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結人の誕生日とクリアリーブル事件2㉖




路上


走る。 ただ、走る。 椎野たちと同様、必死に走っている少年がもう一人いた。
―――どうして、こんなことになったんだよ!
伊達は背後から迫ってくる恐怖に耐えながら、見知らぬ道を必死に駆け回っている。
―――今はこんなことをしている場合じゃねぇのに!
そして――――後ろからは、伊達を追い詰めるような言葉が聞こえてきた。

「おい待て! お前は何者だ!」

―――何者・・・?
―――・・・そうか。 
―――『俺はクリーブルだ』と言えば助かるかもしれない。
―――なら、言ってみるか。
意を決し、その場にピタリと足を止めた。 覚悟を決めた表情でゆっくり後ろへ振り返ると、男二人も伊達と一定の距離を保ちその場に立ち止まる。 
そしてもう一度、相手は冷静な口調で言葉を放った。
「お前は一体、何者だ? どうしてこんなところにいる?」
「・・・俺はクリーブルだ」
「証拠は?」
「・・・」

―――証拠?

突然そう言われ、必死に頭を回転させ証拠となるものを探す。 
そしてクリアリーブルに入っている者しかログインできない、クリアリーブルのホームページを携帯の画面にして男に突き付けた。
確かな証拠を見せられ、彼らは互いに顔を見合わせ難しそうな表情を浮かべている。 その面持ちのまま、一人の男が伊達に尋ねかけた。
「ならどうして俺たちから逃げたんだ?」
「そりゃあ、二人が突然追いかけてきたから・・・」
「・・・」
何も言い返せなくなった相手は少しの間を置いて、再び彼は口を開く。
「集会には行ったのか?」
その問いに対し、伊達は何も口には出さず静かに首を横に振った。
「何だ、道に迷ったのか。 集会は正反対の場所にあるぞ。 おいお前、コイツを集会まで案内してやれ」
「おう」
「待て、俺は集会には行かない!」
男同士のやり取りに割って入るよう、伊達は力強くその一言を言い放つ。
「は? お前何を言ってんだ」
「結黄賊は何も悪くない」
「・・・」
相手を睨み付けながら口にした伊達を見て、男らは揺るぎないその意志に呆れたのか、溜め息交じりで言葉を呟いた。

「口答えすんなよ。 結黄賊は俺たちに酷いことをしてきたんだぞ。 そんな奴らを簡単に許してたまるか。 
 それにそんなに結黄賊の味方をすんなら、お前はクリーブルを辞めて結黄賊にでも入れよ」

「ッ・・・」

最後の一言を聞いて気に障った伊達は、両手に持っている鉄パイプを力強く握り締め歯を食い縛る。
―――・・・そうしたいけど、できねぇんだよッ!
―――こうなったら・・・もう、やるしかないよな。
ある覚悟を決め、このまま戦闘態勢をとった。 そんな突然の行為に、目の前にいる男らも警戒し自然と身を構える。
―――俺でも・・・できるよな。





数日前


「喧嘩のやり方を、俺に教えてくれ」

これは――――数日前の、伊達とコウの会話だ。 伊達は喧嘩のやり方を少しでも身に付けたくて、コウに教えてもらえるよう頼み込んでいた。
「・・・分かったよ」
伊達の強い意志に圧倒され負けたのか、彼は視線をそらし小さな声で答える。 そして言葉だけで、喧嘩のやり方を伝えていった。
「喧嘩は・・・避けることが基本だ。 だから相手に攻撃をするよりも、相手の攻撃を避ける方に集中した方がいい。 避けずに殴られて、そのまま自分が倒れたら終わりだからな」
彼は小声のまま説明していく。 当然今は学校にいるため、このような危険な話を大きな声でするわけにはいかなかったからだ。
だが伊達はその説明には納得がいかず、自分の意志だけを伝え続ける。
「違う、俺が聞いているのは避け方じゃない。 攻撃の方だ」
「攻撃の仕方は教えられない」
「教えてくれ!」
「ッ・・・」
またもや伊達からの迫力に圧倒され、コウは自分の意志が折れてしまい渋々と説明し出した。
「攻撃は・・・伊達は喧嘩初心者で慣れていないから、5割の力で相手を攻撃したらいいと思う。 狙う場所は腕や足。 特に喧嘩慣れしていない奴は、腹を攻撃しては駄目だ。
 相手にどれだけの被害が出るか分からない」
「分かった」
「そして・・・できるだけ、キックとかの蹴りは止めた方がいいと思う。 低い蹴りならいいけど、高い蹴りをして足を掴まれ、地面に倒されたらこっちの負けだからな」
「分かった。 ありがとう」
嫌そうな表情を少し見せながら説明するコウに対し、伊達は真剣にその説明を聞いていた。 そして彼は――――最後に一つだけ、忠告してくる。
「でも、鉄パイプのようなモノは絶対に使うなよ」
「え、どうして?」
「確かに鉄パイプを使った方が有利で勝てるかもしれないけど、それだけは絶対によせ」
「だから、どうしてだよ」
コウはその問いの答えを最後の一言として言い放ち――――この場から逃げるようにして去っていった。

「それらを使って、もし人を死なせたりでもしたら・・・どうするんだよ」





そして、今現在。 今伊達の両手には、鉄パイプが強く握られている。 これらを使うと、相手は一撃で倒せることができるのだが――――伊達は、迷っていた。
「ッ・・・」
一度戦闘態勢をとってしまえば、背を向けて逃げ出すことができない。 かと言ってここで男らと素手で喧嘩をしてしまえば、喧嘩初心者の伊達は当然負けてしまうだろう。
だがここで鉄パイプを使って喧嘩をすると、こちらの勝利も少しは見えてくる。 
そのようなことで、自分一人葛藤していると――――再び伊達の脳裏には、コウの言葉が再生された。

『それらを使って、もし人を死なせたりでもしたら・・・どうするんだよ』

その言葉が何度も頭の中でリピートされ、思わず歯を食いしばる。
―――ッ、くそ!
そして――――伊達は鉄パイプを近くに放り投げ、男らに向かって自ら殴りかかった。


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