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99話 ストレス発散→お腹空く→ストレスってなんだっけ?

「ちょっといいか?」

 思いもよらぬヒメの言葉に狼狽えるあたしのところへ、今までアイギスと戯れていたレン君が介入。
 なんだろう。ヒメの前でレン君に話し掛けられるのが何と言うか、居心地が悪い。またあの視線を投げかけられるのは嫌だなあ。
 でも、幸いにもヒメの視線は真剣そのものではあるけれど、嫉妬や憎悪は混じっていないみたい。ほっ。

「この銃、やっぱりシルトが使うべきだ。パーティの運用にはそれが最善だと判断する」

 そう言いながら、例の魔法銃を差し出してくるレン君。

「えっ……? でも……」

 もちろんあたしは躊躇する。今回の原因となったのはその魔法銃なんだから。
 それでもレン君は無理矢理に魔法銃をあたしに受け取らせるように押し付けてきた。そして、バツが悪そうに頭を掻きながら口を開いた。

「あー、なんだ。シルトやみんなが俺の恩人なのは間違いないし、凄く感謝もしてる。でも俺にとって、この世界で一番の恩人はヒメなんだ。だから俺はヒメの為に動く。ヒメの不始末は俺が清算する」
「レン……」

 そんなレン君の言葉に反応し、じっとレン君の顔を見つめるヒメ。その頬は薄っすらと桃色に染まっているように見える。

「みんな。どうかヒメを許してくれないだろうか。宮殿の箱入り娘だったコイツは、同世代の友人もいなかったし恋愛も超素人だ。コイツ自身も戸惑ってるし、シルトに向けた感情にも自分できっと驚いている。それにこれからは……」

 レン君、スーハースーハー深呼吸しちゃって。

「俺がコイツの精神安定剤になる! もうみんなに不快な思いはさせないから! また仲間に入れてくれないか!」

「「「「………」」」」

 女性陣全員の視線がレン君に集中した。

「え? え?」

 その視線に狼狽えるレン君。

「つまりそれは、ヒメの代わりに甘んじてお仕置きを受けるからパーティに残留させてくれと言う事でいいのかな?」

 今のはメッサーさん。ちょっと試しているような、そんな視線かしらね。

「お、お仕置き!?」
「まぁ……レン! 私の為にそこまで!」

「今の発言は、ボクには男として責任を取るって聞こえたんだけど?」

 今のはお姉ちゃん。からかうような、そんな視線だわ。

「え? あれ? そう、なのかな?」
「まぁ……レンったら回りくどいのですね……」

 さっきからヒメってば、頬に手を当ててクネクネしている。きっと自分なりに都合よく脳内変換しているのね。

「レン君……今のが愛の告白ならちょっと酷いかなぁ?」

 そういう事ならあたしも追撃。好きとか愛してるとか、そういうワードが一切なかったもんね。
 
「いや、そうじゃなくて!」
「レン! 違うのですか!?」
「微妙にね!」
「「「違うの?」」」

 この世の終わりみたいな顔になったヒメと、ニヤニヤしているあたし達三人。

「今のはあんた達に対するお願いの言葉だろうが! 告白とか口説き文句ってのは当の本人に言うもんだろ! そっちはちゃんと後でやる!」
「「「「おおお~」」」」

 言ってしまった後で、ハッとした表情で口を塞ぐレン君だけど、もう遅い。

「ま、レン君の言いたい事は分かった。でもレン君。ヒメの謝罪を受け入れるかどうかはシルトが決める事だし、許すにしてもけじめは付けないとね。それにしてもヒメ、よかったね。後で告白してくれるそうだよ?」
「はいっ!」

 そんなメッサーさんの言葉に、満面の笑みで答えるヒメ。
 そうね。でも途中からレン君の話でグダグダになっちゃって、もうどうでもいいや。けどまあ、お互いスッキリしないだろうからけじめはつけましょか。

「ヒメ」
「……はい」
「歯を食いしばれェェェッ!!」

 ――パァァン!

