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97話 嫉妬。そして青春小僧

「おめでとうございます。ヒメさん、レンさん、お二人共3級に昇格ですね。それに伴ってフォートレスのパーティランクも1級に戻ります。これからも頑張って下さいね」

 迷宮から帰還して、まずはギルド支所に行き魔物の討伐証明の手続き。最終階層の邪龍以外の魔物の素材は全てギルドに売却しているし、肉も食べる分以外は売却だ。なにせまだドラ肉がいっぱいあるもんね。

 そこで二人の昇級が知らされた。これでヒメとレン君はあたし達の引率無しで迷宮に入る事が出来るようになったね。

「今回は魔石の売却はいかが致しますか?」
「ああ、暫くは魔石はインギーとコルセアさんの方で使い道があってね。そちらに流させて貰うよ。」

 メッサーさんとセラフさんがそんな会話をしている最中、他の冒険者達があたしやお姉ちゃんに迷宮の様子を聞いて来たり、最近は迷宮街のマスコット的な存在になって来ているアイギスを撫でにきたりとなかなかに賑やかだ。

 本来は迷宮内の情報も立派な売り物になるらしいけど、あたし達は基本的に、聞かれれば分かる範囲で答えている。それが迷宮を造ったお母さんとお父さんの遺志を継ぐ事になると思っているから。冒険者を育てるっていうね。
 情報なしで突っ込んで、人的被害を出しちゃったら元も子もないし。

 それにね、やらしい話ですけど迷宮内マップが売れて売れてガッポガッポでんがな。あ、今の、レン君の世界の言い回し。まあ、お金に困っている訳ではないのよ。

「ただし! ボク達の話を他の人に教えてお金を取ろうだなんて思わないでね? 火葬しちゃうからね☆」

 お姉ちゃん、こわっ! 紅蓮の柄に手を添えて、紅蓮がぼんやり光っている。威嚇はもう十分だから!

*****

 ――パシュン! パシュン!

 軽い音をさせて、レン君が魔法銃から魔法を放っている。

 ――ガチャガチャ、ジャキン!

 そんな金属音をさせてグリップの中から弾倉を取り出し、別の物と交換してまた軽い音を立てて射撃する。

「どうだ? レン」
「いいですね。射撃の時の反動も少ないし、射程も思ったより長いです」

 銃口から撃ち出されたのは小さい火球や雷球。そして風球。試射段階だから威力は極小に絞ってるんだって。

「通常の出力で撃ち出せば、一般的な魔法使いが繰り出す魔法と同等の威力が出せる筈だ。現状、魔法をチャージ出来る面子がメッサーにラーヴァ、レン。だから火魔法、雷魔法、風魔法の三択になる。後はヒメの回復魔法か。水魔法は上達してからだな」

 ふむふむ。魔法を使えない人でも、様々な属性の魔法を撃ち出せるこの魔法銃。歴史が変わるほどの発明になるってイングおにいが言ってた。
 ただ、一応は目処が付いた感じだけど制作は相当に難しいんだって。だから人数分揃えるのはもう少し時間が掛かるみたい。

 そして魔石を溶かして鋳造している実弾式の方はと言うと……

「お前さん達が潜ってる間に試してみたんだがな。実弾式の銃は全く違う機構で作らなきゃダメみたいだ。今使ったそいつに実弾を装填して撃ったんだがな、五メートル飛んでボトリと落ちたよ」

 それじゃあまだ使えないわね。イングおにい、頑張って!

「こいつはシルトが持つといい」

 そう言ってレン君が魔法銃をあたしに手渡してきた。
 え? あたし? 折角レン君が発案して、漸く出来上がったのに。

「この中でロングレンジの攻撃手段を持たないのはお前だけじゃん」

 いや、確かにそうなんだけど。

「コイツで先制攻撃すればヘイト集めも簡単だぞ?」

 わあい! ありがとうレン君!!

「……」

 ……ヒメのヘイトを集めてしまったわね。目が怖いの。

「はぁ……レン君。これはヒメに使わせてあげて。あたしは大丈夫だよ。いこ、アイギス」

 なんだかね……女の子の嫉妬って怖いなぁ。アイギス、たまには二人で迷宮に入ってみようか。気晴らしに。

『にゃお!』

 あたしはもやもやした気分を吹き飛ばすべく、アイギスと一緒に迷宮に向かった。

*****

「……ボクはこの依頼降りさせてもらうよ。妹にあんな視線を向けるクライアントなんてお断りだね。シルトは君とレン君の命の恩人だって事を忘れていないかい?」
「そうだね。それに私もラーヴァもシルトに命を救われている立場なのでね。私も降りさせて貰おう。それに君達はもう単独でも迷宮に潜れるようになったんだ。強くなりたいと言うのなら自力で頑張れるだろう」

 先にアイギスと一緒に立ち去ったシルトは困ったような笑顔を浮かべていた。正直、ヒメがあそこまでシルトに対して厳しい視線を向けるとは思わなかった。
 俺としては、パーティの戦力のバランスを取る為の事であって他意はなかった。メッサーさんとラーヴァさんの言う事も尤もだと思う。今のヒメは余りにも狭量だと言わざるを得ない。

 メッサーさんとラーヴァさんがシルトを追うように立ち去って、ここに残されたのは俺とヒメ。そしてイングさんとコルセアさん。ヒメは顔面蒼白で俯いたままだ。

「なぜ、レンは私を見てくれないのです?」

 ヒメが絞り出すように言う。イングさんとコルセアさんも静かに立ち去った。この件は俺が収めろって事か。

「私を見てくれないのは何故なんですか!?」

 当然、ヒメの隠そうともしない好意には気付いている。逆に、お前は気付いていないのかと言いたい。俺は芝生の上に腰かけた。隣に座るように地面をポンポンと叩いて促す。

「知ってるか? 俺とお前の三本の刀。全部お揃いにして貰ったんだ。そうして貰うように俺が頼んだ」
「えっ?」
「それからな、魔法銃もお前専用のヤツを頼んである。ヒールに特化した白い銃身でさ。カッコいい仕上がりになる予定なんだぜ?」
「そんな……」

 俺の話を聞いて、ヒメが愕然としている。せっかく、サプライズをぶちかまそうと思ってたのにな。ネタバレしちまっただろが。

「シルトだってお前の気持ちは分かっている。でも恋愛と命懸けのパーティでの戦闘は別の話だ」
「……はい」

 俺はしょんぼりしているヒメの頭を軽くポンポンして励ましながら、なぜシルトに魔法銃を渡したのか、ゆっくりと説明した。

「ヘイトを集めて他のメンバーに攻撃が向かない様にするのが、タンクであるシルトの役割だ。敵に先制攻撃をする場合、どうしても遠距離攻撃出来る魔法使いや弓使いにヘイトが集まりやすい」
「あ……」

 どうやら気付いてくれたみたいだな。
 
「はじめは銃の受け取りを拒んでいたシルトが喜んで受け取ったのは、戦闘時のヘイト集めが容易になるからだよ。俺もパーティの事を考えて、シルトに渡すのが一番いいと思ったからシルトに渡した」
「……」
「さて、謝りにいこうか」
「……許していただけるでしょうか?」

 ヒメが眉尻を下げながら、心配そうな表情で俺を見つめる。

「大丈夫さ。俺達は仲間だ。それに……」
「それに?」

 はあ……

「身寄りのないこの世界で、お前だけが俺の――だからな。守ってやるよ」
「え? 何ですか? 聞こえませんよ!?」
「ほらほら、急げばまだ追い付けるぞ!」
「もう!」

 こんな恥ずかしい事、素面で二度も言えるか。 

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