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結人の誕生日とクリアリーブル事件2㉚




クリアリーブルのアジト


アジトの中で、結人は伊達に身を任せ身体を休めていた。 意識を少し手放してから数十分後――――ゆっくりと瞼を開け、目を覚ます。
「そろそろ・・・みんなのもとへ、行かねぇとな」
「ユイ! もう大丈夫なのか?」
小さく呟くと、伊達はすぐさま心配そうな面持ちで顔を覗き込んできた。 そんな彼にこれ以上不安な思いをさせないよう優しく微笑みながら、言葉を綴り出す。
「俺はもう大丈夫だよ。 それより・・・みんなのところへ行く前に、俺たちの手当てを先にしないとな。 こんな状態じゃあまともに動けやしねぇ」
ゆっくりと身体を起こし、自力でその場に立ち上がった。
「ここにいちゃ危険だ。 コイツらが起きて動き出す前に、俺たちはここから出よう。 手当てはそれからだ」
「分かった」
「伊達。 悪いけど外に見張りがいねぇか、見てきてくれないか?」
あまり無駄な体力は使いたくないため、彼に頼みを入れる。 
それを受けた伊達はアジトの外まで行き確認した後、結人に『見張りはいなかったよ』と伝え二人は人の多い路上付近まで足を運んだ。

流石にたくさんの人が行き交うところではこんな酷い姿で出歩くわけにもいかなく、その路上を目の前にしたところで結人はその場に座り込む。
「伊達、ここに座れ。 先にお前から手当てをしてやる。 ここだと、もしクリーブルの連中が追ってきたとしても、すぐに人の多いところへ紛れ込むことができるからな」
「いや、手当ては先に自分から」
「いいや。 伊達からだ」
「・・・」
強い口調で言われると、伊達は渋々その場に座り手当てを受けた。 そして結人は応急処置をしながら、先刻まで気がかりだったことを彼に尋ねる。
「伊達。 ・・・お前はどうして、こんなに傷だらけなんだ?」
「それ、は・・・」
「どうして、こんなに怪我をしているのに無事に俺のところまで辿り着くことができたんだよ」
「ッ・・・」
「答えろ!」
なおも手当てをしたまま声を張り上げると――――伊達は静かに、先刻起きた出来事を話し始めた。





それは――――伊達が男二人に追い詰められ――――鉄パイプを近くに投げ捨て――――彼らに向かって、殴りかかった時のことだった。

―ドゴッ。

伊達が自ら相手に向かって突進し、拳を男の顔面に思い切りめり込ませる。
―――でき、た・・・!
思っていた以上に簡単にダメージを与えられたことに、少し余裕が生まれた。 だかその快感を覚えたのも束の間、男はすぐさま伊達に向かって攻撃を仕掛ける。
「! カハッ・・・」
咄嗟に前へ突き出した右手は相手に掴まれ、そのまま引き寄せられた伊達は思い切り腹パンを食らってしまった。 
その痛みに耐えつつも、その攻撃をそのまま相手にやり返す。 だが――――当然同じような攻撃は通用しなく、相手に思い切り蹴られ遠くに飛ばされてしまう。
―――くそッ、このままやられてたまるか!
勢いよく蹴り飛ばされたが力尽くで起き上がり、力任せに相手に向かって殴りかかった。 が――――その時。
「ぐあぁぁ!」
左手で殴りかかろうと拳を相手の顔面に向かって突き出した瞬間、男はその行動を先読みしていたのか左腕を思い切り殴り返した。
自分の細い腕を無理に曲げられたこの痛みに耐え切れず、伊達は左腕を抱えたままその場に崩れ込んでしまう。 
そして目の前にいる男をキツく睨み付けると、奴はこちらへ向かって勢いよく突進してきた。

―――このままだと、やられる・・・ッ!
―――俺は早く、ユイのところへ行かなきゃなんねぇのに!

その時伊達は、先程近くに投げ捨てた二本の鉄パイプを見た。 だが――――溢れ出す気持ちを何とか抑え、もう一度自分に迫ってくる相手を睨み付ける。
―――これが・・・最後だ。
―――これで、最後の攻撃にしてやる!
左腕を完全にやられ攻撃力を大幅に失った伊達は、そう心に決め付けその場にゆっくりと立ち上がった。 
そして――――自分に殴りかかってこようとしている相手の攻撃をギリギリかわし、右手の拳を思い切り男の顔面に食い込ませる。
その勢いで身体が少し反ったのを機に、伊達は奴を軽く蹴り飛ばし地面に転ばせた。 
続けて起き上がる隙を与えず、抑え付けるようにして相手の身体の上に乗り全体重をかける。 
それからは自力で起き上がれなくなるまで、右手だけで男を顔を容赦なく殴り始め――――

「どうしてお前らは一般の人まで巻き込むんだよ! どうしてクリーブルはこんなチームになっちまったんだ!」

自分に敷かれている奴に向かって、自分の思いを投げ出すように言葉を吐き出していると、背後から静かに近寄ってきたもう一人の男が左腕を掴んできた。
「・・・ッ!」
突然の行為に驚くも、伊達は左腕の痛みに耐えつつ右手で後ろにいる男に向かって――――渾身の一撃を放った。





そして――――結人は右手の傷の手当てに集中しながら、小さな声で彼に尋ねる。
「それで? 相手はどうしたんだ」
「・・・」
俯いたまま何も言葉を発さない伊達に、更に問い詰めた。
「・・・死んでは、いないよな?」
「死んではいない! ただ・・・気絶した、だけだ」
「・・・」
その言葉を聞き、結人は口を噤み黙り込んだ。

―――素人の喧嘩で気絶させるなんて・・・相手が本当に無事かどうか、分かんねぇな。
―――伊達を相手にした男らの様子を見に行きたいけど、今の俺の体力じゃ無理か・・・。

そして無言のまま、彼の左腕に触れ少し持ち上げる。
「うッ・・・」
「痛むのか?」
少し表情を歪ませた伊達に、結人は小さな声で尋ねた。 その問いに対し、彼は小さく頷く。
「今から病院にでも行くか?」
「いや、行かない」
「じゃあ・・・一応固定はしておくから、まだ痛むようだったら病院へ行けよな」
『病院へ行かない』と即答した彼には気にも留めず、結人は伊達の手当てをし続けた。 

それから数分後、彼の手当てを一通り終え結人は自分の傷の手当てに取りかかる。 自分の顔の傷を慣れた手つきで手当てをしながら、伊達に向かって口を開いた。
「未来はどうした? ちゃんとダチに言って、未来のところへ行かせたのか」
「あぁ。 椎野を連れて捜すよう、友達には言った。 でもあれから連絡が来ていないから、無事に合流できたのかは分からないけど・・・」
「・・・未来が心配だ」
「・・・」
そして結人は手当てをしていて両手が放せない代わりに、伊達に向かってもう一つ頼みを入れる。

「今すぐ椎野に電話してくれ。 無事に・・・みんなに会えたかどうかを、確認したい」


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