バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

109話 レンの講習会

 翌朝、ギルド支所に集合したあたし達は裏の広場へと移動した。
 森を切り拓いて発展してきたこの街だけど、早朝の空気はまだまだ街というよりも森のものだ。澄んだ空気と心地よい冷気が寝ぼけた頭を覚醒させてくれる。

「さて、初めに言っておきますね。本格的に魔法を学ぼうとするんだったら、昨日ラーヴァさんが言ってた精霊を感じて……の件は絶対に必要なステップです。でも今から説明するのは魔力操作というか……魔法を行使するには役に立つけど、魔法とは別の技術、かな? まあ、そんなとこですね。それで、上手く行けば……」

 レン君はそこまでで一旦言葉を止めて、右手を手刀の形にする。
 その手刀に黄色い魔力が集まって凝縮されていく。やがて黄色い魔力は密度を増し、金色にまで昇華した。
 恐らく魔力視のスキルがないみんなには、レン君の手首から指先までが、黄色を通り越して金色になるまで練り上げられた魔力で包まれているのは見えていないだろう。

「はっ!」

 少し離れた場所にある、弓の射撃訓練用の人形に向けて横薙ぎに右手を振る。
 その直後、スパッと両断される木偶人形にその場にいる全員が目を見開いた。
 あたしは魔力視のスキルで木偶人形が両断されるまでのプロセスが見えていたから、他の人達よりはまだマシだったけど、他の人達はかなりの衝撃を受けていたっぽい。
 レン君が不可視の刃(ステルス・エッジ)を使える事を知る人達でさえ、レン君が素手でそれをやってのけた事に驚きを隠せないでいる。

「……とまあ、こんな事が出来ちゃうかも知れません。魔法と言うよりは武技ですかね」

 ……凄い。あたしには分かる。レン君は自分の強さに上限を設けない人だ。これで完成という事が無い人だ。素直に尊敬出来る。
 不可視の刃(ステルス・エッジ)にも驚いたけど、短期間で不可視の刃(ステルス・エッジ) 電磁加速(レイルガン)という、邪龍にダメージを与え得る必殺の一撃にまで昇華させた事に驚愕させられた。そして更に、発動媒体なしで……
 あたしは今、嫉妬と焦燥が入り混じった不思議な感情だ。

「レン君! いや、レン殿! 是非その技を我々にもご教授頂きたい! 何卒!」

 アインさんを含むアイン小隊の面々がレン君の前に畏まる。魔法が使えないメンバーが四人中三人を占めるアイン小隊が、もの凄い食い付きでちょっと面白い。

「あの! 私にも出来るでしょうか?」

 セラフさんも。でも彼女に教えるのは危険な気がするのはあたしだけ?

 当のレン君はと言えば苦笑している。

「出来るかどうかは皆さんのイメージ次第です。取り敢えず、掌に魔力を集めてみて下さい」

 レン君に促され、みんなが右手に魔力を集め始めた。もちろんあたしも、アイギスもね!
 全員の手がぼんやり光る。それぞれ、適性が高い色を醸し出していてとてもカラフル。綺麗だなあ。あたしだけ、白。

「次に、集まった魔力を球体にするように強くイメージして下さい」

 みんなの掌の魔力が徐々に球体を形作っていく。でも酷く儚げで脆そうな魔力の集合体。大きさもまちまちだ。中でもイングおにいは酷い。魔力の球どころか掌の上で霧とか靄が掛かっている程度。反対に魔法を使える人達は中々うまく球体になっている。

「えっと、皆さん、自分で作った魔力の球がどれくらいの大きさか認識出来てますか?」

 みんなの答えはノーだった。あたしだけは分かる。メッサーさん、お姉ちゃん、コルセアさんのは大きな球体が出来上がっている。直径30cmくらいかな。ヒメとフィーアさんは10cmくらいの球体。アイン小隊の他の三人とセラフさんは5~3cmと小さいわね。あたし?150cmくらいよ?

 「視覚的に捉えられないものをどうにかするのって難しいですよね。そこで、皆さん。具体的に大きさがイメージ出来るもの。身近な物がいいですね。たとえば…」

 レン君、魔法鞄から果物を一つ取り出した。

 「この果物と同じくらいの大きさになるようにイメージして下さい。今放出している魔力量はそのままで、です」

 果物は7~8cmくらいの大きさかしら? ぐっと魔力を凝縮させて小さく小さく! これは難しい! 
 小さく出来ても形は歪だったり、球体に拘ると形が大きくなったりする。こんな難しい事をレン君はやってのけたのかぁ。しかも刃の形にして飛ばすだなんて……

「基本的な訓練はコレだけです。より大きな魔力をより小さい形に。より小さく圧縮したのものをより長時間キープ。これが出来たら自分のスタイルにあった形状を。俺だったら剣士だから、刃の形に。初めは自分の武器に魔力を纏わせるとやり易いんですが、第三階層のオークキングの大剣みたいな特性の武器が必要になってきます。こればっかりは皆さんに頑張って貰う他ありません」

 そんなレン君の説明に、メッサーさんが質問を投げかける。

「ではレン君。我々魔法使いのように、武器攻撃をしない者にはメリットはないのだろうか?」
「う~ん……メッサーさん。ウインド・ランスを生成してみて下さい。あ、一本でいいです。それを作り上げるのには螺旋が回転する槍をイメージしてますよね? では、大きさはそのままでもっと魔力を濃密に込めるイメージを」

「――これは!?」

 なにこれ……見えない攻撃が最大のメリットの風魔法なのに……

「私のウインド・ランスが見える……だと?」
「そうですね。俺の不可視の刃(ステルス・エッジ) 電磁加速(レイルガン)と同じ事です。同じ質量の中により多くの魔力を込める事で極度に魔力が圧縮され、可視化出来る程になっています。無論、威力もとんでもない事になっていると思いますよ?」

「なるほど……今日のレン君の講義を受けなければ到達出来なかった領域だな。込める魔力が多ければ威力も上がる、そう単純ではないという事か」
「そうですね。密度と言うか濃度と言うか。そちらの方も重要な要素ですよね。それから、ラーヴァさんは自力で気付いてましたよ」
「はぃ?」

 あはは。突然話を振られたお姉ちゃん、普段見られないような間の抜けた表情! あはははは!

「ラーヴァさんの炎龍。あれって、炎蛇により多くの魔力を込めてなお、あの形に拘ったんですよね?」
「うん、そうだね。そしたら青白くなってもの凄い熱量を出す事が出来た」
「そうです。より多くの魔力を込めただけでは、炎蛇が大きくなるだけで熱量は変わらないハズなんです。もちろん場合によってはその方がいい時もありますから状況に応じて、ですけどね」

 なるほどなるほど。より大きい魔力をより濃密に。濃密にするって事はより小さく圧縮するって事。よおし! 頑張っちゃうもんね!

 

しおり