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88話 人目とプライドと安全と

 途中で野営をして、翌日の夕方迷宮街に到着したあたし達は、迷宮街のギルド支所へ直行した。

「たっだいまー!!」
「あら、皆さんお帰りなさい。報告があるでしょうから奥の部屋へどうぞ?」

 さすがセラフさん、分かってらっしゃる。
 いつもの会議室みたいな部屋で、セラフさんの淹れてくれたお茶を飲みながら今回の経緯と出来事を話す。セラフさんは特にヒメとレンの事は心配だったようで。

「そうですか。領主様の庇護を頂けるなら、お二人も滅多な事にはならないでしょうか」

 二人が騎士爵を賜った事を聞いて安心したみたいね。

「ただ、警戒すべきは帝国から直接来る刺客でしょうが……」

 そうだね。賞金稼ぎ風情が騎士様に喧嘩を売って、領主様を敵に回すとか余程のアホウじゃなければあり得ない。ただ、賞金稼ぎじゃない場合は少し厄介ね。帝国の犬なら殺すだけの目的で近付いて来るだろうし。

 でも、その心配もあんまりないかなあって思うんだよね。ヒメ達が逃亡してからそこそこの日数が経過している。ぶっちゃけ、情報がこっちに漏れてるのは帝国も織り込み済みなんだと思う。
 機密が漏れてしまったらもはやそれは機密じゃないもんね。だから言い方はアレだけど、帝国としてはヒメもレン君も、死のうが生きようがどうでもいいのかも知れない。

「楽観的な見方をすれば、山中に逃れた私達は既に魔物にやられて死んだものと思っているかも知れません」

 そうね。ヒメの言うような事もあるかも知れないわね。でもまあ、それならそれで枕を高くして眠れる訳だし。

 続けて、迷宮街道へ宿場町を造る事、領軍や騎士団が、本格的に迷宮で実戦経験を積むために派遣されてくる事を伝えた。

「なにか、大きく動いてますね。この支所も手狭になりそうですし、人的補充も考えて貰わないといけませんね」

 あ、人的補充と言えば……例の冒険者と受付嬢の不祥事と保護したお姉さん二人の件を話した。本当ならこっちのギルド支所で働く予定だったんだよね、あのお姉さん達。

「へえ……あの時のクサレ冒険者が。しかもギルドの受付嬢と癒着? それでそのクサレ冒険者とクサレ受付嬢はどこに? そうですか。生ぬるいですね。私、今から本部に行ってケーニヒのヤローにヤキ入れて来ますんで。テメーの目ん玉は節穴かよってね。どう考えても極刑だろうがよ……なにやってやがんだあのジジイ」

 ヤバいヤバいヤバい! セラフさんスイッチ入りそう! ってか、もう入ってる!?

「待って待って! セラフさん、今夜もドラ肉どうです? ギルマスにはお肉あげてないんですよ! だからお仕置きはナシで!!」
「むむ……仕方ありませんね。それにしてもギルド組織の人間が冒険者と癒着した挙句に、冒険者が女を襲うだなんて。やっぱりあの時きっちりぶっ殺しておけばよかったですね」

 ほっ……落ち着いたぁ。しかし、ドラ肉凄いわね。怒れる狂犬をも鎮める美味さ!?
 セラフさんの素がちょっと顔を出しかけてレン君とヒメが呆気に取られているけど、彼女がキレたら本当に殺るからくれぐれも怒らせないように言っておこう。

「では報告は以上ですね。ご苦労様でした。ごゆっくりお休み下さい」

 まあ、また夜にはここのホールでドラ肉大会なんだけどね!

*****

「ただいま、インギー。今戻ったよ。寂しかったかい?」
「おお、お帰り、メッサー。寂しかったに決まってんだろ」

 みんな揃ってイングヴェイ工房にお邪魔してるんだけど、あたし達って文字通りお邪魔かなって思ったのね。それが何よ二人ったら。あたし達なんかいないも同然よ!? 空気よ空気!! どうしてそこまで人前でいちゃつけるのかしら⁉ 気を遣ったあたし達バカみたいじゃない!

 え? あたしはバカじゃないわよ失礼ね。て言うか。

「いい加減に戻って来い! このバカおにい!」
「うお!? なんだ、いたのかお前ら。いるならいるって言ってくれよ」

 デレデレしてそんな事をのたまうバカ。初めっからみんないたわ!

「あー、わりい。全っ然見えなかったわ。ハハハ!」
「あのね……今日はお客を連れて来たの! この二人の装備の件で」
「ん? あんたらは新規でパーティに加入したっていうニュービーだったな。その装備は俺が作ったモンだが……ああ、こいつ等からの借りモンか。なるほど」

 装備の件って聞いた途端に顔つきが変わる。この辺、やっぱりイングおにいはプロなんだよね。
 
「イングさん。見た通り、俺達は上から下まで全部借り物なんだ。一応自前の物でスタートしなきゃなって思ってさ。駆け出し冒険者の俺達がこんな上等な装備を付けてるのは周りにも受けが良くないだろ?」

 レン君の話を黙って聞いていたイングおにいの視線は険しい。

「お前、レンとか言ったか? その考え方はある意味正解だが、またある意味では最悪だ」
「最悪? 何故だ?」
「金で買える安全なら金で買え。人の好意で安全が確保出来るなら好意に甘えりゃいい。守りたい何かがあるんだろう? 自分のプライドを守る為に、守れたはずのものを失ってもいいのか? 周りの目を気にして自分が死んじまったらどうすんだ?」

 イングおにいがいつになく厳しい。それに、ずっしりと重い言葉だよね。レン君も考え込んでいる。

「………」

 そしてイングおにいはちらりとあたしを見て続けた。

「もっとも、他人の好意に頼らず自分の足で進もうとする気概は嫌いじゃねえし、周りの目なんてモノは実力で黙らせればいい。そこのバカがそうだったぜ? そもそも防具にキャリアは関係ねえよ。初めっからいい物があればそれを使うべきだ。俺が二人分仕立ててやる。しばらくかかるからその装備はそのまま使っとけ」

 そう言ってイングおにいはメッサーさん、お姉ちゃん、あたし、と順に視線を送ってくる。もちろんあたし達に異論はない。無言で頷き返すだけ。あたし達の意思を確認するとイングおにいは更に続ける。って言うかそこのバカってあたしか!?

「ただし、武器は別だ。未熟なヤツが極上の武器を使ってもな。それは分かるだろ? 逆に達人が(なまく)らを使えば(なまく)らが名剣になる事もあるがな。お前はオークキングの大剣を使っているみたいだが、その辺は釣り合い取れてんのか?」 
「俺は……ラーヴァさんと同じく魔法剣士だ。というか、この大剣に出会った事で魔法を纏わせて戦うスタイルに辿り着いたんだ。だからこの大剣の能力は俺には必要だ。ただ……こっちの世界の両手剣の類はしっくり来ない」
「……詳しく話せ」

 はい、イングおにいの職人魂に火が。こうなると長くなりそうだから、コルセアさん呼びに行こうか。行こ、アイギス。

『うにゃ!』

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