 頬が張られる音迷宮に響き渡る。

「今の一発で手打ちにしましょう」

 あれれ、ヒメったら伸びちゃった? 鍛え方が足りないわね。

「おっ、おい! ヒメ! ヒメッ!! シルト! お前もうちょっと手加減ってものをだな……」
「おいおい、レン君。シルトはとっても手加減しているよ。手加減しなかったらヒメの首から上がミンチになっているところさ」
「お、おお……そうか。あ、りがとう?」

 ひっどいなあ。こんなか弱い乙女に向かってさ。

 ヒメが伸びてしまっているので、彼女が目覚めるのを待っている間、あたし達はレン君にいろいろツッコミを入れて面白がっていたんだけど、ひとつの質問が雰囲気をシリアスに変えた。

「ヒメの目的は皇帝の打倒なんでしょ? その後はどうするの? ヒメが国を治めるの?」
「………」

 少しの沈黙のあと、レン君が答える。

「どうだろうな。非道な勇者召喚を止めたい。それだけを考えて飛び出して来たんじゃねえかな。ただ、もしヒメにそのつもりがあるなら俺はヒメを支えるし、ヒメがどこかで静かに暮らす事を望むなら、その時隣にいるのは俺でありたい」
「ふふふっ。それ、ヒメが起きてる時に言ってあげなよ?」

 お姉ちゃん、このヘタレにそんな事言える訳ないって! あははは!

「……ありがとう、レン。」
「げっ! 起きてたのか!?」
「シルト、ラーヴァ、アイギス。ちょっと私達は外そうか」

 またまたぁ、何言ってるんですかメッサーさん。これから一番面白いところじゃないですか!

「そうだねー。ほらほら、行くよ!」

 あーれー……

*****

 全く!あたしが嫌な思いを払拭しようとして迷宮に入ったっていうのに、当の本人達はいちゃいちゃいちゃいちゃ! なんで二人だけ円満解決してるのかしら!?
 ――この恨み、オークキング! あんたが受け止めなさい!

「シルト、いきなり衝撃鎚矛(インパクト・メイス)かい?」
「はい。もう全力で暴れますからみんなはそこで休んでて下さい!」

 無性に暴れたくなったあたしはアブソーバー改を背負い、フリーになった両手で身長程もある巨大なメイスを持つ。

「おおおおおお!!」

 ドラゴン装備に掛けられたエンチャントと、強化系魔法具を全て有効にしてセーフティーエリアを駆け出し、オークキングへ肉薄する。

 オークキングを守るべく立ち塞がるオークナイトを、プレートメイルの上からフルスイング。

「邪魔!」

 次々とオークの上位種が立ち塞がるが、衝撃槌鉾(インパクト・メイス)の一撃で骨を抜き取られたかのように崩れ落ちて行く。剣で受けようが盾で防ごうが無関係。衝撃は武器防具をスルーして体内で炸裂する。生き残るには完全に回避するしかない。

「無駄!」

 メイジが魔法を放とうと魔力を練っているがリセットで散らす。そして間合いを詰められたメイジに為す術はない。

「シルト……怖いですね。私、あとで土下座しますわ……」
「俺も……」

 さあ、残るはあんただけよ、オークキング!

《ブモオオオオオォ!!》

 バカの一つ覚えの咆哮なんて!

「あたしには精神攻撃は効かない!」

 『勇心』のスキルは精神に恐慌や恐怖を抱かせるようなものを無効化してくれる。
 オークキングの基本戦術は、『咆哮』によって恐慌を来たした敵に攻撃を加えていくというもの。それが効かないとなれば、ガチガチの肉弾戦で挑んでくるのだけれど、それはこっちにとっても上等!

 オークキングが振りぬいてくる大剣目掛けて、あたしは衝撃槌鉾(インパクト・メイス)をぶつけた。

*****

 ふう、スッキリしたわ! 一撃目でオークキングの腕を破壊し、二撃目でオークキングの頭を粉砕したあたしが戻ると、ヒメとレン君が土下座していた。

「ん? どしたの? 二人共」
「ふふっ。かなり君の事が怖かったみたいだよ、シルト」
「そうだねえ。鬼の形相で倒してたからね。全部一撃じゃないか」
「はい! おかげでスッキリしました!早く戻ってご飯にしませんか?」

「あの……シルト?」

 ヒメが恐る恐る顔をあげて、あたしの顔色をうかがっている。

「ああ、うん。もういいよ。お腹空いちゃったし。今日はオーク肉が大量だからお肉料理だね!」

「いつも肉食ってんじゃん……」
「神様……シルトをおバカに生んでくれて有難うございます!」

 聞こえてるよ!

  
 

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