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91話 レン、第一階層で大苦戦

「こいつがハイ・ゴブリンか。そこそこのプレッシャーはあるけど、オーガに比べたら雑魚だな」

 迷宮に入り、ここは第一階層のボス部屋。
 途中でエンカウントする魔物はゴブリン系ばかりなので、正直今のあたし達なら油断してても負ける事はない。そもそもアイギスが露払いしてくれるから戦闘の機会すら滅多にない。

 セーフティーエリアで恒例のお茶会をしているあたし達。そしてこっちを睨んでいるボスのハイ・ゴブリン。

「レン、そういうの、分かるのですか?」

 レン君のハイ・ゴブリンに対する反応にヒメが食いつく。

「ああ。向き合ってみれば大体分かるよ。例えばオーガなら一対一なら勝てるな、とかさ。体から発する雰囲気みたいな? そういうので分かる」

 へえ……レン君、結構すごいね。でも自分より強い相手だって戦う前から分かっちゃったら逆に委縮しちゃわないかな?

「レン君、君は何か武術をやっていたのかい?」

 そんなメッサーさんの質問に、少し照れながらレン君が答える。

「武術と言っていいのか分からないけど、ボクシング……拳闘と言ったら分かり易いかな。拳だけで戦うスポーツならやってたよ。ま、学校のクラブ活動でやってただけだからさ。街の不良少年に絡まれても返り討ちにするくらいが関の山」

 ふうん。くらぶ活動っていうのが何か分からないけど、素手の格闘なら経験あるのに、剣術スキルを持ってたおかげで折角の経験を活かせずにいたのかぁ。

「街で出くわす不良とのケンカと違って、こっちの戦闘は命懸けだろ? どんな雑魚だって武器持ってるしさ、わざわざ素手で殴り掛かろうとは思わねえって。ははは」

 そう言ってカラカラと笑うレン君に、少し厳しい表情でメッサーさんが話し掛けた。

「レン君は相手の個体(・・)の強さをある程度把握出来るみたいだが……早速挫折して貰おうと思う。レン君が雑魚と言い放ったあのハイ・ゴブリンと、一対一で戦ってみて欲しい。他の取り巻きは私達が受け持つよ。なに、死にさえしなければシルトが治してくれるし、横槍は入れさせないから存分にやり合うといい」

 さも、レン君が苦戦する、いや、負けるとでも言いたげなメッサーさんの言葉に、レン君の視線も厳しくなり、ヒメは途端に心配そうな顔をする。まるで怪我をするのは確定みたいな話だったもんね。

「……なら行きますよ。ヤツもしびれを切らしてるみてえだからな」

 確かに、目の前でお茶会をしている侵入者に手出し出来ないハイ・ゴブリンは苛立ちの極致だ。だって地団駄踏んでるんだもん。
 ちなみに今回は、ボスの他にゴブリンメイジが一体。あとはナイトが四体。

 それでは、と全員でセーフティーエリアから一歩踏み出し、まずはヒメが相手に防御低下のデバフを掛ける。同時に敵のメイジが練っていた魔法をあたしがリセットで散らす。さらにメッサーさんが魔法を消されて戸惑っているメイジに風の斬撃を飛ばして両断する。これで今回の敵は遠距離攻撃の手段はない。

 メッサーさんがメイジを倒した時点で、すでに敵に駆けだしていたお姉ちゃんが一体のナイトを仕留め、さらにあたしも一体を叩き潰す。最近のあたしったら一段とパワーアップしたみたいで、ナイトの金属鎧ごと叩き潰しちゃったのね。残り二体もあたし達の連携でさっくりと倒して、さっさとレン君の観戦モードに入る。

「ゴブリンとはいえ、上位種のみの相手をまるで問題にしないとは……これが特級パーティの力ですか……」

 出だしのデバフ以外はする事が無かったヒメがあんぐりしていた。

「いや、ゴブリンナイト程度なら、2級パーティでもこれくらいはやるんじゃないかな?」

 そうね。少なくとも特級じゃなきゃ無理って程でもないかしら。そんな事よりほら! レン君!!

*****

「ちっくしょう! なんだよコイツ!」

 メッサーさんの言いたかった事を俺はすぐに身体で思い知った。

「やりづれえ!」

 ハイ・ゴブリンの繰り出す剣を受けながら、辛うじて致命傷を避けている俺。こんなにも苦戦しているのは、俺が放った雷撃をヤツの剣が切裂いたのが原因だ。ラーヴァさんの常闇の話、聞いてたのにな。

「うっそだろ!? 魔法を斬る!?」

 初撃をあっさりと無効化された俺は動揺した。その隙を突かれて懐に入り込まれた俺は、手痛い傷を足に負ってしまった。それにコイツ、やたらと技術がある。
 こっちは大剣、向こうは長剣。威力ではこっちに分があるけど、手数では向こうが有利。次に懐に入られたらジリ貧だ。

「くっ。手数とスピード、テクニック。アウトボクサータイプってヤツか。それにあの剣。俺のメリットをスポイルしやがる」

 対する俺は足をやられてフットワークを封じられ、カウンターを狙うにも俺の大剣じゃあ相手の挙動を見てから繰り出しても速度で負ける。
 ……まぁ、手が無い訳じゃねえんだがな。

「こんな第一階層で使う羽目になるとはな。舐めてたぜ」

 ちょっとカッコ悪いが負けて死ぬよりはマシだ。奥の手を使わせて貰う!

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