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第6話 思惑

 時は少し遡り学院長室では、王城から来た騎士団員とマーベラス学院長が会談を行っていた。

「ミスター・マーベラス。やはりあなたは食えない人ですね」
「ふっ。君こそなかなか優秀じゃないか」
「貴方ほどの方にそう言われるとは。見に余る光栄」
「それで、君は何しにここへ来たんだ? アイリス」

 アイリスと呼ばれた女性は、手に持っていたカップをテーブルの上に置いた。

「王国祭、覚えておいでですか?」
「ふむ、もうそのような時期か。早いものだな。して、それがどうかしたのかね」
「その王国祭の警備の一端を学院の生徒たちに担ってもらいたいのです」
「ほう?」
「この学院の生徒は、将来を担う者たち。彼らの力を見ておくのも必然であるとの国防大臣のお考えです」

 国防大臣という単語にマーベラスは眉をしかめた。マーベラスにとって、国防大臣は相容れぬ相手であった。
 しばし思案した後に、マーベラスは了承した。

「よかろう。何人必要なのだ?」
「4名です」
「4名、か。わかった。近いうちに選出して知らせよう」
「お早めにお願いしますよ、学院長」

 アイリスは席をたち、扉の前で一礼したあと、部屋をあとにした。

「何か異変があった際に王宮への報告はくれぐれも忘れぬよう、お願いします。今回の件は不問にしますが、ね」

 それだけ言い残して。

「気づいていたか。やはり、騎士団長ともなれば違うな」
「団長、さきほどのは一体?」
「お前は気にする必要はない」
「は、はぁ」

 再びところ変わって、メイビスの部屋。
 この学院は全寮制となっており、学院での修練を終えるまでこの寮で寝泊まりをして暮らすことになる。むろん、男女別となっている。
 しかし、イクトの部屋は様々な理由から存在しないため、メイビスの部屋で寝ている。

「ねぇ、イクト?」
「なんだ?」
「なんでイクトは私の使い魔になってくれたの?」
「今さらだな」
「そ、それはそうなんだけどさ」

 イクトは、しばし考え込んだ。

「ごめん、イクト。なんでもない、忘れて」

 そういうと、メイビスはベットの中に潜り込んで眠ってしまった。

(俺を使い魔にしてくれるっていうメイビスの申し出を受けた時、メイビスは必ず守ろうと思った。でも、俺はなんでその申し出を受けたのだろう)

 イクトは、寝ているメイビスを見たあと自分のベットに入って考えていた。
 その一方、客人として訪れていた騎士団員たちは客人の間にいた。

「首尾はどうだ?」
「ああ、上々だ。アイリスのやつも寝ている」
「ならば、決行するのはいまか」
「みなが寝静まったこの時を待っていたのだ」

 ところ変わって、メイビスの部屋では、寝ようとしたイクトであったが、なかなか寝付けないでいた。メイビスの問いかけに答えることが出来なかった。その答えを探すかのように、メイビスの部屋を出て学院内を散歩しようとしていた。

「はぁー、なんでこんなに悩むんだろうなぁ。メイビスが可愛かったから、それだけのはずなのに、なんでこんなにモヤモヤするんだー!」

 考えながら歩いていると、廊下の突き当たりで人影が横切ったように見えた。

「ん? 誰だろう、こんな時間に。俺も人のこと言えた義理じゃないけど」

 走って廊下の端にたどり着くと、そこには誰もいなかった。
 見間違いかと思って振り向くと同時に、頭に痛みが走った。

(な、なんだ? 視界がボヤ…け……る)

 謎の人物に頭部を殴られてイクトはその場に倒れ込んでしまった。
 その次の日、目を覚ましたメイビスは部屋にイクトがいないことに気がついた。

「あれ、イクト?」

 辺りを見回すが、誰の姿もそこにはなかった。先に食堂へ行ったのかと思い、着替えて食堂へ向かったが、そこにいた誰もがイクトの姿を見ていなかった。

「おはよっ、メイビス」
「おはよう、アスカ」
「おやおや? 今日はイクトは一緒じゃないの?」
「それが、朝から姿が見えないのよ」
「朝から姿が? ワガママなメイビスに嫌気がさして出ていったとかじゃないの?」

 アスカは冗談のつもりで言ったのだが、出ていったのではと言われて、メイビスの目には涙が浮かんでいた。

「わわわ、冗談よ! 冗談! 泣かないでよ」
「ぐすっ」
「おい、アスカ。メイビス泣かすなよ」
「別に泣かしたくて泣かしたわけじゃないんだけど」

 その様子を見ていたローグが話しかけてきた。彼もいま食堂へ来たばかりのようであった。

「んで? メイビスはなんで泣いてるんだよ」
「イクトが居なくなったんだって」
「イクト? ああ、あの使い魔か」
「軽いわねー」
「だって、たかが使い魔だろ? 居なくなったんなら、また新しいのと契約すればいいだけだし」
「薄情なやつね」

 ローグの言葉にアスカは呆れていたが、ローグの言葉にも一理あった。
 本来、魔法使いにとって使い魔とは使い捨ての道具・駒にすぎず、死んだり居なくなったりした時は新しい使い魔と契約するのが常である。
 契約した魔道士の元から離れたり死んだ使い魔は魔力の供給が途絶えるため、数日もすれば跡形もなく消滅する。そして消滅するその際、使い魔自身の記憶が全て消えるため、後々同じ使い魔と契約したとしても、遺恨はない。
 しかし、イクトは特別であった。本来の使い魔は、召喚したあとに契約を結ぶものだが、契約はしているものの、イクトは召喚されたわけではない。さらに、元々魔法がない世界から来ているイクトは魔力を受けとるための器が存在しないため、メイビスからの魔力供給も必要はなかった。そのため、魔力切れにより消滅することはない。

「ぐすっ」
「あんたも泣かしてるんじゃないの」
「わ、悪かったよ。泣くなよ、メイビス」
「彼は黙ってメイビスの元から居なくなるような男とは思えないけど」
「ああ。それは思う。行き先を知っていそうな人……。シルバー先生にでも聞いてみるか?」
「そうね。ご飯食べたら行きましょう、メイビス」

 3人は食堂の中へ入って行き、朝食を摂ってからシルバーの元へ向かうことにした。

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