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79話 危険は魔物だけじゃない

 ゴブリン程度が何体いようが、今のあたし達には脅威じゃない。アイギスとあたしでさっくりとゴブリンを片付け、放心状態の二人へと歩み寄る。

「もしもし? 大丈夫ですか?」

 う~ん……精神錯乱とか放心状態って、リセットでどうにか出来るのかな? どの状態まで戻せばいいのか分かんないや。そもそもどうしてこんな事になったのかも分からないし。

 そうだ!!

「アイギス、みんなを呼んで来てくれる?」
『にゃあ!』

 アイギスは返事(?)と同時にコクリと頷き、街道の方へと走り去って行った。ホント、賢い子ね。でも後で一言言っておかないと。一人で走って行っちゃだめって。

 しばらく待つと、アイギスがみんなを連れてきてくれた。放心状態だった二人はそのまま気を失ってしまったので、その場に寝かせている。取り敢えずヒメに治癒魔法をかけて貰おう。

「全く……突然走り出したと思えば何やらアイギスが私達を引っ張って来るし。シルトに何かあったのかと思って心配したよ。それでこれはどういう状況なんだい?」

 メッサーさんが半ば呆れ顔であたし達を窘める。
 えへへ……みんなごめんなさい。あたしがアイギスを心配したみたいに、みんなもあたしを心配してくれてたんだね。

 それであたしは、今に至るまでの状況を説明した。
 この二人がゴブリンに襲われていた事。おそらくアイギスはそれを察して走り出した事。

「あたしがアイギスに追い付いた時には、アイギスがこの人達を守る様に立ち塞がってたので、アイギスと一緒にゴブリンをやっつけました。討ち漏らしはないと思います。ただ、見つけた時には放心状態だった二人は、あたし達が戦闘を終えたあと、気を失ってしまったんです」

 すると、メッサーさんは顎に手を当てて何やら考え込み始めた。

「シルトの魔力視では、ゴブリンがいるのは分からなかったんだね?」

 魔力視は、見ている方向の魔力しか視え(・・)ない。横や後ろはそっちの方向を意図して見ないと視え(・・)ないのよね。
 街道から逸れた森の中までは注視していなかった、あたしのミスと言えばそうかもしれない。

「となると、アイギスの索敵能力はとんでもない範囲に及ぶという事になるね」

 それでも、あたしの魔力視のスキルによって、肉眼では確認できない敵の存在を幾度も見つけてきたの事実。
 その事を考えれば、メッサーさんの言葉の言うように、アイギスの索敵能力は恐るべき高性能って事よね。
 
 すると、レン君が感嘆したように大声を出してアイギスに駆け寄る。アイギス、ちょっとビクッってしたわね。

「お前、すげえな! 全方位レーダー装備かよ!」

 え? 何ソレ? ぜんほういれーだー?

「前の世界にあったものさ。レーダーってのはまあ、ある対象を探知するもんだな。アイギスの場合、聴覚か嗅覚か分からねえが、目に頼ってないって事だろ? それはつまり、前後左右のみならず、空や地面からの襲撃にも対応出来るって事だ。全く、すげえ高性能だな、お前」

 レン君に撫でられ、気持ち良さそうなアイギスにご褒美の干し肉をあげたら喜んで食べている。可愛い。

「ほう、そう言われると確かに凄い事だね。アイギスといる限り、私達は奇襲を受ける可能性がかなり低くなる訳だ」

 えーと、あたしの魔力視ってもういらない子?

「ははは、おバカだなあ、シルトは。シルトに魔力視があるから、ボク達は敵に魔法使いがいても無双出来るんじゃないか」

 ああ、そうか! 集まった魔力を散らせるのはリセットの力だけど、肝心の魔力が視えないと出来ない事だもんね! ありがとう、お姉ちゃん!

「あの、お二人が……」

 気を失った二人に治癒魔法を掛けていたヒメが声を掛けて来た。どうやら二人が目覚めたみたい。

「あれ? ……あの、私達は一体……?」
「うん、お姉さん達、ゴブリンに襲われてたでしょ? そこをあの黒豹のアイギスが見つけて助けたの」

 お姉さん達二人は状況を思い出し、そしてアイギスに目をやりビクリと怯える。レン君に撫でられながら、食後の毛繕いをしている可愛いアイギスを見て怯えるなんて失礼ね!

「大丈夫です! アイギスはあたしがテイムした従魔ですから!」
「あ、あの、ごめんなさい……」

 しまった! ちょっと口調がきつかったわね。ヒメ、バトンタッチ!

 仕方ありませんね、といった呆れ笑いを浮かべてヒメは二人に向き直り、優しい口調で事情を聞き始めた。

「そもそもあなた方はこのような森の中で何をしていたのですか? 衣服が乱れていた他は軽い傷がある程度でしたが」

 そんなヒメの質問に、お姉さんのうちの一人が意を決したように話し始めた。
 どうやら、彼女達二人は冒険者ギルドの求人依頼を見て、迷宮街のギルド支所で給仕のお仕事をしようと迷宮街へ向かっていたらしい。

「護衛も連れずにですか? 失礼ですが、あなた方には武術の心得がある様には見えませんが」

 そう、ヒメの言う通りなのよね。領都から迷宮街までは、森を切り開いて道が敷かれたとは言え、魔物がうろついている危険な道程。それも片道で二日はかかる。そこを女二人でというのは無謀にすぎる。

「はい、ですのでギルドが斡旋してくれた男性三名のパーティが護衛として付いてきてくれていたのですが……その……」

 そこまで言って言い淀むお姉さん。するともう一人の、気の強そうなお姉さんが続けた。

「無理矢理あたし達と関係しようと迫ってきたのさ! あたし達はそんな安い女じゃない! 関係を断ったら、今度は腕ずくでいう事を聞かせようとしてきたから逃げ出したのさ!」
「そうしたら森で迷ってしまい……ゴブリンの群れに見つかりまして。ゴブリンに引き摺られるようにして連れていかれる所だったんです」

 なるほどねえ……でもその三人組の冒険者ってどうしたのかな。ここまで来る途中、それらしきパーティとはすれ違わなかったけど。

「おそらく領都のギルドに戻って報告に行ったんじゃないかな? 依頼は未達成って。言い訳はどうとでもなるだろうしね。目を離した隙に森へ消えたとかなんとか。それに森に入った一般女性が生きて帰るとも思っていないんだろう」
 
 あたしの疑問に答える様に、お姉ちゃんが推論を述べてくれた。となると、ギルドへ行けば犯人はすぐ分かりそうね。

「それじゃあ二人は私達が護衛するから、領都のギルドまで同行してもらえるかな? 私達は冒険者三人組の顔も知らないし、そもそも斡旋してきた受付も怪しいと思う」

 お姉さんたちにすれば、目的地の迷宮街とは逆に戻っちゃう事になるけど、クズ冒険者を放っておく訳にはいかないもんね。

「わかりました。ではギルドまで護衛をお願い致します。ですが報酬の方は……」

「ああ、いらないいらない! あたし達もギルドに用事があるからついでだよ! でもただ働きは今回だけだよ!?」

 心配そうなお姉さん二人に向かって、あたしはおどけたように声をかけた。それに同意しるようにアイギスも鳴き声をあげる。

『うにゃあ!』

 そのアイギスの鳴き声で、取り巻く空気が和らいだ。そこでようやく二人が近寄って来て。

「「助けてくれてありがとう」」
『ゴロゴロ……』

 お礼を言われて嬉しそうに喉を鳴らすアイギスだった。

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