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86話 ヒメとレン、運命を変えた出会いの話

 今日もまた、異界の方が父によって呼び出された。私は知ってしまった。もう幾人もの方が呼び出されては壊されている事を。

「貴公はこの世界を救う為に、魔王を倒す勇者として選ばれたのだ」

 そういう父の言葉に取り乱したり戸惑ったりしながらも、最終的に受け入れてしまう異界の方々。そしてスキルを奪われ、抜け殻の様にされてしまう。或いはスキルを詰め込まれ、壊れてしまう。

 きっと父は、『完全なる勇者』が出来上がるまでこの愚行を止めないだろう。そんな父に心を痛める日々。私に出来る事は何もないのだろうか。
 
 もちろん、父にこの愚行を止めるよう進言した事はある。

「異界人など我らとは違う生き物よ。同じ人の姿をしているだけだ」

 しかし、返ってきたのはそんな言葉。本当にそうなのだろうか。

 まだ異界の方がどういう扱いを受けているのか知らなかったある日、宮殿の中庭で剣の稽古をしている黒髪の少年が目に入った。必死に訓練にいそしむ姿、そして兵達と談笑する姿。
 そう言えば、彼の事は印象に残っていた。こちらの世界に召喚された直後は、皆少なからず動揺を見せるが、彼だけは落ち着いていた。いや、落ち着いていたと言うよりは諦めていた、という感じに見えた。

「父上。私が勇者の器となります」

 彼を見ていると、どうしても父の言葉が真実とは思えない。私達となんら変わらぬ人間にしか見えない。ただ、珍しい黒髪と黒い瞳をしている。ただそれだけで。
 私は決心した。私が器になれば少なくとも召喚された異界人が前線に立って戦う事はないだろう。

 結果、私は壊れなかった。他人のスキルが私の中に確かにあった。

「まさかお前が器とはな。まあ良い。完全なる勇者となるまで壊れるな」

 でも、自分のものではないスキルは劇物なのだろう。一人、また一人とスキルを受け入れている内に、どんどん私の身体は何か悪い物に蝕まれていくように衰弱していった。

 そんなある日、中庭で一人剣の素振りをしている黒髪の少年がいた。訓練は休みで自主的に鍛錬しているのだろうか? 
 なんだろう。とても彼と話したい。なぜ召喚されたあの日、あんなにも落ち着いていて、そして諦めていたのか。

 無意識だった。いつの間にか私は中庭に立ち、一心不乱に剣を振る彼を見つめていた。

 彼が私に気付き一礼をする。

「少し、お話をしませんか?」

 軽くお互いの自己紹介をし、気になっていた事を彼に尋ねた。

「俺の世界の物語では、勇者として召喚された者は使い潰される。王女様と結婚してめでたしめでたしなんて結末は殆どない。これが異界からの勇者召喚なら、俺は皇帝の手駒としていいように使われて終わるんだろうなって思ったんだ」

 それで彼は、あの時全てを悟り諦めたような顔をしていたのか。ではなぜ今は必死に鍛錬しているのだろう?
 私はその疑問を口にした。

「この宮殿は広いからな。迷っちまったんだ。その迷い込んだ先で見ちまった。廃人になっている連中を。ああ、これが俺の行く末かって直感で分かっちまった。強くなれば、万が一にも逃げ出せるかも知れないだろ? ははは、皇女様にこんな事言ったら俺ももう終わりかな。はぁ……やりたい事、いっぱいあったのになあ……」

 ――!!

 私はこの時初めて、スキルを奪われた異界人の末路を知った。

 私を皇女と知った上で、なぜそんな事を言ったのか。私が父にその事を言えば、彼は間違いなく処分されるというのに。

「あんたの俺を見る目が悲しすぎたからだ。だから、なんとなく言っちまった」 

 それから私は、幾度となく彼と話す機会を設けた。彼に欠落しているこの世界の知識を与え、質の良い剣を与え。もし彼が逃げ出す時は私が彼の盾となろう。どうせ私はもう長くはないのだから。

 そしてついに彼が父から呼び出された。

「尖兵となって戦え」

 これは隠語だ。実際はスキルを奪うという事。私が器となり、彼を抜け殻にするという事。
 彼も、なんとなくそれを悟ったのだろう。父の命を拒否した彼は逃亡を企てた。そして私は彼の逃亡を助け、山中では彼に助けられた。
 お互いに芽生えていた奇妙な信頼感。互いが互いを生き延びさせる。それだけを考えての逃亡。そしてそれが、私達の運命を大きく変えることになった。

*****

 女の子四人は、寝室に集まってガールズトークに花を咲かせているの。ヒメがレン君と出会う前後のお話を根ほり葉ほり。

「そして皆さんに助けられたのです。正直、私がレンにヒールを連発した時点で、私の身体は限界でした。シルトさんに『リセット』を掛けていただかなければ恐らく私は……」

 ううう、なんかヒメって健気だね。レンの為に……でも、レン君も腕を切り落とされて失血で気を失っても、ヒメを守る為に立ち続けてたよね。これは愛かしら!

「レンがいなければ、こうして皆さんと出会う運命は拓かれなかったでしょうね。そして私は宮中で徐々に衰弱し死んでいたでしょう。だから私は一生を懸けてレンを支えて行きたいです!」

 おおお! そこまで言えるのって凄いなあ! ね、アイギス! ヒメってなんか応援したくなるよね!

『にゃーぅ』
「アイギスが頑張れって言ってるよ」
「まぁ! では私、ちょっとレンの側に行って参ります!」

 ヒメはアイギスを一撫でし、枕を抱えてリビングのソファで寝ているレン君の所へ駆けていった。いいのかしら?

「いいんじゃないのかい? お姫様ってさ、大概は父親の都合のいい男と結婚させられるから、恋愛の自由なんて全くないと思うよ? それがレン君みたいなナイトが現れたら、タガが外れて恋心が暴走してしまうのも分かる気がするよ」

 お? いがーい! お姉ちゃん、恋心を理解出来るんだ!?

「ボクだって過去にはときめく相手に出会った事もあるんだよ!? でも、寿命がね……」

 ああ、お姉ちゃんはヒューマンに恋をしたのね。でもエルフの寿命に付き合える訳ないもんね。深い仲になる前に幕引きをしたって所かしら?

「メッサーさんもイングおにいと結婚したし、お姉ちゃんも恋愛経験者かぁ。あたしはそういう相手と出会えるのかなぁ」

「シルト、レン君は対象にはならないのかい?」

 メッサーさん、それは無理と言うものよ。出会ってまだ数日、しかもヒメとレン君の間にある空気に割り込むのはちょっと。それに、レン君ってちょっとバカっぽいし。

「「君がそれをいうか……」」

 なぜにっ!?

 そんな時、ヒメが枕を抱えて戻って来た。

「追い返されました……」

 しょんぼりしているヒメ、可愛い。

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