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結人の誕生日とクリアリーブル事件2㉗




クリアリーブル集会 広場


夜月の目の前にいる男が、ニヤリと笑って片手を勢いよく振り上げた。 刹那――――背後から、たくさんの人々の叫び声が聞こえてくる。
―――まさ、か・・・。
全身の痛みに耐えながら、ゆっくりと後ろへ振り返った。 そして、夜月の目の前に映った光景とは――――
―――マズい・・・。
―――止めろ・・・!
―――止めてくれ・・・ッ!

それは――――クリアリーブル同士が、喧嘩をしているものだった。





「夜・・・月?」
クリアリーブルの中に結黄賊として紛れて込んでいる北野は、ふと何かを感じ取り夜月の名を小さく呟いた。
―――何だろう・・・今の嫌な感じ。
―――・・・夜月、大丈夫かな。
彼のことを心から心配しつつも、今自分がやるべきことをこなしていく。
「皆さん早く逃げてください! 慌てずに落ち着いて!」
北野は伊達の友達二人と、ここにいるクリアリーブルの人々を避難させていた。 広場の一番後ろにいる者から声をかけ、この場から逃げるよう促していく。
すると――――突如遠くから、男の怒鳴り声が耳に届いてきた。

「だから、素直に俺たちの命令に従えっつってんだよ!」

―――え・・・何?
「皆さん、早くここから逃げて!」
北野は大声で言葉を放した後、気になるその声の方へと足を進めていく。 逃げる人々に逆らいながらも、確実に奥へと進んでいき――――北野は、自分の目で見た。

クリアリーブルである男が、仲間であるクリアリーブルの人を容赦なく殴っている姿を。

「おい・・・! 止めろ!」
その光景を目にした北野は、すぐさま自分の判断で止めに入る。 やられていた人を助けるのと同時に相手を殴り、奴を無力化した。
地面に倒れ伏している男を見下ろしながら、歯を食い縛る。
―――もう、潰しに入ったのか・・・ッ!
先刻伊達の友達らから聞いた『もし俺たちに協力してくれなかったら、ソイツら全員ぶっ潰す』という言葉が、脳内を過った。
―――さっき嫌な感じがしたのはこのことか。
―――だったら他にも、仲間を潰そうとしている奴らがここに何人もいるっていうことだよな。
―――みんながやられるうちに、早く避難させないと!
「早く逃げてくださーい! 前の人は押さないように!」
遠くからは伊達の友達らの声が聞こえてくる。 しっかりと夜月の命令を従っている彼らに感心しつつ、北野は避難させることを二人に任せ自分は違う行動を起こし始めた。
それは――――クリアリーブルの仲間を潰そうとしている奴らを見つけ、やられている人々を助け出すこと。 北野は広場中を走り回り、その彼らを見つける。
「その人から手を放せッ!」
男に向かってそう言いながら、思い切り蹴りを入れる。 奴に腕を掴まれていた女性が倒れそうになるところを、北野は上手く支えた。
「大丈夫ですか? 早く逃げてください」
「ありがとう」
この、繰り返し。 広場をあちこち走り回り、やられそうになっている人を見つけたら相手を攻撃しその人を助ける。 

その行動を起こしてから数分後――――遠くから、北野を呼ぶ声が聞こえてきた。
「北野先輩!」
「? あ・・・みんな!」
キリがいいところで喧嘩を止め、その声のする方へ振り返った。 そこには結黄賊の後輩の姿が見え、それだけで心が救われる。
「先輩! 俺たちは何をしたらいいですか?」
―――あれ・・・事情は知っているのかな?
北野のもとへ着いて早々、先輩からの指示を求める後輩たち。 そんな彼らに少し困惑しつつも、命令を言い渡した。
「ここにいるクリーブルのみんなを避難させるよう、声をかけてほしいんだ。 もしその最中に喧嘩をしている奴らを見つけたら、手を出して止めに入っても構わないから」
「「「了解です!」」」
すると後輩の一人が、顔だけを横へ向けながらそっと尋ねてきた。
「先輩、あの人たちは誰ですか?」
そう聞かれ、北野は後輩が見ている方へと視線を移す。 それが誰かを確認すると、簡単に説明をした。
「あぁ、二人は伊達のクリーブルの友達だよ。 今は俺たちに協力してもらっているんだ」
「そうなんすね。 じゃあ俺たちも、伊達先輩の友達さんに負けないよう頑張ります!」
「うん。 無理はしないようにね」
「「「はい!」」」
後輩たちは大きな声で返事をし、それぞれ散らばっていく。 それと同時に『皆さん逃げてください!』という声が聞こえ、彼らの忠実さに改めて感心した。
そこで北野は、再び仲間である夜月のことを思い出し少しずつ懸念を抱いていく。
―――夜月・・・大丈夫かな。
―――今頃あそこで、一体何をしているんだろう。
そう思いながら、不安そうな目で夜月がいる広場の奥を見つめていた。





―――どうして・・・どうしてこんなことになるんだよ!
その頃夜月は、クリアリーブルが仲間であるクリアリーブルを殴っている姿を見て、その場から一歩も動けずにいた。
仲間同士での抗争などはあり得ないと思っていたため、今その光景を目の当たりにし動揺して一つも行動に移せずにいる。 
その代わり、壇上にいる男の方へ身体を向け直し大きな声を張り上げた。
「おい! どうして関係のない人まで巻き込むんだ!」
すると彼は壇上から夜月のことを見降ろしながら、淡々とした口調で答えていった。
「結黄賊は、数には負けるだろ。 たくさんの人を集めれば、次結黄賊と抗争した時に勝てると思ってな。 だから、今はその人数集めだ」
―――・・・そんなことをして、いいと思ってんのかよ!
―――どうしたら・・・俺は、どうしたらいいんだ・・・ッ!
今の思ってもみなかった現状に、夜月は頭が混乱し考えがまとまらなくなる。 そして――――駄目元で、男に尋ねてみた。
「じゃあ・・・どうしたら、殴り合いを止めてくれんだよ?」
もはや負けを認めたのも同然のように、相手を見据えながら小さな声で口にした。 
その言葉を聞いた瞬間、男は少しだけニヤリと笑い――――夜月に向かって、こう言葉を言い放つ。

「そうだなぁ・・・。 お前がクリーブルに入ったら、止めてやるかな」


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