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第2話 出会い

 学院の敷地を一歩でも外に出ると、そこには見渡す限りの草原が広がっている。例えるならば、よくあるファンタジー系ゲームで村や町を出たらそこは街道で回りはモンスターだらけ、みたいな感じである。
 そんな草原が広がる学院の周囲ではあるが、木々が生い茂っている鬱蒼とした森のような場所がある。
 ここは、魔法薬や錬金術で扱う素材の採取地であると同時に、憩いの場でもある。木々が鬱蒼と生い茂っているのは奥深くであるため、そこまで入り込まなければ森林浴もできて中々快適な場所ではあった。
 そんな場所で、とある騒ぎがあったのが今から3日前のことである。なんと少年が、森の入り口付近で倒れているのが発見されたのだ。
 ざわざわしていた生徒たちをかき分けて教師たちがやってきた。

「はいはい、どきなさいどきなさい!」
「エスカー先生、彼を医務室まで運びましょう」
「そうですね」

 エスカーとシルバーは、少年を医務室まで運んで、手当てをした。体力回復のための魔法薬や薬は幸いにも数があったため、大事には至らなかった。

「では、シルバー先生。私は授業がありますので」
「ここは、錬金術師である私の力の見せ所ですな」
「心配はしていませんが、くれぐれも余計なことはしないでくださいね」
「わかっていますとも」
「それでは」

 少し頭を下げてから、エスカーは医務室から出ていった。
 一人になったところで、シルバーは少年の身に付けている見慣れない服に興味津々であった。

「ふむ。この服は一体……。この国はもちろん、周辺の国々でもこのような服は売られていない。とすれば、はるか東方の国か……?」

 興味津々ではあったものの、そこは教師である。色々とわきまえていた。
 それから彼は少年の看病を続けること2日、少年がようやく目を覚ました。

「ん……? ここは……」
「おお、ようやく目を覚ましたか」
「な、なんだ? このおっさん、何をしゃべっているんだ?」
「お前さん、どこから来たんだ?」
「やばい、何を言ってるのかさっぱりわからない!」

 とりあえず、身ぶり手振りで言葉がわからないことを伝えようとした。その動きで何かわかったのか、シルバーは少年にひとつの魔法薬を手渡した。

「飲みなさい」
「な、なんだ? この怪しい薬を飲めってことか?」

 少年はシルバーの方を見た。シルバーは真剣な顔つきで頷いた。

「ええい、ままよ!」

 少年は、ビンの蓋をとって、一気にその薬を飲み干した。
 少しすると、少年は瞑っていた目を開けて、体になにも変化がないことを知ると、安堵の表情を浮かべた。

「どうかね。これで私の言葉がわかるかね?」
「え。わ、わかる! さっきまで何言ってるかわからなかったのに!」
「ふむ。どうやら成功したみたいだな」

 シルバーが顎に手をやってうんうんと頷いていると、少年が何やらソワソワしているのに気がついた。

「あ、あの」
「なにかね」
「ここって、一体どこなんですか? 俺の知ってるところと違うっていうか」
「ここは、キラウェナ王国のクリストファー学院だよ」
「キラウェナ王国? 聞いたことないな」

 再びシルバーは顎に手をやった。今度は真面目に考えていた。

「少年よ、君はどこから来たんだ? この国の人間ではないようだが」
「日本から来ました」
「日本……? 申し訳ないが、そのような国はこの世界にはないぞ?」
「え?」

 そして、少年とシルバーはいくつか話をした。
 そしてシルバーは、顎に手をあてながら少年から聞いた話をもとに、幾つかの仮説を立てていた。もっとも、仮説と言うよりはそれが真実であると言っても過言ではないが。

「少年。もしかしたら、君は別の世界から来たのかもしれないな」
「べ、別の世界!?」
「うむ。第一に、君がいた世界。地球だったかな。そんなものはこの世界には存在しない。無論、日本という国もだ。次に、この世界は魔法や錬金術といったものが発達している。しかし、君の話を聞いている限りだと、君の世界には魔法や錬金術といったものはないようだ」

 シルバーが挙げた根拠だけでも少年は理解した。ここが、自分がいた世界とは全く異なる世界であると。

「しかし、ふむ。少年よ。この世界では自らの出自は黙っておいた方がよいかも知れぬぞ」
「え、なんでですか?」
「王宮のバカどもに話を聞かれたら面倒なことになりかねない。もしかしたら、研究のために捕らえられかねない」
「そ、そんな」
「出身は……そうだな。はるか東方の国とでもしておこう。それで名前以外の記憶を失っているとした方が楽かも知れぬな。ところで少年よ」
「なんでしょう」
「名はなんという」

 シルバーから見て、少年は少し辟易しているように見えた。無理もないが。

「あ、そうでした。俺の名前は、霧崎郁斗って言います」
「きりさきいくと……? 呼びにくい名前だな。私の名前は、シルバー・カースネルだ」
「はい、よろしくお願いします。えと、カースネルさん」
「シルバーと呼んでほしい。他のみなもそうしているしな」
「はい。あ、じゃあ、俺のこともイクトと読んでください」
「よろしく頼むよ、イクトくん」

 シルバーとイクトの挨拶と自己紹介が終わったところで、ノックをしてから一人の少女が部屋に入ってきた。

「先生、失礼します。例の素材をお持ちしました」
「うん、ありがとう。あ、そうだ。イクトくん、紹介しよう。倒れていた君を最初に見つけて、私たちに知らせてくれたのは彼女だよ。さ、自己紹介をしなさい」
「は、はい。メイビス・ブレイネルと言います」
「あ、どうもご丁寧に。俺は、霧崎郁斗と言います」

 二人が自己紹介を終えたところで、授業開始のチャイムが鳴り響いた。

「おや、もうこんな時間か。イクトくん。今日のところは、ここで休んでいなさい」
「え、でも」
「心配はいらない。授業が終わったらまたここへ来る。さ、行きますよ、ミス・メイビス」

 メイビスはシルバーに連れられて、医務室を後にした。そして、医務室にはイクトだけが残された。

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