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結人の誕生日とクリアリーブル事件2㉜




路上


―――これで・・・いいんだよな。
人が通らない一本道の路上でも、これから喧嘩が始まろうとしていた。 自分の近くにいる一人の少女を守るために。 そして――――自分の中での、決着をつけるために。
―――これは結黄賊としてじゃなくて、個人的な問題だ。
―――俺も丁度、コイツとはケリをつけたいと思っていた。

―――だから・・・自分のためになら喧嘩をしても、許してくれるよな・・・ユイ。

そして真宮は目の前にいる偽真宮に向かって、冷たい口調で言い放つ。
「来いよ」
その合図を聞いた瞬間相手はニヤリと笑い、こちらへ突進してきた。 右手で持っているナイフを、真宮の頬に向かって勢いよく突き出す。
「ッ・・・」
軽く切られた直後、すぐさま相手に向かって殴り返した。 だがその攻撃は、惜しくも避けられる。
かわしたことで余裕が生まれたのか、相手は距離を詰め――――今度は両手を使って、ナイフを大きく振り回し始めた。
その攻撃を、真宮は必死になって左右に避けかわす。 だが当然全て避け切ることはできず、切られた頬からは赤い血が静かに伝っていた。
―――コイツは両手にナイフを持っているから、きっと顔しか狙わない。
―――だったら・・・!
真宮は相手の動きに合わせキリがいいところで避け終わった後、一瞬で身をかがめ腹パンを食らわせた。
「うッ・・・」
腹を抱え込み悶えている中、彼を睨み付けながら考える。
―――このまま相手をしていてもキリがないな。
―――なら、片方のナイフでも手放させるか。
相手は痛みが治まったのか、もう一度真宮のことを睨み付け戦闘態勢をとった。 そんな彼の行動を見て、確信する。

―――コイツは右利きか。
―――じゃあ左手のナイフを手放させる方が、簡単だな。

喧嘩する態勢をとる時――――大体の人が前後に足を開くと思う。 その時、もし右足が後ろへ下がったならば――――その人は、右利きだという可能性が高い。
元々その知識があったため、当然のように相手の利き手を見抜いた。 だがその彼は真宮の考えていることを何も知らずに、再びこちらへ向かって突進してくる。 
右手でナイフを突き出してくるのと同時に真宮はその攻撃を避け、油断しているであろう左腕を思い切り殴り左手に持っているナイフを叩き落とした。

「ッ・・・!」

危険を察知した相手は落ちたナイフを拾わずに後ろへ下がり、少し距離をとる。
―――これだから素人のする喧嘩は簡単なんだ。
―――俺は・・・お前らが今までしてきたことを、絶対に許さない!
「うおおりゃああぁ!」
一つの凶器を手放してしまった偽真宮は、狂ったように力任せでもう片方のナイフを振り回し始めた。
だがその攻撃を全て見通したかのように、真宮はそれらを全て避けていく。 すると力が尽きたのか、相手は一度攻撃を止め一歩後ろへ下がった。
「おいふざけんな! 攻撃もしねぇのに避けんなよ! 真面目に戦え!」
「ッ・・・」
一方的に物を言った後、気合いを入れ直しこちらへ向かって再び襲いかかってくる。 そして――――真宮はこれで勝負を決めようと覚悟し、相手の動きを慎重に見据えた。
偽真宮がナイフを振り回してきたのを見事に避け、その隙に相手のすねを蹴る。 そこを蹴られるとほとんどの人は痛がり、身体を少し前にかがめるのだ。 
その行動を機にもう一度腹に殴りを入れ、より前かがみになったところで肩を押し地面に転ばせた。
続けて起き上がる前に彼の身体の上に乗り、ナイフを持っている右手を押さえ付け動かせないようにする。
同時に先刻手放させた地面に落ちているもう一つのナイフを拾い、それを相手の首元に軽く突き付けた。 この時の真宮は――――正気など、保ってはいない。

―――コイツらの、コイツらのせいで・・・!

突き付けているナイフに力を込める。 コイツらに出会わなければ、自分はこうなってしまう必要がなかった。 コイツらが存在しなければ、自分は今苦しむことがなかった。
そして相手のことを少し潤んだ目で睨み付け、か細い声で言葉を発する。
「お前らの、せいで・・・俺は・・・ッ!」
「・・・何だよ」
なかなか先を言おうとしない真宮に、男は口にしながら睨み返した。 だがこの先を口にすることができない真宮は、代わりに心の中で呟く。

―――お前らのせいで・・・俺は、自分の居場所がなくなりかけているんだよ!

吐き出した後、もう一度ナイフに力を込めるが――――突然自分の頭の中でカット編集が起きたかのように、一瞬にして力が抜けナイフをパッと手放した。
そのままその場に立ち上がり、顔を相手に見せないようにして藍梨の方へと足を進める。 
彼女の背中に手を添え前へ歩くよう促し、今もなお地面に横たわっている偽真宮を越そうとした。
だが通り過ぎるギリギリのところで足を止め、自分の下にいる偽真宮に向かって小さな声で言葉を呟く。

「次、また俺たちに悪さをしてみろ」

「・・・」

「・・・そしたら今度は、生きて返さないぞ」

そして相手の返事を聞かずに、その場から藍梨と一緒に立ち去った。 そんな中、真宮は先刻までナイフを握っていた右手を静かに見つめる。
それから数秒後、優しい表情になり自分の右手に感謝の言葉を心の中で送った。

―――止まってくれて、ありがとな。

その様子を隣で見ていた藍梨は、心配そうな面持ちでそっと尋ねてくる。
「真宮くん・・・大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ。 それよりこの道は危険だ。 人の多い道にでも出ようか」
彼女に向かってそう言って、人の多い路上まで足を進めた。 先刻までは危険な喧嘩が行われていたが、今の真宮の顔には満足した表情が貼り付けられている。
―――これで・・・いいんだよな。
―――アイツらがまた、俺たちに悪さをしなければ・・・それでいい。


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