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第14話

「知っていたのですね」

 彼女は最初驚いたが、それは別段不思議なことではないということにすぐ気づく。

 アーティナル・レイスの先行量産型である彼女とその姉妹、兄弟達は、当時かなり話題になって、写真や動画などもネットによくあがっていた。そして記事の内容にも、試作機が作られた後に先行量産型の生産が始まったことも書いてあった。それに――。

「はるから、先行量産型が妹や弟だって話を前に聞いていたから……」

 そう。はるがそのことを話していたことも、十分に考えられることだった。

「確かに私は、アーキタイプ――姉さんの妹にあたります。ですが、それがなぜ家事をさせない理由になるのですか?」
「……僕は君の姉さんに――はるに救われた。はると再会した時、僕は家にきたヒューマノイドが、友達のはるだとわからなくて……辛く当たってしまった。なのに、はるは僕を見捨てないでいてくれた。はるはずっと僕の側にいてくれたんだ。心身ともにボロボロだった僕の看病をしてくれて……掃除や料理、洗濯も全部してくれて……」

 はるとの生活を思い出しているのか、話しているうちに澄人の口元が笑みへと変わっていったが……

「久重重工の短大に入れたのも、はるが身の回りのことを全部やりながら、僕に勉強を教えてくれたからだ。全部はるのおかげなんだ……ヒューマノイドが暴走したあの日も、はるのおかげで僕の命は助かった。だけど僕は、はるに何もしてあげることができなかった……。ずっとずっと、はるに頼りっぱなしで……あの時も、ただ泣き叫んで、手を伸ばすことしかできなかったんだ……」

 笑みから悲しみへ表情を変えた澄人は、自身の右手を見つめると……眉尻を下げ、申し訳なさそうな表情になった。

「……だからせめて、はるの妹である君に、何かをしてあげたいと思った。それで思いついたのが、なるべく君の手を煩わせないことだったんだ」
「そういうことでしたか」
「それに……君は僕のことを恨んでいるかもしれないかと思って……」
「私が?」
「だって僕は……君の姉さんを助けられなかった……何もできなかった。そんな人間の世話なんて、したくないだろうと思ったから……」

(私に恨まれていると思っていたなんて……)

 恨まれていると思われていたこともそうだが、それよりも自分が側にいることが、澄人の精神的な負担になっていたということが、彼女の心を痛めた。

「……ごめんっ!」

 突然澄人はその場で土下座をした。

「澄人?」
「今更、謝っても君が許してくれるとは思わない……謝って許されることじゃないのは、わかっている。けど……ごめん! 君の姉さんが死んだのは、僕のせいなんだ……! 僕が殺したようなものなんだ……。ごめん……本当にごめん!」

(そんな……澄人のせいじゃないのに……)

 そう……澄人が罪悪感を背負う必要なんてない。もしかしたら彼も、心のどこかでは、それをわかっているのかもしれない。だが、すべてを――最愛の存在である、はるを失った悲しみによって、壊れそうになった心を独りで支えるためには、何かが必要だった。それが彼にとっては罪悪感であり、贖罪を前に進むための動力としていた。そうする他に、生き続ける意味を彼は見出すことができなかったのだろう。

「顔を上げてください、澄人。私は、あなたのことを恨んでなどいません」

 彼女は膝をつき、涙を流しながら謝罪をする澄人に、普段よりもゆっくりとした口調で話しかけた。

「…………」

 澄人は涙まみれにした顔をあげ、いつもと変わらぬ彼女の目を見た。

「あなたは姉さんに対して、何もしてあげることができなかったと言いましたが、私はそうは思いません。なぜなら、あなたのおかげで、姉さんは幸せになることができたと思いますから」
「はるが……幸せになれた?」
「F.P.T社にいた頃、姉さんはあなたのことをかけがえのない――心をくれた大切な人だと、私に話してくれたことがあります。そして、ずっとあなたのもとへ行くことを望んでいました。それが叶い、あなたと一緒にいられたことは、姉さんにとってとても幸せなことだったと思います」
「僕と……一緒にいられたことが……?」
「私は、姉さんが幸せになることを望んでいました。ですから、姉さんを幸せにしてくれた――姉さんの大切な人であるあなたを、恨むことなどありえません」
「でも僕は……はるの世話になりっぱなしで……甘えてばかりで……迷惑もたくさんかけたし……」
「では澄人は、姉さんと一緒にいてどうでしたか? 嫌でしたか? 不幸でしたか?」

 彼女がそう聞くと、澄人はすぐに首を横に振った。

「そんなことない! 僕はとっても幸せだった! 僕みたいな人間にはもったいないくらい……はるは優しくて……温かくて……幸せにしてくれる人だった……」
「それならば、あなたが罪悪感を負う必要はありません。あなたが幸せなってくれることが、姉さんにとっての幸せだったと思いますから」
「だけど……僕がはるを救えなかったのは事実だ。僕のせいで、はるはもう……この世には……」

 澄人の目の前で、暴走したヒューマノイドの達の群れへとその身を投じていき、戻ってくることがなかったはる。その状況は、彼にとってはるが死んだと思わせていた。しかし……

「それについてですが、私はそうは思いません」
「思わないって……?」
「澄人。姉さんは……まだ生存している可能性があります」

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