捜索しています」
「早く探しだすのだ。あれを見つけなければ、我々は……」

 それとほぼ同時刻、イクトたちは脱出経路を探していた。

「それにしても、不思議な空間ですね」
「ん?」
「土の壁で囲まれて密閉されているはずなのに、酸素があってさらに燭台もあるんですよ?」
「あくまでも私たちは人質なのかもしれない。死なれたら困るのだろう」

 余裕そうな顔を見せているシルバーであるが、内心焦っていた。
 錬金術師として出来ることをするとは言ったものの、魔道士が魔力がなければ魔法が使えないのと同じで、錬金術師も錬金釜がなければ錬金術が出来ない。つまり、魔法も錬金術も出来ない以上、ここから脱する方法がないのだ。

「何かしらあるはずだ。この状況を脱する為の方法が何か」
「……」

 イクトもそれはわかっていた。ゲームで仕入れた知識ではあるものの、錬金をするにしても道具がなければ何もできない。

「すまない、イクトくん」
「どうしたんですか、先生?」
「私は無力だ」
「え?」
「魔法も錬金術も出来ない今の私は、無力だ」
「そんなことはありません。方法はあるはずです。探しましょう!」

 2人は錬金術の素材となりそうなものを探した。
 それから30分ほど探していたが、思ったよりも素材となりそうなものが見つかった。

「結構探せばあるものですね」
「だが、素材があっても釜がなければ錬金は出来な……それは?」
「あ、これですか?」

 イクトが何か筒のようなものを持っていることにシルバーは気がついた。

「これは、俺の世界のものだと思います。日本刀っていう刀です」
「カタナ……?」
「剣、ですね」
「ふむ。不思議な紋様だな」
「それよりも、どうします?」

 シルバーが刀に興味津々となって脱線しそうだったので、話を戻した。

「む、そうだったな。しかし、どうするか」
「やっぱり、錬金釜がないと?」
「うむ」
「錬金釜を使わない錬金術……」

 何か方法がないかイクトたちは考えていた。ふと、ズボンに入れっぱなしだった結晶のことを思い出した。

「結晶……。先生、これは?」
「ん? これは昼間のやつか。ふむ。これは……魔力の塊だね。言うなれば、魔水晶あるいは、魔法石と言ったところか」
「いやいや、違いますって。これを使えば錬金出来ませんかね?」
「これを?」

 魔法石を手に持ち、じっと見つめた。魔法石は魔力の結晶である。やろうと思えば出来る可能性がある。しかし、未知の調合であるため、失敗する可能性の方が高かった。
 シルバーは一つの可能性に賭けることにした。錬金術に馴れている自分がやって失敗するならば、錬金術に触れたことのない、イクトならば成功する可能性のが高いのではないか、と。
 初めてだからこそ、錬金術はこうであるという固定概念にとらわれていない彼だからこそ出来るのではないか。その可能性に賭けることにした。

「イクトくん」
「はい」
「君が錬金してみてくれないか」
「お、俺がですか!? 先生がやった方がいいのでは?」
「いや、君だからこそだ。錬金術とはこういうものだ、という固定概念にまだとらわれていない君だからこそだ。やってみてくれ」

 そう言いながら、イクトから受け取った魔法石をイクトに手渡した。

「で、ですけど……」
「頼む、イクトくん」

 熱意に負けて、魔法石を受け取ったイクトはしばらく考え込んだ。
 この世界のことも錬金術のことも、魔法のこともしらない自分に出来るのか。成功するのか。しかし、長く考えている時間はなかった。メイビスたちが心配している。そうでなくても、ここから脱出しなければ命がないかもしれない。だから、やるべきことは一つだった。

「先生、やります。やってみます!」
「うむ」
「とは言ったものの、どうするか」
「イクトくん。錬金術の基本とはなんだと思う?」
「錬金術の基本、ですか?」
「錬金術の基本とは、自分を信じることそして、思うことだ。自分の作りたいものを心の中で形にするんだ」

 自分を信じて、作りたいものを心の中で形にする。簡単に思えて実は難しい。
 だいたい、それでいいならシルバーでもいいのではないかという疑問が浮かぶが、やはりだめなのである。それは、錬金術師として錬金術を極めているからこそ、出来ないことである。

「俺の作りたいもの、か」

 今必要なのは、この場を切り抜けて脱出する手段である。

「魔法石の魔力を抽出して放つか、あるいは刀に魔法石の魔力を纏わせることが出来れば」

 どちらにしても鍵となるのは、魔水晶であった。

「形にする、か」

 イメージした。今あるものを調合して、そのあとに出来る調合品を。
 その結果、どちらか選べないなら、両方選べばいいのでは?という考えに行き着いた。

「ベースとなるのは、この日本刀。そして素材は、チューブと石」
「ふむ? (錬金術に必要なのは発想力。私にはどう考えても今の状況を打破する発想が出来なかった。いま、君は何を考えているのだ、イクトくん)」

 イクトが集中すると、イクトの心に呼応するかのように、素材が光りだした。

「これは……」
「光ってるぅー!?」
「イクトくん、集中するんだ!」
「は、はい!」

 手に持っていた素材が一つの光となり、次第にその光が小さくなっていった。

「……」
「……」

 2人は唖然としていた。
 イクトの手には、先ほどの日本刀と似たような形の刀がそこにはあった。

「で、出来た……のか?」

 イクトの持っていた魔法石も形が変わっていた。円筒型のカートリッジのような形になっていた。

「これできっと、ここを脱出出来ます!」

 イクトは、刀を鞘から抜いて、柄頭の部分に追加された、カートリッジを入れる部分に赤のカートリッジを装填した。その瞬間、刀身から炎が出た。

「魔力を感じる……。炎……火属性か」
「思ったんです。刀に魔力を纏わせることが出来ればなんとかなるんじゃないかって」
「確かに、魔法石のままでは使い物にならないが……。驚いたな。まさか、剣に魔力を纏わせるとは。それも、魔法石の魔力だから、イクトくん自身の魔力切れの心配もない。もっとも、彼は魔力を持たないからそれ以前の問題ではあるが」
「火属性の特性は、分解! これなら!」

 イクトはゆっくりと深呼吸をして、息を整えた。そして、一閃。土の球体(ランドスフィア)を勢いよく斬りつけた。

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